ダンジョンの奥で見つけたもの
一体目のボーンナイトが現れた後、次々にアンデッドが出てきた。
先を行くアデルとハンクが魔法を駆使して、それらをなぎ倒していく。
俺の近くにも飛び出てくるやつがいて、ファイア・ボールで跳ねのけた。
亡者の群れを突破して道なりに進むと、開けた場所に出た。
三人分のホーリーライトに照らされることで、大まかな地形が把握できた。
高さのある広い空間で、真ん中に祭壇のようなものが見受けられる。
祈りの場、あるいは他の何かなのか。
ハンクは少しだけ立ち止まっていたが、周りを警戒しながら進み始めた。
彼の動きに合わせ、遅れないように後に続く。
アンデッドの気配は皆無で、どこからか水滴の落ちる音が聞こえた。
ハンクは中心部に着いたところで足を止めた後、指先で前方を示した。
その先には朽ち果てたような木箱が置かれていた。
年月の経過が著しいようで、かろうじて原型を留めているように見える。
彼が再び動き出し、木箱に近づこうとしたその時だった。
ふいに、周囲の空気が冷たくなったような気がした。
「――気をつけろ、何か来る」
ハンクの真剣な声に緊張が高まる。
前方に影のようなものが浮かび上がり、実体となって像を結んだ。
「うわぁ、リッチ!?」
アデルと出会ってから初めて、彼女の悲鳴のような声を聞いた。
そして、その言葉通りの存在が目の前に現れている。
一見するとボロ布を纏った骸骨にしか見えないが、ただならぬ気配を発している。
『我が眠りを妨げる者……その命を以て……償うがいい――』
リッチは宙に浮いた状態で手にした杖を掲げた。
直感的に魔法が放たれようとしていると判断した。
攻撃を回避するために身構え、体勢を整える。
一方、前の二人はリッチと相対したままだった。
「――冒険者たる者、敵の攻撃を見てから避けるようでは遅い」
ハンクはそう呟いた後、そんな格言があるんだっけなと言った。
リッチに放れた氷塊が彼に当たることはなく、同じ氷魔法で跳ね返されていた。
アデルも反撃体勢を取っており、回避するつもりはなかったようだ。
「……アンデッドは嫌いだから、早く終わらせましょう」
彼女は心底不快そうに言った後、前方を見据えた。
「マルクよ、おれたちが片付ける。ボーンナイトが来たら、適当に追い払ってくれ」
「はい、分かりました!」
リッチは二人に任せることにした。
彼らが距離を詰めると、敵の焦点は向こうに絞られた。
俺には見向きもしていない。
ただ、安心できるわけでもなさそうだ。
二体のボーンナイトがどこからともなく現れて接近している。
ハンクたちの邪魔をさせるわけにはいかない。
俺はファイア・ボールを放って、一体目を吹き飛ばした。
二体目も同じように狙ったが、攻撃を読まれたようで回避された。
ボーンナイトを近づけないために、ショートソードを構えて接近する。
武器を手にした骸骨も、俺に狙いを定めるように近づいてきた。
間合いが離れている間に、横目でハンクたちの方を見る。
リッチに物理攻撃は効かないため、魔法で攻撃を仕掛けていた。
俺の実力ではリッチを倒せず、与えられた役割に徹するだけ。
右手で剣を握り、左手に魔力を集中させる。
ボーンナイトは俺の剣戟を予想するように、間合いを詰めていた。
敵の虚を突くように引きつけたところで、ファイア・ボールを放つ。
近距離で火球を浴びたボーンナイトは粉々に砕けた。
「久しぶりの実戦はけっこうきついな……」
俺は一息つこうとしたが、また別の場所にボーンナイトが現れた。
今度も二体だった。
「ふうっ、休ませてくれそうにないな」
俺が剣を構えて、ハンクたちから遠ざけようとしたところだった。
彼らの方でまぶしい光が生じた。
「やったぜ、マルク!」
ハンクが握りこぶしを突き上げていた。
リッチを倒せたようで、消滅していくところだった。
「……あっ、しまった」
慌てて視線を戻すと、ボーンナイトはどこにも見当たらなかった。
遺跡の主がいなくなった影響なのかもしれない。
「こんなに魔法を使ったのはいつぶりかしら」
アデルを見ると多少労力を要したようで、手のひらで頬に風を送っていた。
「……あの木箱に目当てのワインがあるんですか?」
「箱自体はワインを保存するものだから、間違いなさそうよ」
「トラップもなさそうだし、あんたが開けていいぜ」
「そうね、いかせてもらうわ」
アデルがゆっくりと木箱に近づき、俺とハンクは後ろから見守る。
「……さあ、開くわよ」
彼女は慎重な手つきで蓋を開くと、箱の内側に手を入れた。
その後、おそるおそるといった様子で、くすんだ色の瓶を取り出した。
「……あっ、あった! ワインよ」
「よしっ、おれの情報は間違いなかったな」
ハンクは誇らしげな顔をしていた。
「すごいですね、こんなところにワインがあるなんて」
「ここは宗教が禁止される前の修道院みたいだな。ワインの醸造もしてたってところか」
信仰が禁じられる前となると、ずいぶん大昔に遡ることになる。
彼の話を聞きながら、アデルの手にした瓶を眺めた。
「それじゃあ、回収して帰ろうかしら――」
と、ふいに瓶に亀裂が入った。
「えっ、えっ、どうなってるの!?」
彼女が混乱している間に、瓶は無残に砕け散った。
「どうやら、どれも同じみたいだな」
ハンクが箱から瓶を持ち上げた後、少し指で触れると亀裂が走った。
「そんな……ありえない」
アデルは気高さをどこかに置き忘れてきたかのように肩を落とした。
彼女にかけるべき言葉が浮かばず、その姿を見つめることしかできなかった。
あとがき
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