第2話 ダンジョンとはほとんどが無駄で出来ている

 ダンジョン建築作業は続いた。傍から見ると、少年が土を掘り、少女が石材を加工し、骸骨がそれを組むというなんとも奇妙な光景だっただろう。

 しかも、別に外敵から身を守るわけでもなく、財宝を隠すわけでもない、ただ作業をしながらお話したいという目的のために。


「しかし、君達はいつからこんなことを?確かに私好みではあるが、以前からこのようなダンジョンを作っていたようだが……

 少なくとも私が初めて来たときにはいくつかの部屋は完成していたな」


「ああ、それはですね、ロボさんの提案でダンジョンの基本はこれだとのことだったので、なんとなくは作ってたんですけどね。

 でもリッチさんが来たおかげでよりそれっぽいダンジョンに対する創作意欲がわいてきたんですよ。


 ――さて、ここはもうこれで終わりです。行き止まりにしますので壁で埋めてください」


「む? こんな立派な廊下なのに、というかなぜ廊下を作って行き止まりにする必要が……」


 たしかに、リッチさんは間違っていない。でもなぜかロボさんの設計では行き止まりであった。その先に穴を空ければ部屋につながるのに、でもそれが仕様だといってたので、そうなのかと思い込むようにしたが、やっぱりおかしいんだなと思った。


 僕たちの会話を聞いていたロボさんは、自分の設計を指摘されたので、補足説明を始めた。


「行き止まりなのはここで侵入者を罠に嵌めるためです。しかし、自分の家に罠とかは物騒です。あとメンテナンスが必要になります。だからといってダンジョンらしさは維持したいという妥協の結果、行き止まりにしました。

リッチ様は、このような仕様はお好みではないのですか?たしか記憶によれば、迷宮の主で……。」


 ロボさんは、かつて異世界さんから聞いた記憶から、リッチといえば、こういうのが好みであったかのような口調で説明しだした。


 曰く、ダンジョンには部屋が居つくかあり、その部屋はただモンスターがたむろしているか、宝箱が一つ置いてあったり、さらにその宝箱には罠が仕掛けられていたりと。

 

 僕は、珍しく流暢に語るロボさんに、かつての異世界さんの面影を感じながら、困惑するリッチさんとを交互に見ていたのであった。


「い、いや、私は別に好きなわけじゃないが……、ふむ、迷宮か、なるほど言われてみれば面白くはある。芸術的な価値はあるのかもしれないな」


 リッチさんは、なんとなく、ロボさんの異世界さんに対する忖度を感じ取ったのか、このダンジョンに関して肯定的な態度へと変わった。

 

「じゃあ、話はまとまったってことで、作業を始めましょうか。」


 そんなこんなで、僕たちのダンジョン創作活動はのんびりはしていたが、それなりには進んでいった。


 僕が土を掘り、ロボさんが石材を作り、リッチさんがそれを組む。理想的な作業と言えるだろう。

 

 リッチさんはさらに通路には松明っぽい光源、もちろん、松明では数時間で消えてしまうので魔石により作られたものだが、それを等間隔に設置していって、各所の明るさを確保していった。


 ロボさんはこれには感心して、リッチさんの魔石の光源に、松明っぽい装飾を追加しながら言った。


「ダンジョンに松明が灯るのはさすがに不可能だと思っていましたが。なるほど、これなら、それらしい装飾を追加することで、より世界観にマッチしますね」


 ロボさんは、暗闇でも見える目があるので特に不自由はない。だから照明の観念はなかった。


 僕もずっとここにいるのでとくには困ったことはなかった。だからこの照明器具の設置はリッチさんのお手柄かなと思った。


 でも、この照明器具はリッチさんの持ち出しなので、いいのかなと聞いたら。


「何、大丈夫だ、とはいえ手持ちの魔石はそんなにないから新たに作る必要はある。材料に関しては先ほどメイド殿に伝えておいたので量産自体は問題ない」


ロボさんもうなずいたため、これで理想のダンジョンはできるかなと思った。でも無駄に広がる通路と何もない部屋に明かりだけというのはなんの意味があるのかは疑問だった。

 あ、そうだった、罠の宝箱があればいいのか。でもそれがあっても意味は分からなかった。まあいいか、僕としてはこうしてリッチさんとお話できればいいんだから。

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