第5話 リッチさん昔話をする

 僕とリッチさん、ロボさんは相変わらずダンジョンを作っていた。

 

 僕が穴を掘って、ロボさんが石材を作り、リッチさんがそれを組み立てる、あと、テレポートの宝箱も順調に設置していった。


 僕は異世界さんと出会う前の外の世界での話を聞いていた。


「異世界殿……、もはやこの言い方で慣れてしまったが、私の知る限りでは最初はただの冒険者だったが、ある日突然、神託を受け勇者となったそうだ。

 まあ、私も子供の頃に聴いたことがある童話の中での話だから、ありきたりな英雄譚だよ――」


 僕が異世界さんに会ったときは自分はもうおじさんだと言って、若いころの話をしなかった。 

 だから、例え童話とはいえ、彼の話を聞けてよかった。


「ちなみに、物語では作者によって、彼は剣士だったり、魔法使いだったりと設定に統一性がなかった。子供たちの間ではどちらが正しいかで喧嘩になるくらいだったよ。

 ちなみに私は魔法使い派だった。なぜなら馬がいない馬車に乗って旅立ったとか、不思議な魔法道具をたくさん持っていたとかあるからね。

 しかし、今、この場所で正解を知れて嬉しいよ、子供の頃の論争に決着がついたからね」


 そうだ異世界さんは魔法使いだ。剣を持ってるところは見たことがない。


「しかし、肝心なところは、魔王から世界を救った後は、なんの報酬も得ずに、人知れず立ち去ったそうだ。

 その後の解釈はいろいろあってな、人類の権力闘争に呆れて世捨て人になったのだ、というのが有力な説だが……」

 そんな話は聞いたことがない。いつだって異世界さんは楽しそうに何か作ってた。でも考えてみたら彼が何を思って。

 一人でこの場所に来たのかは僕は知らなかった。何か嫌なことでもあったのだろうか。答えは分からなかった。


 少しだけ気を落とした僕を察したのか。リッチさんは話題を変えた。


「ところで、そのスコップは改めて見るとものすごい性能だな、異世界殿の偉大さがこれだけでも伝わってくるよ」


 リッチさんは最初はロボさんに興味を示していたが、次はこのスコップに注目をしてきた。たしかに土どころか岩石だって掘れる。

 僕は当たり前だと思ってたけど外の世界では実はすごいものだったのかも。


 ちなみにこのスコップは異次元ポッケと連動しており、掘った物質は何であれ異次元ポッケに収納される。

 もちろん、スコップにより収納された物質は別の空間に入るので、他の物とは混ざらない。

 収納できる量は有限であり、ある程度たまると外に捨てに行く必要がある。

 

「はい、これのおかげで、僕はずっとダンジョンを掘る作業をしてきました。もちろん手作業ですからゆっくりとですけど。今では結構広くなったと思いますよ。」


「たしか、この上は、ダンジョン内なのに大きな森林があったな。下手をすると小さな国くらいの面積はあるんじゃないかな?」


 ――上の階層の大森林は地下に作られており、現在位置が地下二階、大森林は地下一階である。


「ちなみに大森林はエルフさんが作ったんですよ。その前はずっと狭いただの洞窟でした。その時は、ゴブリンの王様とかアラクネさんがいましたね」


 そう、このダンジョンも大森林もいろんな人たちが居たからできたのだと、少し懐かしくなった。


 まあ、今はその話よりも、リッチさんのお話が聞きたくなったので。僕たちのことはいずれ話すと約束してから話を振った。


「そうか、ではそうだな……。私の人生どこから話したものか。今のこの体になったのは、君との出会いと同時期だから、やはり生前の話をすべきだろうかな」


 そういうとリッチさんは遠くを見つめながら昔話を始めた。


「私は、ただの魔法使いだった。多少は素質があったのか、いや今にして思えば誤差に過ぎないが、一応は魔法学院で主席にはなっていたよ」


「へえ、そのときは何に夢中になってたんですか? 趣味とかお聞きしたいです」


「夢中になること……そうだな、当時の私はただの子供だった。とにかく魔法が好きで、いろんな魔法に関する本を読んではそれを試すことがすべてだった。たぶんそれだけで楽しかったんだよ。」


