リッチさんと僕
神谷モロ
第1話 勇者は引きこもりの魔法使いとばらされる
ここは、とある大森林の地下にあるダンジョンの中、ダンジョンとはいってもまだ真新しく、いくつかの部屋には内装などは一切無く、それをつなぐ通路は迷路のように入り組んでいた。
いわゆる、昔の3Dロールプレイグゲームに出てくるダンジョンそのものであった。
唯一違いがあるとすれば、まだ未完成なのか石壁は中途半端に貼られており、ところどころ土がむき出しになっていた。
その最深部にて、ダンジョンを掘り進める二人がいた。
一人はスコップを手に持った少年と、もう一人はローブをまとった骸骨、いわゆるリッチと呼ばれるアンデッドがその隣に立っていた。
「リッチさんって引きこもりなんですか?」
僕は目の前の土を掘り進めながら、相棒であるこのリッチさんと会話をしていた。
「ぬ、いきなりな質問だな、その引きこもりという単語……意味は理解できるが何かトゲがあるような言い方だ」
僕はずいぶん前から、このダンジョンに住んでるけど、たまにリッチさんみたいに外からやってくる人
とお話するのが楽しみでした。
リッチさんは、外の世界でなにかトラブルがあったらしく、いろいろさまよった結果、このダンジョンの存在を知ったみたいでした。
彼はせっかくだからここに住みたいと言ったので、ではそれっぽいダンジョンを作りましょうと提案したことから今の作業――ダンジョンの拡張工事は始まりました。
そんな感じで僕がダンジョンを広げ、リッチさんが壁に装飾を加えるといったことをしながら、今の会話につながったのでした。
「引きこもりっていうのは、異世界さんから教えてもらったんですよ。異世界さんもここに来る前は引きこもりだったようですよ」
会話の内容は、引きこもりとは何なのかについてでした。
「……ふむ、異世界さんとは前に話していた、異世界から転生したという伝説の勇者殿か?」
「そうです、異世界さんは転生前の世界では引きこもりだと言っていました。常に自分の部屋に潜んで、今のリッチさんみたいに創作活動をされてたようですよ」
「なるほど、かの御仁も私とおなじく魔道の求道者だったのだな」
リッチさんは、生前は魔術学院の先生だったそうで、子供のころから魔法使いとしての才能があったそうです。
「そういえば前世では30歳になったときに魔法使いになったといっていましたから、リッチさんとは少し違うみたいですね」
あ、しまった、異世界さんの過去、つまり前世は黒い歴史だから、だれにも話すなっていってたっけ。
思い出したくない恥ずかしい過去で軽蔑されるとかなんとか。
でも、リッチさんの反応は思ったよりも高評価だった。
「なんと、30歳で魔法使いに?私の知る限り幼児期に魔力を発現しないものは生涯、魔法使いにはなれないと思っていたがな……そうか、かの御仁は努力したのだろう。才能とは生まれ持ったものではなく、その後の研鑽によって伝説に語られるまで至ったのか」
なにやら、リッチさんにとって異世界さんは尊敬の対象だったみたいだ。
「……ところで、君が当たり前のようにしているので聞かなかったのだが。君の後にいるメイドの姿をした……、おそらく魔導人形のようだが、それも、かの御仁が作られたのかな?」
リッチさんは僕の後で作業を手伝っている彼女を見ていった。もちろん人ではない。人の形をした魔道具、異世界さんによって創造されたロボットである。
その外見は一言で表せば美少女だった。大人とも子供ともいえない中間あたりの体格、青みがかかった銀髪はとても綺麗で人工物を思わせる。話し方は女性をベースに設計されているがもちろん性別はない。
僕は彼女のことをロボさんと呼んでいる。
「ああ、そういえば紹介してなかったですね、ロボさんは異世界さんの晩年のお世話をするために作られた万能介護用ロボットです。魔導人形っていうのが何なのかわかりませんので、同じかどうかはわからないです」
