第4話 僕の思い出を語る

 僕たちは相変わらず、ダンジョンを広げる作業をしていた。誰かといると退屈な作業もはかどるし、自然と面と向かって話さないので、お互い堅苦しくならないから好きだった。


「そういえば、その異世界殿とはどういった方なのだ? 魔法の技術の素晴らしさもさることながら、その人となりにも興味がわいてな、ぜひ聞かせてくれないだろうか」


 リッチさんは、作業中のロボさんを見ながら、何か考えをめぐらしながら会話を続けた。


「それにしても、正体を知らなければまったくの人間にしか見えない。そう道具として扱うにはばかられるくらいにな、異世界殿の魔法技術の素晴らしさか。私は魔導人形に関しては専門外だが、それくらいは理解できる。しかも一切の魔力供給なしに自立していると聞いた時には驚愕したものだ、私はてっきり、君が操作しているのだと思っていたからな」


 そういいながら、リッチさんは懐からワンドを取り出し、それとロボさんとを交互に見ながら感心して語っていた。


 最近気づいたのは、リッチさんは自分の来ている服や装飾品以外は、この年季の入ったワンドしか持っていなかった。


 リッチさんは僕の知る限りこれを使ったことはなかったので、何か特別な用途でもあるのだろうか。


 ただ、とても丁寧に扱っているので、大事な物だとはわかる。道具というよりは装飾品に近いのだろう。

 

「道具と言えば、僕のスコップは正真正銘の道具ですよ。これも異世界さんからもらいました。これがあればどんな岩だろうと難なく掘り進めることができます。すごいでしょ」


 初めて異世界さんに貰った道具だった。おかげで僕は今でも問題なくダンジョンを掘ることができる。


「うむ、それもそうだったか、それには魔力を感じなかったから、単純に君がとてつもない怪力なのかと思ったが、なるほどそれも異世界殿の……」

 

「あ、異世界さんの話でしたね、異世界さんとは上の階層で出会ったんですよ。今は大森林ですけど昔はただの洞窟でしたっけ」


 ――彼らがいるダンジョンの上の階層は大森林と呼ばれ、下手な小国を丸ごと治めるくらいの広さがあったが、もともとはただの洞窟であった。

 つまり大森林は地下1階にあり、今いる場所はダンジョンは地下2階というわけである。ちなみに外の世界への出口は大森林の上空の縦穴しかなく、その外観は火山の噴火口に見えた。


「でも出会ったはかなり昔のことで……、うーんごめんなさい、急には思い出せそうにないです。ただ、洞窟だったここに家を作ったり、色々とやったんですけど……。

あ、そうだ、しばらくして、異世界さんは病気になってしばらく寝込むことがあったんですよ。僕は知識がなかったので何もできませんでした。もちろん食べ物とかは準備しましたけど、それ以外は全くでした」


