第11話

黎人と小豆沙は事務所にいた。

二人は事務所でエミリオ達の帰りを待っていたのだ。

あの後、エミリオは菜豆那を連れ、仕事に行くと言って、出て行っていたのだ。

黎人は雑誌を応接間スペースで読み、小豆沙は書類整理に追われ、自分の事務机で仕事をしていた。

黎人は少しうとうとしながら、雑誌をめくる。その様子を微笑ましそうに小豆沙が眺めていた。

その時、事務所の扉がガチャっと開いた。

その音に黎人は目を覚ました。

「やぁ、黎人。元気か?」

入って来たのはエミリオではなかった。

黎人はその声にゾクッとしながら、慌てて振り返った。

小豆沙はびっくりして、慌てて立ち上がった。

そこには、透と千隼が乗り込んできていた。

「何しに来たんですか?今すぐに帰って下さい」

黎人は雑誌を机に置いて立ち上がり、振り返って言った。

強気で言ってはいるものの、黎人は少し震えていた。

「顔がこわばってるよー、黎人ちゃん」

千隼がニコニコして言った。

「何ってお仕置きしに来てやったんだよ、俺等に生意気な口聞くみたいだからさっ」

透は言いながら黎人に近付いていき、黎人の前に立つと思い切り黎人の頬を引っ叩いた。

黎人は痛みに顔をしかめた。

「黎人様!」

小豆沙は慌てて黎人の方へ行こうとするが、千隼に足止めされていた。

「ダメだよぉ〜小豆沙ちゃん。二人の時間を邪魔しちゃ」

千隼が小豆沙にニコニコ笑いながら言った。

「うるさい!何が二人の時間よ!」

小豆沙が怒りながら千隼に言った。

「おー、こわ。さすが肉体奴隷ちゃん、威勢がいいね」

千隼は笑いながら冷やかした。

「その呼び方、やめて下さい!黎人様の所に行かせて!」

小豆沙は千隼に両腕を掴まれていた。

小豆沙は格闘ができ、他の女性より力は強いが、千隼には到底敵わなかった。それは千隼が他の男性より力が強いからだった。


「さ、お仕置きの時間だよ、黎人」

透が黎人の肩を掴んで言った。

「お仕置きされる覚えはありません。帰って下さい」

黎人は負けじと透に言う。

「俺に逆らっていいとでも?そうゆう所がお仕置き足りてないんだよ」

透はそう言うと、また黎人の頬を引っ叩いた。

黎人はその勢いにクラッとよろめいた。

「おらっ!」

透はそのよろめいた黎人の身体をソファーに叩きつけた。

黎人はソファーに寝転ぶ形になった。

そして、透は黎人の上に馬乗りになった。

「分かるか?どっちが上でどっちが下か」

透は一発、黎人のお腹に拳を入れた。

黎人は何も答える事が出来ず、むせ込んだ。

「答えろよ、親に捨てられた下人がよぉ」

透は大声で言いながら、何度も黎人のお腹を殴った。

黎人はその度にむせ込み、耐えるだけだった。

「やり過ぎです」

その時、エミリオの声が聞こえた。

エミリオは透の腕を掴み、睨んでいた。

「なんだよ、またお前かよ、忘れ去られたお坊ちゃん」

透は嫌そうな顔をしながら言い、エミリオに嫌味を言った。

「降りて下さい。黎人が死んでしまいます」

エミリオがさらに睨みを効かせた。

「うるせぇな」

透はどこうとしなかった。

その返答に、エミリオは掴んでいる腕を捻り上げた。

透は痛がった。

しかし、エミリオはさらに力を強くする。

「やめろって!」

透が叫ぶ。

「黎人はこれ以上に痛い思いをしています。これくらいでやめるとでも?」

エミリオは怒気のこもった声で言った。

「俺だってこれくらいで簡単に降伏するかよ」

透は黎人を踏み台にして、エミリオに足蹴りをした。

エミリオは掴んでいた腕を離し、避けた。

透は、痛みにもがく黎人の不安定な足場から降りた。

「なんて事を…」

その光景を見てエミリオが青ざめた。

「それをさせたのは、エミリオ、お前だぜ」

透は笑いながら言った。

「透ー、二人相手はキツイって」

ふと、千隼の声が聞こえて来た。

千隼は小豆沙と菜豆那の二人を押さえつけながら言った。

「余裕じゃねぇか」

透は鼻で笑った。

「いや、保って後数秒…」

千隼は必死に二人を押さえ付けながら、言った。

「チッ、今回もまた邪魔が入ったか、帰るぞ」

透はやれやれと言う様に言った。

千隼はその言葉を聞きいち早く二人を解放し、扉に向かった。

解放された二人は、千隼に飛び掛かろうとしたが、エミリオに牽制された。

透達はそそくさと事務所を後にした。

黎人は先程までむせていたがやっと落ち着いた。

そして立ち上がり、ふらふらと部屋の奥へと消えていった。

その後をエミリオがすぐに追った。

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