「当時は、とか、たぶん楽しかったと言ってますけど、今は違うんですか?」


 リッチさんは後悔でもあるかのように、昔の自分を否定しているような口振りだった。


「もちろん今だって魔法は好きだが、あの頃ほどの無垢な気持ちではいられないな」


 リッチさんは過去を振り返りながら、愛用のワンドを懐から取り出し、それをもてあそびながら話を続けた。


「いや、厳密には私が魔法学院で教授になった頃か、あの頃から研究は進捗せずに、次第に情熱は衰え今後は後進に道を教えるのもよいのかもと悩んでいたのさ。

 しかも、わたしが夢中になって研究した魔法は人を殺すことに応用されて行ってな、世界の悪になってないかと思い始めてな、たぶん病んでいたんだと思うよ。」


「ところで、リッチさんは何の魔法を研究をしていたんですか?」


 どうも、物騒な話になりそうな予感がしたので僕はあらかじめ聞いておくことにした。


「……うむ、まあ、一言でいうと人を死なせないようにする魔法だ」


 本当に一言で言い切った。あまり詳しく話たくないのだろうか……。


「……それだけですか? 強力な攻撃魔法とか作ってるんだと思いました。

 でもそれがなんで人殺しに利用できるんですか?」


「そうだな、死なせない魔法はあくまで最終目標であって、実際は今も完成してないんだ。私の姿を見ればわかるだろうか、私は人かね?どう見ても化け物だよ。

 ……まさか、私がこの姿で生まれたと思ってるんじゃないだろうな?」


 ごめんなさい、今までの回想シーンは全部、今のリッチさんの姿で思い描いてました。


「まあ、というわけで、術は未完成だ、だが途中までの研究成果が当時、私が所属していた王国の軍部に知られてな。

 死体を蘇らせる方法、とはいっても死人が生き返る訳がない。それはただ本能のままに動く化け物だ、ゾンビと言ったかな、これを使うというのは故人はおろか遺族に対する冒とく以外の何物でもない。

 だが、王国は戦争には使えると判断したのだろう」


 僕はロボさんがこのダンジョンにアンデッドを設置しようと提案したときに、リッチさんは強く否定したのを思い出した。


 ロボさんも、彼の言葉を噛み締めているのだろうか、表情は相変わらず変わらないがなんとなく僕は彼女の感情が分かるようになっていた。


 ロボさんは深く考えるときは瞳の奥に見える僅かな光が高速に点滅するのだ。

 複雑な情報の処理で、負荷がかかる場合に起こるといってたっけ。


 ちなみに今みたいなことが起こると、ロボさんは全身が発熱する。下手をすると頭が爆発することがあった。

 もちろんそれは昔の話で今はそんなことにはならない。


 熱くなったら、全身の皮膚から冷却水が出るようになっているため問題ないのだ。

 ロボットだって汗をかく、異世界さんは誇らしげに僕に言ってたっけ。 


 でも、このままロボさんに今の思考を続けさせるのは酷だと思ったので、それとなく話題を変えた。死者の人権とかは僕だってわからない。


 リッチさんは悩んだ末、それはいけないとことだと結論したんだから。 


「なるほど、ではそれで魔法が嫌いになってしまったんですか?」


「いや、さっきも言ったがそれでも当時の私は純粋に魔法が好きだった。その気持ちを嘘偽りなく当時の国王には伝えたさ、今の魔法はよくないなと」


「へえ、王様はなんて言ったんですか?」


「王は言ったよ、『それはすまないことをした、君の望まないことを世のためといって無理強いしたのだろう、そうだな、君には休みを取らせよう、教師も代わりを探すさ……。

 ああ、そうだ、どうせなら、君のやりたかった研究だけに集中するというのはどうだろうか、あきらめかけていたそうじゃないか。

 一人でだめなら、そうさな、君の教え子で卒業予定の優秀なのが3人いたじゃないか。彼らとチームを組んで、それに没頭するのも悪くないのではないか?』

 それを聞いて私は、落ち込んでいた心にわずかだが光がさしたよう気がした。

 悪くない話だと、いや、すばらしいご提案です、ぜひそうさせてください。といった感じでな」


 リッチさんはやや皮肉気に肩を竦めながらそう言った。


「いい王様じゃないですか。」


「ああ、初めて彼をそう思ったよ。いや今まではそんなに他人には興味はもたなかったが、はっきりと記憶に残るくらいの出来事だったな。

 それからは、私は優秀な3人の弟子と、私の悲願だった例の研究に没頭することになった」

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