第9話

黎人は事務所の奥にある部屋で、ベットに仰向けになり、寝ていた。

そして、ハッとする様に眼を開けた。

少し前の過去の夢を見ていた。何とも言い難い目覚めだった。

「はぁ…」

黎人はため息をついた。

あの時、人間界であった千隼のせいだろう。千隼を見て過去を思い出し、夢を見てしまったのだろうと黎人は考えた。

身体が重く、頭がガンガンする。精神状態が良くない時に起こる体調不良だ。

黎人はベッドから起き上がり、机の引き出しから薬を取り出した。

それは精神的な理由で、体調が悪くなった時に飲む頓服薬だった。他には、毎日一日三回飲んでいる精神安定剤の薬があった。

黎人は色々な種類の薬を合わせて飲んでおり、頓服は一回に3錠飲む。

黎人は奴隷になった事で心を病み、薬なしではもう日常生活を送っていけない程、身体も心もボロボロだった。

薬を飲み終えひと息付いた時、扉をノックする音が聞こえた。

返事をすると小豆沙が呼びに来ていた。

黎人は小豆沙と一緒に事務所へ向かった。


事務所では、エミリオが誰かと話していた。

人間界で言う携帯みたいなものを持っている。魔力で動き、魔力で通話が可能だった。

エミリオは話を終えると、黎人をソファーに座る様に促した。

小豆沙はエミリオの座っているソファーの後ろに控えた。

「会いたいそうですよ?伊東由里子さんが」

エミリオは、黎人が座るなり単刀直入にいった。

「何故?私は会いたくない」

黎人は嫌な顔をして言った。

「あれから色々、ご自分でお調べになったのだとか」

エミリオは足を組んで答えた。

「それで?」

黎人は不機嫌そうに言った。

「分からない部分は直接聞きたいと…」

「嫌だ」

黎人は間髪入れずに即答した。

「そうですね、また黎人が嫌な事を思い出す事になったら、私も嫌です」

エミリオは同意する様に頷いた。

「早く罪を認めさせて殺せばいいのに」

小豆沙が少し怒って言った。

「まだ、彼女には確証がありませんから」

エミリオが宥める様に小豆沙に言った。

伊東由里子の父親は巨額の富を得ている資産家だった。

そして、その両親が、天使を奴隷として使役しているという情報を掴んでいた。

なので、娘の由里子もその事実を知っているのではないか、奴隷を使用しているのではないかと怪しんだ。

更には今回の勧誘の件。

由里子は、黎人達に、新しく奴隷を買おうとしていたのではないか、と怪しまれていた。

黎人達は、そうでなければ、父親が買っているので、商人が娘にも商売を広げてきたのか、のどちらかだと睨んでいた。

その為、菜豆那を監視役として、由里子の近くにいさせたのだ。

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