第3話 リッチさんのテレポーター
僕たちは順調にダンジョンを広げていった。しかし、いや、やはりというべきかリッチさんは僕とロボさんに言った。
「なあ、すまない、やはり、この無駄な部屋数と迷路のような通路はどうにかならないか。いや、異世界殿を否定している訳ではないのだが……」
僕は、リッチさんには否定も肯定もしなかった。しかしリッチさんの意見は正しい。でもこの作業があるから退屈しないで過ごせるので特に問題ないように思えた。
「リッチ様、やはりそうお考えですね。ある程度このダンジョンも広くなったことですし。そろそろダンジョンの機能を追加していきたいと思います」
ロボさんは以前から、ダンジョンには罠がついた宝箱とモンスターが住む部屋が必要だといっており、今こそといった面持ちで僕たちに説明を始めた。
「まず、モンスターがいる部屋ですが、いろんな課題があり無理です。そもそも、部屋に生き物を閉じ込めることは不可能です。私のような介護用ロボットが何体も必要となってしまいます。
さらに、大量の食糧と、運動場、下水の施設を部屋単位で設置するのは現実的ではありません。第一に、それはダンジョンの美観を壊します。」
それは僕も同意だった、モンスターっていっても生きてるから、何もない部屋に閉じ込めるのは無理だろう、それだったら上の階層の大森林にでも住んでもらった方がずっといい。
そもそも、モンスターってどこから連れてくるんだろう。問題だらけだなと、ロボさんの話を聞きながらうなずくのだった。
「そこで代案ですが、スケルトン等の自立型のアンデットはどうでしょうか」
「それは無理だな。スケルトンは死んだ人間の骨が必要だし、そもそも、その魔法は使えない。いや正確には使いたくないな、死者に対する冒とくだろうよ」
リッチさんがため息交じりにそう言うと、ロボさんはすぐさま。
「それは失礼しました。死者への冒涜は私の存在意義からも逸脱しています。今の発言は撤回します、申し訳ございません」
少し気まずい空気かな、僕はそっと話題を変えることにした。
「なら、宝箱を置きましょうよ。よくわからないけど部屋には一つずつ置いておくんだっけ?」
「はい、宝箱なら現実的だと思います。ですがやはりこれもいくつかの課題があります。
まず、罠を設置する以前に、宝箱であるからには、なにかそれなりの中身を入れないといけないと思います」
そういってロボさんは、僕とリッチさんに交互に視線を送った。
「僕は、そうだなぁ、上の階層の森で薬草が取れたよね?それで色んな物が作れるよ、前にエルフさんに教えてもらったからすぐに用意できるよ」
しかしロボさんは僕に説明しながらもそれを宝箱に入れるのを否定した。
「薬草から作ったポーションのことですね。その価値は否定しませんが、その効能には期限があります。期限が切れたものはただの腐った水になるか、あるいは未知の毒になってしまいます」
たしかに、賞味期限があったなぁ。そんなのを箱に入れたままにするのはダメか。ならエルフさんから預かった弓矢とかどうかな、いや、あれは国宝らしいので大事にしないと。
そう、考えていたらリッチさんは言った。
「今さらすまないが、なぜ、わざわざ、これらの小部屋に設置する宝箱にそれなりの物品を入れる必要があるのだ?大事なものは常に手元に持っておくものだろう」
そういうとリッチさんは、懐から随分と年季を感じさせるワンド――指揮棒程度の長さの魔法の杖――を取り出し、しばらく見つめながら大事そうに元の場所にしまった。
ロボさんは黙り込んでしまった。どうもダンジョンの在り方についてはロボさん自身も実は懐疑的であるのか、なにか矛盾に感じることが起きると度々長考するのであった。
これは、すべてロボさんの製作者である異世界さんによって引き起こした曖昧なダンジョン像によるものだった。
僕だって思う、大事なものは手元に置かないとって。
「メイド殿、私のためにダンジョンを作ってくれているのは嬉しいが、私は外部の人間を招くのは反対だ。第一、せっかく人間社会から隔絶された場所を見つけたのだ。だからそうだな、宝箱には何も入れないでいいんじゃないか? あくまでそれっぽい美観を維持できればよいのだろう」
ロボさんは、その言葉を聞き。
「リッチ様がそうおっしゃるなら、そうしましょう。宝箱なら、すぐに用意できますので何も問題ありません」
ロボさんはたまに異世界さんの謎の語録や知識によって、おかしくなることがある。
今回の謎のダンジョン像もそれだ。でもリッチさんのおかげで今回は何とかなりそうだ。
でも、空の宝箱を置くのに何の意味があるのか。そもそも、仮に中身が充実していても意味が分からない。
見つけた人はうれしいだろうけど。住んでる人からすればなんでそうするのかはいくら考えても理解できなかった。
「ふむ、だが、ここまで立派なダンジョンだと、いずれ冒険者に見つかり、探索されてしまうだろうな。私としてはだれも傷つけずに追い出したいところだが」
僕もそれには賛成だ。でもリッチさんからそれを聞くのは少し意外だった。生命に対する憎しみとかそういうのは無いみたいだった。
アンデッドに対する僕の考えはただの偏見なのかと思い知らされた。
リッチさんの方針にロボさんも賛同したのか。
「では、このダンジョンに来られた方々にはがっかりさせてしまいますが。テレポートの魔法を使って追い返す罠を設置しましょう」
「ふむ、テレポートか、それなら誰も傷つけることはなくダンジョンの入り口に送り返すことができる。 しかし、問題はゲートをどこに作るかだが……。さすがにこの迷路でゲートとなると場所選びが重要だし、私とて、無尽蔵に魔力があるわけでもない。しかもいつ来るかもわからない冒険者のために常時設置するのは現実的ではないしな……」
またしても、問題が発生した。僕は魔法は使えないから、その辺のことはよくわからずにとりあえず思いついたことを二人に話した。
「なら、宝箱にテレポートの魔法を込めた魔石を入れておいて、開けたら発動するというのはどうですか? 冒険者さんは宝箱を目的にここに来るはずですよね?」
リッチさんはしばらく考えた後、何か閃いたのか。
「なるほど、それはいけるかもしれないな。だが魔石は貴重だし発動のタイミングの設定が難しい。だから少し君の案を修正しよう。宝箱そのものに魔法を封じる結界を設置し、その内側にあらかじめテレポートの魔法を掛けておくのだ。
そうすれば、宝箱を開けた瞬間に結界は破綻しテレポートの魔法は発動する、どうだろうか」
「いいですね、それでいきましょう」
僕たちは、何か、達成感のようなものを感じながら、ロボさんが作った宝箱にリッチさんが魔法を掛け、ダンジョン各部屋に次々と設置していった。
――しかし、この場にいる誰もが気づいていなかった、テレポートの魔法は発動した場所から目的の場所までを正確にイメージしないといけない。
つまり、それがなされていない場合は宝箱に封入された魔力量によって可能な範囲内でランダムに転送されてしまう。例えば石の中に飛ばされる等といった致命的な問題があった。
もちろん彼らは起動実験をしなかったわけではない。ただ彼らは全員が明確に現在の場所と目的地をイメージしていたため、このような問題など起こらず、想定できなかったのである。
つまり、皮肉なことに彼らはダンジョンで最も凶悪とされる罠【テレポーター】を生み出してしまったのだった。
願わくば、このダンジョンが誰にも知られずにいることを祈るのみである――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます