第12話
取り残された二人は、しばらく沈黙した。
「腕、痛かったね」
小豆沙がボソッと言った。
「身体も、痛かったね」
菜豆那がボソッと言った。
「うん、まるであの時みたいだった」
小豆沙が抑えられていた腕を握りながら言った。
小豆沙はあの時の昔の記憶がフラッシュバックする。
「何で男の人って、皆あんなに暴力的で乱暴なんだろうね」
菜豆那は震える身体を自分でさすりながら言った。
菜豆那もあの時の事を思い出していた。
それは、小豆沙と菜豆那が肉体奴隷として扱われていた頃のこと。
肉体奴隷とは、主に肉体労働をさせられる奴隷の事だった。
小豆沙も菜豆那も炭鉱の様な場所や、開発地等、色々なところで働かせていた。
少しでも休めば、罵声と共に体罰が与えられる。鞭や硬い棒など様々な物で殴られ、血を流す者もいた。
朝は5時に起き、腐った汁物に腐ってパンを食べ6時には肉体労働が始まる。過酷な労働条件で死者は後を絶えなかった。
そんな過酷な環境を二人は生き抜いてきていた。
あの時、千隼に取り押さえられた事で、そんな時代の記憶が蘇る。
「私達何か、悪い事したかなぁ?」
小豆沙は涙を流し、菜豆那に訴えた。
「お姉ちゃん…」
菜豆那は小豆沙と抱き締め合い、二人で涙を流した。
黎人は涙を流しながら部屋へと辿り着いた。
後ろからは、エミリオが追いかけて来ている。
黎人は部屋に入ると机に向かった。
そして引き出しを開けカッターを取り出した。衝動的にリストカットをしようとしていた。
「ダメです!」
エミリオがそれを見て、慌てて止めに入る。
エミリオは黎人の腕を掴みカッターを取り上げた。
「離して!」
黎人は声を荒げた。
「ダメです。そんな事しては…」
もがく黎人をエミリオは抑えながら言った。
今、離してしまえば、黎人は何かしらの方法で自分を傷付けてしまうと、エミリオは思った。
「もういいの、私は、生きてちゃいけないの!」
黎人は泣きながら必死にもがいて叫んだ。
「そんな事ありません!」
エミリオも必死に黎人を鎮めようと、暴れる黎人を抑えた。
「ダメなの!私が生きてたら皆を不幸にする。私みたいな奴隷は死ねばいいの!」
自暴自棄になっていた。
「そんな事ありませんから!」
エミリオは涙を流しながら、黎人を止めた。
「死なせて!」
「生きて下さい!」
「私は死にたいの!」
「生きて下さい!俺のために」
エミリオは咄嗟に叫んだ。
「えっ…?」
黎人の動きが止まった。
「生きて下さい。俺のために。俺は貴女がいなければ、生きていけない」
黎人の目を見つめ、真剣に言った。
「…ごめん、無理…貴方だけ生きて」
黎人は少しの沈黙の後、顔を暗くして言った。
「じゃあ、一緒に死にましょう。死ぬ時は一緒です」
黎人の両手を握り締め、涙を伝わせながらエミリオが言った。
「ダメだよ、貴方は生きなきゃいけない人」
黎人は目一杯に涙を溜めて言った。
「いいえ、貴女がいなければ、生きる意味も価値もありません」
「なんでっ、そんな事言うの?」
黎人は溜めていた涙が溢れ返った。
「なんではこっちです。一緒に生きましょう?でないなら、一緒に死にましょう」
エミリオは黎人を抱き締めながら、泣いた。
「楽に死なせてくれればいいのに…」
黎人もエミリオに抱き付き泣いた。
「それは出来ません」
エミリオは力強く言った。
「なんで?」
「貴女の事が好きだからです」
エミリオは黎人から離れ、真っ直ぐ黎人を見つめて言った。
「エミリオ…」
「俺は貴女の事が好きです。貴女は俺の事が嫌いですか?」
「…ううん、好きです」
少しの沈黙の後、黎人は答えた。
二人は静かに抱き締め合った。
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