第2話

ここは天使だけが住む世界。

天使達は、自分達の魔法を駆使し、様々な生活に役立てている。

その様は人間の科学が繁栄した世界と大差ない程に魔法が充実している。

都市や地方があり、この場所は都市のオフィス街。様々な会社のビル群が建ち並んでいる。

建ち並ぶ一角にあるビルには、色んな会社が入っているビルで、その2階に何でも相談事務所が構えられている。

そこの扉を今叩こうとしている白天使の女性がいた。

女性は少し緊張した面持ちで、扉の前に立っていた。

しばらくの沈黙の後、意を決して扉を叩く。

コンコンコンと3回のノック音の後、少ししてガチャリと扉が開いた。

そして、眼鏡をかけ、水色のロングの髪に、メイド服を着て、背中に黒い羽根を生やした菜豆那が出迎えた。

「お待ちしておりました。由紀様ですね。どうぞこちらへ」

菜豆那は淡々と言い、丁寧にお辞儀をすると中へと案内した。

由紀と呼ばれた女性は、緊張した面持ちのまま、無言で中に入っていった。

中は左手にシステムキッチン、その前には応接室で使う様なテーブルとソファーがあり、右手に小さめの事務机が3つ並んでいた。

由紀は応接室で使う様なテーブルとソファーの所に案内され、ソファーに腰掛けた。

事務机の真ん中の席には、1人メイドがいた。

セミロングの赤色の髪をした黒い羽の天使だった。

由紀が座ってすぐに、どこから現れたのか、紳士な服装をした、白い羽の天使の男性が由紀の前に現れた。

「ようこそ、いらっしゃいませ。何でも相談事務所へ。お飲みのはどうされますか?お好きなものをご注文下さい。ああ、料金は頂きませんよ」

少し早口で言いながら、由紀の向かいのソファーに腰掛ける。

その様子に少し戸惑うものの、由紀は紅茶を頼んだ。

菜豆那はかしこまりました。と言い、丁寧に素早く紅茶の準備を始める。と、同時にコーヒーも2杯分作り始めた。

言われる前から分かっているのだ。男性の分と後から来る女性の為だった。

準備を始めると、部屋の奥からショートカットの白銀の髪に黒いドレスに身を包み、背中に黒い羽根を生やした女性、黎人がやって来た。

「悪い遅くなった。ここの責任者の黎人だ」

黎人は由紀と男性に向けて言い、男性の横のソファーに腰を下ろした。

「遅いですよ、黎人。顔色が少し悪いようですが大丈夫ですか?」

男性が少し心配そうに聞く。

「大丈夫だ。話を進めよう」

黎人がそう言うと、菜豆那がコーヒー2杯に紅茶を1杯持って来た。

菜豆那が話の邪魔にならないよう、素早く手際良く振り分ける。

そしてその場を静かに後にした。

「私はここの副責任者のエミリオです。どうぞお見知り置きを」

男性がエミリオと名乗り軽く会釈をした。

「由紀と申します」

由紀も名乗り軽く会釈をする。

「さ、お話、お聞かせ頂けますか?」

エミリオが話を促す。

由紀は紅茶を一口飲み、気持ちを落ち着かせると、ゆっくりと話し出した。

内容は、娘が奴隷商人に捕まり連れて行かれた。娘を助けて欲しいと言う事だった。

「なるほど…」

話を聞き終え、一言黎人が言った。

黎人はその後、話の最中にミルクや砂糖を入れたコーヒーを一口すすった。

黎人のコーヒーは、ミルク多め、角砂糖2個を入れたカフェオレに近いコーヒー。黎人は目覚めの悪さを甘さで掻き消したかったのだ。

「それは難しい話だな」

コーヒーカップを机に置いて黎人が言った。

続けて、難しい理由を述べた。

奴隷の中の1人をピックアップして助ける事の難しさ、それに対する労働力と対価の不釣り合い。ハイリスクな依頼。

どう考えたって受けるものではなかった。

「お金はいくらでも払いますから…!」

由紀が言った。悲痛な願いだった。

「由紀さん、我々も助けたくない訳ではないのですよ、ただ特定の1人だけを助ける事が難しい。だからいっその事全員助けるとなると、貴女にそれだけの代価が支払えますか?」

エミリオが諭すように話しかけた。

「それは…」

由紀は俯き、唇を噛んだ。

全員助ける費用なんて、膨大な額だ。そう簡単に払えると言えるわけがない。

「小豆沙、資料」

しんと静まり返るかと思ったら、突然黎人が名前を呼び、言い出した。

「はいっ!」

小豆沙と呼ばれた事務机にずっと座っていた赤色の髪の女性は、笑顔で応え、喜びながら資料を取り出し、黎人の元へ持って来た。

黎人はそれを受け取ると礼を言い、小豆沙は自分の席へ戻っていった。

「多少、今回の事は調べている。今回連れていかれたのはお前の娘も合わせ5人だ。その5人の行き先はまだ分かっていない」

黎人が資料を見ながら、情報を伝えた。

「5人がそれぞれバラバラの場所へ送られると見ていて間違いはないでしょう。ここから特定の1人を追い掛けるというのは、難しいですね」

エミリオが険しい顔をして言った。

誰か1人なら簡単かもしれないが、特定の1人を助け出すとなれば、人違いが起こる可能性もある、助けた人が違う人だった場合、また振り出しに戻るのだ。その労働力と対価は等しくない。ならば、膨大な金額を支払い、5人をそれぞれのところから助け出すしかないが、その金が払えない。どこで折り合いを付けるかが、この話の難しいところだった。

「一番可能性の高い所から先に救出。お前の娘を救出出来た時点で、終了。報酬は出来高報酬。何人助けたかで報酬を変動させる。それしかないんじゃないか?」

黎人がきつい目をして言った。

「確かにその出来高報酬はいいですが、もし、全員助ける事になったら、由紀さんには払う力がありませんよ、そこはどうするんですか?」

エミリオが止めに入った。

「助けたやつらを働かせて、支払わせれば良い。別に誰からもらったって同じだろ」

黎人が答えた。

「そうですね、彼女達にも働き口は必要ですからね、健全な働き口を紹介しましょう」

エミリオが同意した。

「ありがとうございます。お願いします」

由紀が深々と頭を下げてお礼を言った。

「それに伴って色々書類にサインしてもらう。小豆沙」

黎人は小豆沙を呼びつけた。

小豆沙は先程と同じ様に、喜んだ様子で黎人の元へ書類を持っていった。

黎人は書類を受け取ると机の上に書類を置き、エミリオに書類の説明をする様に頼んだ。

エミリオは快諾し、由紀に書類の説明を始めた。

それは、支払いが生じた際の支払い方法やローン、返済方法など。また、出来高報酬である事への同意書などである。

一通り説明が終わると、エミリオは由紀にサインするよう促した。

由紀は話を真剣に聞き、しっかりと同意して書類にサインをした。

「これで契約は終了だ。実行はこちらの都合で好きにさせて頂く」

黎人は書類をまとめ小豆沙に渡しながら言った。

小豆沙は黙って自分の事務机に持って帰った。

「経過報告は適宜しますので」

エミリオが黎人の言葉をフォローする様に言った。

由紀は再び礼を言い、お願いをすると、事務所を後にした。

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