第17話
「絶対に嫌だ」
翌日の朝、黎人は事務所の応接間スペースで、ムスッとしていた。
「そうでしょうね、なので今は宿屋に泊めています。ですが、その宿代はこちら持ち。長く居座られれば経費はかさみ、経営に支障が出ますよ?」
エミリオは昨日の出来事を全て話した。そして、由里子が天使界の宿屋に宿泊していると伝えた。
「………チッ、分かったよ、空いてる部屋、使わせればいいんだろ。連れて来い菜豆那」
黎人は金に物を言わされた気分だった。
「はい」
菜豆那は返事をすると、エミリオから場所を聞き、由里子を迎えに事務所を後にした。
「でも、何で連れて来たんですか?エミリオ様」
小豆沙が聞いた。
「私には手に負えなかったので。直接黎人に怒られて、心が折れれば諦めるかと」
エミリオをコーヒーを飲みながら答えた。
「私に丸投げと言う事か」
黎人は理解した様に言った。
「はい。たまにはいいでしょう?いつも私に丸投げなのですから」
エミリオはニッコリと笑って言った。
「チッ」
黎人は舌打ちし、そっぽを向いた。
普段エミリオに何かとお願いしている分、強く出られず断れなかった。
「それで、そちらは?依頼された天使の子はいましたか?」
エミリオは黎人に聞いた。
「いや、ハズレだ」
黎人は首を振った。
「そうですか」
「まずは、救出した子達のケアが最優先だな」
黎人が言った。
救出した天使達は事務所の空き部屋で休んでいた。
「はい、この先、生きて行くにも仕事は必要ですから、斡旋もしないと。その辺りは任せましたよ、エリオル」
エミリオは事務所の壁に静かにもたれて、話を聞いている黒装束の天使に言った。
「ああ、分かっている。今手配している所だ」
エリオルと呼ばれたその天使は、答えた。
「今回もありがとう。今回は特に助かった。斡旋の方も、頼む、エリオル」
黎人はエリオルを見ながら言った。
「ああ」
エリオルは、短く答えた。
その時、丁度、菜豆那が由里子を連れて帰って来た。
「こんにちは。話し、少し聞こえました。貴方、エリオルさんって言うんですね、皆さんもこれからよろしくお願いします」
由里子はそっと菜豆那の後ろから出て来て、挨拶した。
シン…
誰一人声を上げない。
由里子は誰からも歓迎されていなかった。
(アウェイだなぁ…頑張ろ)
由里子は心で涙を流しながら、意気込んだ。
「次の話をしましょうか、黎人」
エミリオが沈黙を破り、黎人に話を振った。
「目星は?」
黎人とエミリオは話を始め、エリオルは二人の会話に混ざっていった。
菜豆那は由里子の元を離れ、小豆沙と一緒に事務仕事をし始めた。
一人事務所の入り口で取り残された由里子は、鋼のメンタルで、挨拶周りをする事にした。
「知ってると思いますけど、人間界の伊東由里子です。小豆沙さん、菜豆那さん、よろしくお願いします」
由里子は二人の近くまで行って頭を下げて挨拶をした。
それでも、二人からの返事はない。
次に由里子は黎人達三人のところに行った。
「エミリオさん、エリオルさん、黎人さん、よろしくお願いします。特に黎人さん、いっぱい話しましょうね」
由里子同じ様に挨拶した。
黎人は軽蔑するかの様な眼差しで、由里子を見た。
「…お前の親を私は許さない。今まで一緒に住んでいて、気付かないお前も同罪だと思うがな」
黎人が低い声で鋭く言った。
「それは…」
由里子は言葉に詰まった。
「今は救出した子達が休んでいるが、その部屋を使え。なるべく早く出て行くんだな。私はお前に用なんてない」
黎人は嫌そうな顔をしながら言った。
「私は十分に黎人さんと話が出来るまで帰りませんよ」
由里子は強気に言ってみた。
黎人は舌打ちをし、机を蹴った。
「じゃあ、話をしようじゃないか。皆んながいる今ここで!」
黎人は激しい怒りの顔をして由里子に言った。
「っ!…いいですよ。私、皆さんともお話ししたいですから」
由里子は少し喧嘩腰に言った。
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