第8話 正義の魔導士
王様が公衆の面前で先生を処刑すると言ったのは、すぐに俺たちの耳に入った。最初はそんなのは噂程度のことで、さすがにそんな無茶はするはずがないと思っていた。
しかし、その噂は本当だと確信した。現に先生は戻ってこなかったからだ。
彼女は泣いていた。俺たち二人も泣きたいほどの絶望だったが、彼女があまりにも取り乱すものだから、俺たちは泣くことも忘れていた。
「いやぁぁ! 先生は悪くない! こんなことなら無理やりにでもさらって逃げればよかった!」
普段は冷静な彼女の取り乱しようを見て、俺たちは男としてやるべき義務がある思った。
そうだ、俺たちは正義の魔導士だ。でもたった二人で何ができる? 結局返り討ちだ。ならば一か八か試すべきだろうか、成功したら王様も考えを改めるだろうか。いや、そもそも奴らはこの魔法を戦争に利用しようとしている。
……つまり悪だ、許すつもりはない。結論は出たと、声を出そうとしたとき、相棒も俺を見ながら頷いた。
「僕は覚悟を決めたよ、例の魔法、あと一歩のところまでできてるじゃない。もしかしたら僕たち二人でできるだけ魔力を重ねればうまくいくんじゃない?」
そう、俺が言おうとしたことだ、けど改めて人に言われて気づいた、いずれにせよ理論上は失敗する確率の方が高いのだ。……急に冷静になってしまった。くそっ、時間がない、こうしてる間にも先生は処刑されてしまうかもしれないのに。
落ち着け、俺たちは魔導士だ、頭は常に冷静であるべき、なんとか解決策を導き出さねば。
「俺も同じことを言おうとしてた。けど、知ってるだろう? たぶん、いや絶対失敗する。魔力の問題じゃない、術式に穴があるんだ、先生もそこが分からないって言ってたし……」
と、俺たち二人は、現実逃避するかのように、魔法の問題点を議論しだした。そう、平穏なときだったらこれが楽しかったんだけど、今は……
しばらくしたら、彼女は泣き止んだのか、冷静に俺たちの会話に加わった。
「なら三人でやりましょう、私は正義とか興味ない。けど先生は助けたい。だから一つ保険をかけましょう、あなた達は成功することに全てをかけて魔法を発動させる。
私は、失敗したときに備え、例え自我を失った状態でも自分のやるべきことだけを実行できるように術式に追加の呪縛を掛けておく。そしたら皆、気兼ねなくできるでしょう?」
「おい、それって、失敗前提で……結局死ぬんだぞ! いいのか? お前は先生に……」
「僕は賛成する、それでも多分、いや君は自我を失っても確実に迷うことなく先生を助けにいくだろう? ならそれに賭けてみるよ」
「ありがとう。もし失敗してもあなたたちは先生を助けるために悪党どもを倒してくれるでしょ。でもそれは失敗したらの話よ。
それに、あなたたちは正義のコンビでしょ? 互いの魔力の親和性は双子の魔法使いでも不可能な領域よ、それは先生でもできなかった可能性の一つでしょ? 悔しいけど私にはそれを手伝えないから。
あくまで保険程度、私だって生きて先生に会いたいのよ」
言われてしまった。いや、らしくなかった、普段なら俺が考えなしに突っ込んで、それを
きっとできるさ、術式に穴があるなら魔力で埋める。例え自我を失ってしまっても、何度でも思い出すように魔力を放出し続ける!
俺が覚悟を決めたのを確認すると相棒は俺に言った。
「やあ、やっと君らしくなってきたね、君はそんな熱血漢な感じが似合ってるよ、そもそも冷静な分析は僕の役目なんだよ。
じゃあ、みんないくよ―—」
―—魔法は発動した。
溢れんばかりの魔力の光はやがて巨大な魔法陣を築き、研究室のフロアを埋め尽くした。
不死の魔法、今まではモルモットを使った実験しかやってこなかった。しかし追い詰められた彼らは自身が実験体になり、成功という結果を公の場で示すこと、あるいはその不死の力で先生を助けようとした。
もっと他にやり方はあった。それこそ政治的にうまく立ち回るべきだったのだが。
しかし彼らは皆、天才と呼ばれる魔法使いであり、それゆえに魔法の完成をもってして正しさを証明する事こそが全てであったのだろう。
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