第6話

黎人と小豆沙は事務所に戻って来たところだった。

黎人が先に事務所の扉を開け、中に入った。続けて小豆沙が入った。

「大丈夫ですか?黎人様」

事務所に入ってすぐ、小豆沙が神妙な面持ちで、黎人に声を掛けた。

「大丈夫だよ、小豆沙」

黎人は振り返らず事務所の中を移動しながら言った。

「でも、あいつに出くわすなんて…」

小豆沙も後ろをついて行きながら言った。

「そうだな、出来れば会いたくなかったよ」

黎人はそう言いながら、キッチン前の応接間スペースのソファーに腰掛けた。

「黎人様…」

小豆沙は立ち止まった。

「でも、お前達がいてくれたから、大丈夫だ。ありがとう」

黎人が小豆沙を見て言うと、小豆沙が座っている黎人に抱きついた。

「小豆…」

小豆沙が黎人の喋る口を、口で塞いだ。

少しして小豆沙の唇が黎人の唇を離れた。

「全く、変わらないな。私を好きになってもいいことなんてないぞ、姉妹揃って」

黎人は少し驚いたが、それはいつもの事で、少し呆れた様に小豆沙に言った。

「でも、好きは止められないです。私は黎人様の事が好きなんです!大好きなんです!」

小豆沙は黎人を見つめて真剣に言った。

「ありがとう。でもいつも言っている通り…」

黎人は微笑んで礼を言った。しかし次には表情を曇らせ小豆沙に言いかけた。

「好きになれない、ですか?」

小豆沙は黎人の言葉を引き継ぎ、悲しげに言った。

「そうゆう対象として見られないんだ。小豆沙の事は相棒として信頼出来るし好きだよ、でも、恋愛対象としては見られない。ごめんな」

黎人は辛そうな表情をして言った。

「黎人様はずるい、それでも好きでいてくれる事は構わないとか言うんですよね?」

小豆沙は少し膨れて言った。

「まぁな…」

黎人はバツが悪そうに答えた。

「黎人様、ずるい…」

小豆沙は静かに黎人の胸の中に、収まりながら言った。

「ごめん…」

黎人は静かに小豆沙の頭を撫でた。

「付き合ってる人とか、好きな人とかいるんですか?」

小豆沙は黎人の胸の中で質問した。

「う…ん…、付き合ってる人はいないし、私は好きになっちゃいけない」

黎人は自分を戒めるかの様に言った。

「好きになっていいんですよ?」

小豆沙は顔を上げ黎人を見つめた。

「そうだな」

黎人は小豆沙を見つめた。

「その機会があればいつかな」

そして天井を見上げて言った。

「むぅ…」

小豆沙は黎人の胸の中に再びもぐり、少し拗ねたように言った。


呆然としたまま、由里子は帰路につき、自宅である、都内の賃貸マンションに帰って来た。

「はぁー、疲れた…」

由里子は帰宅すると、思わず声が漏れた。

その後ろには魔法で姿を隠した菜豆那がいた。

菜豆那は密かに由里子を監視する監視役になっていた。

「自分で調べろってなんなの?偉そうに」

由里子は髪をグシャグシャっとしながら悪態をついた。

後ろに菜豆那がいることには気付いていなかった。

菜豆那は、街中では由里子の遥か上の上空を飛び、由里子に付いていき、家では部屋の中にまで付いてきていた。

由里子は考えるのをやめ、着替えを始めた。

そして、日常を取り戻すかの様に、夕飯の準備をした。

今日は遅くなったし、色々あって疲れているのでレトルトカレーで済ます。

レンジでお米とカレーを別々に温める。

その待ち時間の間にお茶を準備したりするなど、手際がいい。普段から料理に慣れている様だった。

レンジで温め終わったご飯とカレーを合わせ、静かに席に着き、"いただきます"をする。

スプーンで一口分すくうと、口へと運ぶ。

その時、背後に気配を感じる。

魔法で隠れた菜豆那が静かに由里子の後ろに突っ立っている。

由里子は、何も無い壁を見て首を傾げる。

何か感じるのに何もない。変な雰囲気だ。

その食べづらさに、つい手が止まってしまう。

その雰囲気に耐え切れず、スプーンを置いて振り返り、じっと壁を見つめる由里子。

しかし、そこには壁以外なにもない。

「なんか、やな感じ」

由里子は嫌な思い出でも思い返す様な顔をしながら言った。

さっきの出来事を思い出していたのだ。

しばらく考え込んだが、何も分からなかった。

由里子は、諦めて机に向き直ると冷めたレトルトカレーを一気に掻き込んだ。

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