自身

プリンプルちゃ

第1話

手を見てた。


スッと伸びた白い手、形の整った長い手指は自分で言うのもキレイだ。


この手でハサミを持ち、自由に仕上げたら

自由自在にデザインして。

考えただけでも口の端が上がる。


自分は、美容師として大手の美容室でトップスタイリストととして働いていた。

無理にお客に愛想笑いや無駄な話かけはしないという自分なりのやり方でお客に対応してきた。

お客に対応する時は

「今日は、髪型を変える?」

「それとも、整える?」

この二言だけだ。

新規のお客は取らないから、ほとんどのお客は後者だ。


その日は朝から雨降り。

すごい土砂降りだった。

店に着く頃には、ずぶ濡れ状態になる程

ひどい振りだった。


そのお客が来る時は、必ずと言っていいほど

雨が降る。

そのお客はウエスト辺りまである生まれつき白い髪が特徴の女性。


いつも前髪と全体的な毛先を整える、そんなスタイルだった。

だが今日に限って、「切る」と。


自分は、動揺などの喜怒哀楽的なことを表には決して出さないというスタンスでこの店に立っているが。


言われた途端に、一歩後退りしてしまった。

口は少し半開きになっていたと思う。


美容師になってから、こんな綺麗な白い髪を初めて見た。

触った時は、手が震えた。

そのお客が「切る」というのだ。


その女性が何か雑誌の切れ端を自分に渡した。

この髪型にしてもらいたいという事なのか。

「この髪型にするの?」っと聞いた。


女性は、コクンと頷く。


そう言えば、この女性の声を聞いたことがなかった。

ほとんどのお客は、

「今日もお願いします」とか

「いつもと同じくお願いね」とか

必ず、言葉を発する。


たが、この女性は、言葉を発することは一度もなかった。


自分は鏡越しに映る女性を見ると

目が合った。

女性はニコリと笑みを浮かべて

自分の施術を待っていた。


その白い髪を持った女性の後ろに立ち

自分のハサミを女性の髪に入れた瞬間。

何かに払いのけられたらように手元がブレ

右手からハサミが落ち、そのハサミが床に落ちた衝撃音が店に響いた。

店内にいる人がその音に驚き、振り返った。


「失礼。」

っと、一言いい

ハサミを拾う瞬間、鏡越しの女性が自分の視界に入った。

女性は笑っていた。

先程のニコリの笑顔とは違い、なんとも言えない嫌な顔だった。


自分は床に落ちたハサミを拾い、バックヤードにハサミを仕舞いに席を離れた。


なぜあんな顔で、笑っていたのか。

人を蔑むような、あんな顔で。


その時に左の指先に違和感を感じた。

中指の先から出血していた。

先程、ハサミを落とした時にうっかり切ってしまったのかと思った。

簡単に絆創膏を貼り、店に出た。


席に女性の姿がなかった。


他のスタッフが「また、来る」っと言って帰りましたと言いに来た。


自分の左中指は、そこにあるとばかりドクドクと音を鳴らし主張していた。




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自身 プリンプルちゃ @sugar33688

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