魔導人形が、魔法を動力として活動し、日常会話ができる人型の道具であるなら、そうなんだろうって思ったけど、せっかくだし僕は魔導人形について詳しく聞いた。
「魔導人形は、……そうだな、最初は戦争によって人手不足となった兵士の穴埋めに開発された。それこそ、ただ歩くだけの人形から始まり、主に敵のおとりになるのが役目だった。
研究は進み、槍を持たせたり低級の攻撃魔法が使えるようになったが、どうも精密な操作をするとなると専属の魔導士が必要になってな、結局は人手不足の解消にはならず、敵のおとりが最適解となって研究は打ち止めになったよ」
リッチさんは魔導人形に関して詳しく僕に話してくれた。そして僕はロボさんを見ながら。
「じゃあ、ロボさんは魔導人形とは全然違いますね。そもそも彼女は戦闘用ではありませんし」
リッチさんはやや考え込むそぶりを見せながら。
「……うむ、ところがだ。なぜ私が魔導人形と間違えたかというと。その後に民間に流出してしまってな、これが一部の貴族の男たちに流行して、まるで本物の質感をもたせた女性型の魔導人形にメイド服やらなにやらを着せるのが流行になった……」
相変わらず、リッチさんは考え込みながらロボさんを見ていた。
「それで介護用になったんですか?」
「……うむ、まあ、そうだな。ある意味で介護用だな。君の持っているそれと比べて特定の仕事しかできないが、これがな社会問題となったのでよく覚えている。かの御仁もそういう趣味があったのかと考えてしまってな」
趣味、いや異世界さんは単純に好みのタイプに作ったって言ってたし。それはリッチさんのいう趣味に入るのかなぁ、なにか誤解があるのかも。
僕はその趣味が何なのかは特には聞かずロボさんについての説明をすることにした。リッチさんの先ほどからの態度も気になり、あまり良い意味ではないと思えたからだ。
「趣味? が何なのかは分かりませんが、外見は異世界さんの理想だと言っていただけなのでそんなに問題はないと思いますよ?
それにロボさんは介護以外にもいろいろとできるんですよ、ほら、このダンジョンだってリッチさんが来る前から作業を手伝ってくれてました。基本的に僕は穴を掘るしかできませんからそれ以外は全部ロボさんのおかげです」
ロボさんは、その華奢な体格から力作業はあまりできなかったが手先は器用であり、ダンジョンの壁や床に敷く石材の加工は見事なものであった。
「うむ、確かに、彼女の作る石材は実際に組んでみると、針一つの隙間すらないな、これなら接着の必要もないくらいだ、実に見事な仕事だと思う。
失礼したな、あんな魔導人形と同一に見ていたことを恥ずかしく思う、申し訳ない」
リッチさんはロボさんの石材の加工技術を高く評価してくれた。ロボさんには学習機能があり、経験を積むことで介護以外の仕事もいろいろとできるようになっていたのだった。
きっと異世界さんが自分がいなくなった時を考えてのことだと思った。
「しかし、君たちを見てると実にのんびりで、ダンジョンが完成するのに何年掛かるのかと不安だ、不老不死の私でさえぞっとするぞ」
リッチさんはのんびりと言ってるけど特にその辺は気にしたことがない、たしかに手作業なので進捗は……まあ、のんびりとしていたのかもしれない、でも完成はしなくていいと思ってる。
ここで完成だと思ったらそれで完成なのだと、僕はリッチさんに言うと、少し溜息をついたようにも思えたが、まんざらでもないように作業を続けた。
「ほら、なに他人事みたいなことを言ってるんですか、今はリッチさんのお家でもあるんですから気長にやりましょうよ、のんびりでも関係ないです、お話しながらやれば退屈しませんって」
そうして、リッチさんは、しぶしぶ内壁用の石材をロボさんから受け取ると、ダンジョンの工事を黙々とこなしていくのでした。
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