第7話 弟子たちの思い
――そして、数年が経ち、研究は順調に進んでいたが。やはりあと一歩のところで完成にはたどり着かなかった。その一歩がはるか高くそびえる山のようにも思えた。焦りとあきらめが彼らの心を支配しようとしていたころ。
弟子たち三人だけの話し合いが行われていた。ちなみに彼らは卒業後、正式に王国の研究員としてこの研究所に再配属されていた。
当然、彼らが嫌う、いわゆる政治的な話も彼らの仕事の一部になっていたのだった。
「なあ、上の連中、俺たちの研究を何か良からぬことに使おうとしてないか? 最近この研究室にやたら、軍部のお偉いさんや、大臣連中が来てるよな」
「いや、さすがに具体的な内容までは知らないんじゃないか? 第一、僕たちにそんな密告するやつはいないはずだ、君はなにか心当たりがあるかい?」
「なによ、私は先生との約束を破ったことはないわ。でも、そうね、最近、定例会議から帰った後の先生は何か頭を抱えていたわね」
「そうか、先生はお人よしだから……。きっと誘導尋問をされて、研究内容をかぎつけられたんじゃないか?」
――そう、彼らは、まだ未完成だとか、使用したら命に係わるとか、そういいながらも、研究の一端をごまかしながら上に報告していたのだ。
しかし、ある程度研究が進むと、未完成であろうがその内容から有効であろう使い方、例え人道から外れようともそれを思いつく者はいるのだ。
「おそらく隣国との戦争に使いたいとかそんなとこだろうな、最近は軍への予算が増額されたとか聞いたぜ」
「なら逃げましょうよ。この国の政治に付きあう必要なんてないじゃない。第一、こんなのは私たちは望んでない。
いっそのこと先生を連れて、いえ、この際、無理やりにでもさらって……」
「……うん、それもありだよ、でもその後は二度と同じような研究はできないよ、それにいくら最悪な国でも、ここは世界一の研究室には変わりないんだし、経費だってかなりもらってる。
何より、今の研究は他所では許可は下りないと思うよ」
「俺も、それには同意だ、第一、俺たちはこんな悪党達から逃げたくない。正面からぶつかるのが正義の魔導士の在り方だ。
……でもお前は逃げてもいいんじゃないか?」
「それは僕も全面的に賛成、先生をさらってでもってのには感動したよ、君はそうすべきだと思うよ」
二人は互いに、にやけながら彼女を見た。
「こんなときにふざけないで!
……いいえ、ありがとう。でも戦争まではまだ時間があるはず、逃げるかどうかはその時に考えましょう。もう少しで研究も完成するかもしれないし」
もちろん、国家としては自国の利益のために他国に攻め込むこともある。それは正義でもあり悪でもある。
多少の汚職や、己の利益のために動く権力者もいる。
いくら国を悪く言っても、地位や名誉、潤沢な予算を与えられた彼らの研究室は、傍から見れば何が不満なのかと問い詰めたくなる。
だが彼らはそういったものを知らない。いい意味でも悪い意味でも純粋な魔法使いなのだ。
世間知らずで理想を追い求めるだけの学生のまま大人になったのである。
だから彼らのいう正義の魔導士とは、彼らが唯一尊敬する先生のためにあり、それを邪魔する者たちは悪であると実に幼稚な結論に至ったのだった。
――だから、彼らは暴走した。
切っ掛けは、いつまでもうやむやにされた報告書を見て王様が激怒したことから始まった。
「この無能のごくつぶしが! もういい! 貴様は処刑だ!」
もちろん、だからといって王様の一存で処刑などできないし、王様も本気で言ったわけではない。一時の感情のままに叫んだだけだった。
しかしながら当面は謹慎処分として彼は幽閉された。牢屋とはいっても貴族や将校向けの割と緩めの、普通の客室で、あえて言えば外からしか施錠が出来ない程度のものであったが。
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