黎人の黎明期
姫乃華奈
第1話
大きな窓から、月明かりに照らされる薄暗い部屋。
天井付きのキングサイズのベッドの横にロウソクが一本灯っているだけの薄暗い部屋。
そのベッドには全裸の女性が、目隠しをされ、手枷をつけられ、手を頭の上にあげさせられ、ベッドに繋がれていた。
静かな部屋に軋むベッドの音が響く。誰かがゴソゴソと動く音に合わせてベッドも軋む。
女性の身体に何かが触れ、いやらしい音が鳴った。
「あぁっ…!」
女性は思わず声が漏れた。
身体がビクッと震え、全身が震えた。その時、手枷に繋がれた鎖がカシャンと虚しい音を立てた。
「ほぅ、ここが気持ちいいのか?」
男の声がする。
女性は今、その男が、どんな顔をしているのか容易に想像が出来た。
そして男はベタベタと次々女性の身体を触っていく。
その度に女性の身体はピクピクと反応を示して、身体が意に反して熱くなっていく。
「かわいいねぇ…」
男が女性の長く美しい白銀の髪を触り、女性の前髪をかき揚げ、囁きながら言う。
「っ…」
女性は僅かに吐息を漏らすだけで何も反応しない。
もう抵抗する気力すらないのだ。
男のいやらしい手は、女性の身体中を這い続け、どんどん激しいものになっていった。
「さ、一つになろうね」
男は女性の股に自分の性器を突っ込み始め、その途端女性の身体が激しく揺れ始めた。
女性は意に反し感じてしまう。そして、声を荒げ、吐息をもらし、相思相愛のような喘ぎ声を出すのだった。
その反応により一層嬉しさと楽しさを見出し、激しくなる男。
女性の目隠しされた目には、涙が滲み目隠しを湿らせていた。
激しい動きに女性の目隠しが少し取れかけ、左目だけが外れた。
女性は大きい窓から見える月と夜空を、揺れ動く身体を感じながら、見つめた。
(もう、いやだ…死にたい、たすけて…)
その時、見つめる大きな窓の外に、月を背にした白い羽根を持つ男の天使が現れた。
その天使の男は口元に笑みを浮かべた。
「…さま…とさま…」
遠くで、女性が呼ぶ声がする。
突っ伏していた机から、ハッとして目を開け、頭を上げると、そこには、眼鏡をかけ、水色のロングの髪に、メイド服を着て、背中に黒い羽根を生やした女性がいた。
「あぁ、菜豆那(なずな)…」
ショートカットの白銀の髪に、黒いドレスに身を包み、背中に黒い羽根を生やした女性が少しにこりと笑い言う。
「"あぁ"、じゃないですよ、黎人(りと)様」
菜豆那と呼ばれたメイド服を着た女性は、その表情に少しドキッとするものの、呆れた様に言う。
「もうすぐ、ご依頼者様がいらっしゃいますよ」
菜豆那は、続けて用件だけを話した。
「ああ、分かった。すぐ行く」
黎人と呼ばれた黒いドレスの女性はそう言うと、身体を起こし立ち上がった。
菜豆那はそれを見届けると、「失礼します」と言い、先に部屋を出て行った。
少し間を開けて、完全に菜豆那が居なくなってから、黎人は"クソッ"と悪態をつき、前髪をぐしゃぐしゃした。
悪い夢を見た。ひどい夢だ。思い出したくもない過去の夢。
寝起きは最悪の気分だった。
黎人は身体がグワングワンし、気分が悪くなって来た。精神的な気分障害だ。
そういう時はすかさず、薬を3錠飲む。医者から処方されている頓服だ。
黎人は机の上にあった、水の入ったコップを取り、薬を飲んだ。飲み終えると、机にコップを置き、ハァっと息を吐いて気持ちを切り替え、部屋を出て行った。
この世界は、昔天使と人間が共存していた。
しかし、ある日、人間が天使を道具として見る様になり、人身販売、天使狩りが始まった。
使用人として奴隷にしたり、実験の奴隷にしたり、性奴隷にしたりして、天使を扱った。
そして、奴隷になった天使達は心を蝕まれ黒い感情に飲み込まれ、闇堕ちしていき、白い羽根から黒い羽根へ変化し、黒天使の特徴になった。
それを危惧した前王が、人間と天使を二つの世界に分け、分離した。その時の多大な被害、争いは天人戦争とのちに呼ばれた。
そして、現在、天使の世界には、白い羽根を持つ天使と黒い羽根を持つ天使が混在して生き、黒い羽根を持つ天使への差別が絶えなかった。
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