第5話

先程の場所とは離れたビル街。その一角のビルの屋上に黎人達は降り立った。

「菜豆那、小冊子を見せろ」

降り立って早々に、黎人は手を出し、菜豆那に言った。

「はい」

菜豆那は返事をすると、持っていた小冊子を黎人に手渡した。

黎人はペラペラと小冊子をめくる。時折画面をタッチするように触って見るが、小冊子は何も言わない。

この小冊子には、天使達の写真が載っていた。そして、小冊子には魔法が掛かっていて、好きな天使の写真をタッチすると購入画面が現れ、天使を購入する事が出来るようになっていた。

しかし、今は魔法が切れ、何も出来ない状態になっていた。

「だめだな、もう魔法が切れてる。これじゃあ追跡は出来ないな」

うーんと考え込むように黎人が言った。

「あの、さっきからなんなんですか?訳が分からないんですが…」

菜豆那に連れてこられた彼女が、困惑した表情で聞いた。

「こっちは分かっているから大丈夫だ」

黎人が冷たく言う。

「そっちが分かってても、私が分かってないんでダメなんですが!?扱い酷くないですか!?」

彼女はその冷たい対応に衝撃を受け、ツッコんだ。

「………エミリオ、頼んだ」

黎人が少し考えたあと、エミリオに小冊子を渡しながら言った。

「本当に、めんどくさい事は人任せですね、黎人」

エミリオは、やれやれと言った顔をしながら、小冊子を受け取った。

「私は帰る。人間の世界になんか長く居たくないからな」

黎人はそう言うと誰の返事も聞かず、空へと飛び立った。

「全く…仕方のない人ですね、小豆沙、黎人についていきなさい」

エミリオを黎人が飛んで行った方角を見つめ、小豆沙に命令した。護衛役だ。

小豆沙は、短く返事をするとすぐに黎人の後を追い掛けた。

「さて、貴方にはある疑惑がかけられているのですよ、伊東由里子さん」

エミリオは彼女に向き合い少し鋭い目付きをして言った。

「え、どうして私の名前…」

由里子と呼ばれた彼女は驚き、戸惑った。

「疑惑がかけられていると言ったでしょう。貴方のことは調べてあります」

エミリオは少し呆れたように言った。

「あの、私、何が何だかさっぱりなんですけど、天使だって何百年も前に一緒にいたって歴史上の話でしょ?それが今になって、なんで私の前に現れるんですか?しかも、黒い羽の天使とか聞いたことないですよ?」

由里子は弁明する様に、必死で言った。

「それを一から私の口で説明しろと?」

エミリオが由里子を睨んだ。

「だ、だって、今の状況、全く理解出来ないし!」

由里子は必死に食い下がった。

「分からないなら、ご自分でお調べ下さい」

エミリオを少し早口で言うと、空へ飛び立ち姿を消した。

由里子は呆然とするしか無かった。

何が何だかさっぱり分からないまま、自分で調べろとだけ言われ、置いて行かれたのだ。

「さ、もう帰られては?」

残っていた菜豆那が由里子の帰宅を促した。

階段への扉も閉まっている屋上から帰るには、空から飛び降りるしか無かった。なので、菜豆那が残り、下まで送り届ける事になっていた。

「………」

由里子は混乱で言葉を無くしていた。


「全く、厄介な邪魔が入ったな」

どこかの廃墟ビルの中、廃墟の部屋に入ってやれやれと言う様に、千隼が言った。

「ほんとですぅ、もう身体があちこち痛くてぇ〜」

続けて入って来た紗羅葉が身体を触りながら言った。

「紗羅葉、お前は手を抜いて遊んでただけだろう」

千隼がムッとして言った。

「ほんとですってぇ〜あいつめちゃ強かったんですから。奴隷時代何か肉体労働でもやらされてたんじゃないですかぁ?可愛くないし」

紗羅葉はうんざりと言う様にいい、廃墟の部屋にあるソファーに座った。そのソファーは千隼達が持ち込んだのだろう。周りに比べて真新しかった。

「なんだ千隼、もう帰って来たのか?」

同じ部屋の入り口から、1人入って来た男が言った。

「あ、透。お前の婚約者ちゃんに邪魔されたんだよ」

千隼はその男を見てそう言った。

「ほう、まだそんな邪魔をする元気があるのか、黎人は」

透と呼ばれた白い羽の天使は、口に手を当て少し考える様に言った。

「エミリオっちもいましたよ」

紗羅葉はウインクをして言った。

「全く、黎人は俺というものがありながら、浮気か。お仕置きしないとな。誰がご主人様か教え込まなければ」

透はニヤリと笑った。

「いきがってましたよ、あれは指導が必要だねぇ」

千隼も楽しそうにニヤニヤして言った。

「私もさんせーい!あいつ生意気だし」

紗羅葉は手を挙げ、賛同し笑った。

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