第13話

あれから数日。

黎人はしばらく部屋に篭っていた。入っていいのはエミリオだけだった。

「あれから、出てこないね、黎人様」

小豆沙が自分の事務机に頬杖を付いて言った。

「ダメージが大きいと思う。あれだけの事されたんだから」

菜豆那がしんみりとした顔で答えた。

「そうだよね…」

重い沈黙が流れた。


黎人の部屋では、エミリオが黎人の傷の手当てをしていた。

「…傷、痛いですか?」

エミリオは黎人のお腹のあざを見ながら、湿布を用意して言った。

「うん、ちょっと」

黎人の顔は暗かった。

黎人のお腹には大きなあざが出来ていた。あれから医者にも診てもらい、臓器には異常無かったが、あざが酷かった。

数日経ってもあざは引かず、痛みも少し残っていた。

エミリオは声を掛けながら湿布をゆっくり張った。

黎人は、冷たさとあざの痛みで、ピクっと身体が反応する。

「大丈夫ですか?」

「ああ」

黎人は短く答える。

「仕事は出来そうですか?」

「証拠を掴むために動く話だろう?」

エミリオから、証拠を掴む為に、伊東家に乗り込む事を聞かされていた。

「はい、今日の夜が最適かと」

「じゃあ、夜に決行しよう」

黎人が決断を下す。

「伝えて来ます」

エミリオはそう言うと部屋を出て行った。

(好きって勢いで言っちゃったけど、付き合おうとは言ってないから、付き合った事にはなってないし、そもそも好きって相棒としてだし…)

黎人は内心バクバクしている胸に手を当てて考えた。


(好きとは言ったけど、付き合おうとは言ってないから、付き合った事にはなってないんですよね?)

そんな素気ない黎人の態度に、エミリオはそう考えた。


事務所では、小豆沙と菜豆那が話をしていた。

「黎人様とエミリオ様って、付き合ってるのかな?」

小豆沙が呟いた。

「付き合っているんじゃないですか?」

菜豆那がそれに答えた。

「だよねー、私達の入る隙、無いのかな…」

小豆沙が顔を曇らせて言った。

二人は黎人の事を恋愛対象として好きだった。

「私はもう諦めてます。恋愛対象対象として好きだけど、それはもう心の中で思う事にしてますよ」

菜豆那は少し哀しげな顔をしながら言った。

「そんなぁ、私はまだ諦められないなぁ…でも、こんな頻繁に部屋に行って、エミリオ様ったら、まるで通いづ…」

小豆沙が続けて言った時、エミリオが入って来て、遮った。

「付き合っていません。通い妻でもありません」

エミリオが少し小豆沙を睨んで言った。

「あっ、エミリオ様…すみません」

小豆沙はバツが悪そうな顔をして、すぐに謝った。気まずかった。

「全く、変な噂話してないで仕事して下さい。今日の夜はいよいよ行きますよ」

エミリオは仕事の内容を二人に伝えた。

二人は了承すると仕事の準備を始め、夜になるのを待った。

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