第20話
「お姉ちゃん、今日から働く由里子よ、色々一緒に教えてあげて」
菜豆那は事務所の扉を開けながら、少しため息混じりに言った。
「え"っ!?黎人様が…許したの…?」
小豆沙は座っていた椅子から、勢いよく立ち上がり驚愕して言った。
「えぇ、どうやって拐かしたか知らないですけどね」
菜豆那は嫌そうな顔をし、横目に由里子を見ながら言った。
「拐かしたって…そんなんじゃありませんよ」
由里子は嫌な言い方に少し顔をムッとさせた。
「槍でも降るのかなぁ、信じられない…」
小豆沙は天を仰ぎ身震いをさせながら言った。
「でも、決まった事だから」
菜豆那が宥める様に言った。
「はぁーい、ちゃんと指導はするよ」
小豆沙は椅子に座り言った。
「まず雑務を覚えてもらって…」
菜豆那が由里子に話しかけ、仕事内容を教えていった。
由里子は働く事が初めてで、あれこれ教えられ、頭がパンクしそうだった。
トントントンと優しく扉を叩く音が黎人の部屋に響く。
「黎人、只今帰りましたよ」
エミリオはそっと扉を開けながら部屋を覗いた。
黎人の部屋はカーテンがビリビリに引き裂かれ、机の物は床に散らばり、荒れた部屋となっていた。カーテンも床の惨状も、全て黎人がやった事だった。
ひと暴れした後なのだろう。黎人は机の近くで、息を切らしながら座り込んでいた。
エミリオはそれをすぐに理解し、悲しい顔をした。
黎人は手にハサミを両手で握りしめ、床に突き立てていた。
「あぁぁぁぁ!!!」
黎人はエミリオが来た事にも気付かず、発狂し叫んだ。
そして、両手を振り上げハサミを振り下ろす。
「ーっ!」
エミリオは慌てて黎人に駆け寄り、後ろから抱き締め、黎人の腕を掴んで動きを止めた。
「!!」
黎人はその時、初めてエミリオの存在に気付いた。
「ダメですよ…そんな簡単に、自分を傷付たら…」
エミリオは俯きながら、そっと黎人の耳元で囁いた。
「エミ…リオ…」
黎人はゆっくり振り返り涙をニ粒流しながらエミリオを見た。
エミリオは俯き涙を流していた。
黎人はそのエミリオの涙に言葉を失った。
エミリオは静かに泣いていた。
黎人は、肩に滴る雫に、エミリオの悲しみを感じた。
エミリオは何も言わなかった。ただただ涙を流していた。
黎人はゆっくりと力を抜き、手を下ろしハサミを床に置いた。
それを感じ取りエミリオも掴んでいた手を離した。そして、その離した手を使って、今度は黎人を目一杯後ろから抱き締めた。
エミリオは少し震えながら、より一層涙を流し声を漏らした。
黎人は、自分の前に回されたエミリオの腕を優しく触りながら、「ごめん…」と呟いた。
「死にたかったの…」
黎人は続けて言った。
「黎人に、死んで欲しくありません…」
震える声でエミリオが絞り出す様に言った。
「エミリオが、こんなに想ってくれてるなんて思わなくて…」
黎人は段々と顔がくしゃくしゃになり、涙を零してながら言った。
「当たり前です。あなたは大切な人なのですから」
「ううん、大切にしなくていい。私は幸せになんてなったらいけない人物だ」
黎人は首を振りながら言った。
「何故そんな事を言うんですか!?」
エミリオが少し怒った様に怒鳴り声を上げた。
「私に…私に価値なんて…」
エミリオは抱き締めていた手を緩め、黎人の前に行き、今度は黎人の正面に向き合い、優しく黎人の頭を抱えキスをした。
黎人は突然言葉を遮られ驚いたが、すぐに受け入れそっと目を閉じた。
エミリオは黎人の口の中に舌を入れ、黎人の舌と絡ませた。
ピクッと黎人は反応する。
『はぁっ…はぁ…んっ』
と、2人は吐息を漏らす。
「まっ、…待って…」
黎人はエミリオを止めようと喋るが、エミリオはキスを止めず、続けて来る。
「価値がないなんて言わせませんよ」
エミリオは真っ直ぐに黎人を見つめて言い、またすぐにキスを続けた。
(狂おしい程愛おしい。このキスで、どれだけ貴女に価値があるのか思い知らせたい)
エミリオは激しい独占欲に駆られながら黎人に深いキスを何度もした。
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