 僕は料理ができなかった、味付けとかの意味が全く分からないので異世界さんには厨房に立つなとか言われたっけ。


「なるほど、それで異世界殿は亡くなったと……」


 さすがに料理で死なないと思う、しかし異世界さんの絶望したような顔は初めて見た。


「いえいえ、異世界さんはすぐに良くなりましたよ、でもその後は何か決意したのか、しばらくは家に籠るようになり、それでロボさんができたんでしたっけ?」


 僕は曖昧な記憶を手繰り寄せながらロボさんを見た。


「はい、改めて私について自己紹介させていただきます。

 私はマスターの老後を何不自由なくサポートするために創造されました。

 料理などの家事一般、医療、介護などの基本技能の他に、一通りのコミュニケーション能力、さらに足りない技能に関しては学習によりある程度の習得が可能です。

 私自身は魔法で動いていますが、これといって魔法は使用できません。

 外装は人間の女性がベースとしてデザインされています。ちなみにこのメイド服はマスターの趣味です」


 ここでいうマスターとは異世界さんのことだ、僕の趣味ではない。でも似合ってるからそのままにしているだけだ。


 ――本来ロボットである彼女が服を着るのは意味がない。それどころかデメリットでしかない。しかしデザイン上、服を着ないと色々マズいのだ。


 そういえば、異世界さんはこう言っていた、外見は大事だと、ペッパーみたいな奴に自分の面倒見てもらって何が嬉しいのかと。


 ペッパーが何なのかは分からなかったけど、異世界さんがとても真剣に語っていたのを思い出した。


 僕が異世界さんに関して記憶をたどっていると、リッチさんはロボさんに質問をした。


「質問をいいか? 君は戦闘に関しての能力はあるのか?」


「いいえ、戦闘に関しては皆無と言っていいでしょう。腕力はこの体格ですし平均的な成人男性よりやや上といったところでしょうか」


 リッチさんは少し疑問に思いながらロボさんの下腹部、つまりメイド服のエプロンの辺りに視線を送った。そこにはエプロンと同じ白色の大きな半月の形をしたポケットがあった。


「ああ、これですか、失礼しました。これはマスターが作った魔道具で、『異次元ポッケ』です。

 まるで異次元かと思うくらい収納力のある魔法のポケットですが、もちろん無限に収納はできません。

 物が多くなっただけ魔力の消費量が多くなるので用途としてはせいぜい加工済みの石材か道具をしまうくらいしかできません、戦闘に使う物ではありませんのでご安心ください」


 突然『異次元ポッケ』の部分だけダミ声になったロボさんを見てリッチさんはやや戸惑った。そのやり取りを見て、僕はまた思い出した。


 それはロボさんが生まれて間もないころ。


 異世界さんはこのポケットをロボさんに渡すと、今まで聞いたことのない、やや高音のダミ声で『異次元ポッケ!』と叫んだのだ。 

  

 自分が知ってる中で最も優れた猫型ロボットがつけていたものを真似てみたと、ちなみにそのポケットは無限の収納が出来たそうだ。


 ロボさんはただ、異世界さんのダミ声を再現しただけなので、いたって真面目な顔をしている。

 

「そ、そうか、それでも十分にすごいものだと思うが。……さて、実は他にも聞きたいことがある。

そう、君のメイド服にはまだ秘密があるね、具体的にはスカートの中に興味がある」


 そういうと、リッチさんはやや慌てて懐からワンドを取り出し、独り言を始めたかと思うと、再び話をつづけた。


「いや、失礼、誤解があるといけないから補足させてくれ、君のスカートの中には、そう、このワンドのような武器が隠してあるんじゃないのか?」


 ロボさんは、それを聞くと、スカートをたくし上げ。その中に手を入れると、ある物を取り出した。


「はぁ、最初は何をおっしゃるのかと理解できませんでしたが。これですか? これはそうですね……

 拳銃の様な物です、安心してくださいこれは防御用の道具ですので」


 ロボさんはそう言ってるけど、あれは武器なんじゃないかと思う。


 だって前にも使ってるところを見たけど相手は怖がってたし、当たったらたぶん痛いと思う。でもロボさんはその辺は頑なに否定するからそうなんだろうなって思うことにした。


「これは、大きな音はしますがそれだけですよ、第一これで誰かを攻撃できたことはありませんし。そのワンドと比べれば大したことはないですよ」


 リッチさんの持っているワンドは禍々しいどす黒いオーラを放っていた。それこそが魔法の武器と言えるだろう。それに比べれば大したことはなさそうに見える。


 リッチさんはワンドを見ながら、何やら考え込むような表情で納得したのでした。


 話が脱線したので僕はまた、別の話題をリッチさんに振ることにした。


「そういえば、異世界さんは外の世界では有名人だったんでしょ? その辺リッチさんのが詳しいんじゃないですか?」


 異世界さんは、この地で天寿を全うした。思い出はたくさんあるけど、まだ記憶があいまいなので、思い出したときにはもっと詳しく話したいと思った。

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