堕天
許されなくても構わなかった。それでも幸せになってほしかった。
殺戮兵器の腕前は健在だった。持ち前の勘と骨の髄まで染み込んだ剣技で、本来は守るべき人々の喉笛を裂く。足さばきも、剣の振るい方も、目線の動きも、現役の頃から何も変わっていない。当然だ。古今東西の天使が集まるアイリーシェで、トップを取り続けてきたのだ。この腕は伊達ではない。
(……ごめんね)
あのときのイオは、柊木と同じ顔をしていたのだ。運命に嬲られながら、それを知らずに、当然のこととして生きている顔。その中での幸せを、馬鹿の顔をしながら享受している顔。見過ごせなかったのだ。それが例え、イオを殺すことになったのだとしても。
痩身の草兵を一閃、そしてガタイのいい男を刺して、蹴り飛ばして剣を抜く。人々は何が起こっているのかわからないだろう。天使は現世の人々には見えない。霊感がある人には別だが、それでも、急に血を噴き出して倒れていく人々を見るのは恐怖だろう。敵が見えないから、次は自分かと怯える者。
柊木の後ろには、キースがいた。
(もう、殺してほしくないんだ)
キースは〝生きる〟ために剣を振るってきたのだから、戦場なんて似合わない。笑って生きてほしいのだ。戦死を美徳とする戦争に送ってはいけない。
キースはどんな顔をしているのだろう。わからない、わからないけれど、これ以上、その手を血で汚してほしくなかった。完全なるエゴでも。
自身が穢れを纏っていくのを感じながら、血の臭いに脳を酔わせていた。
(……意味がほしかった)
『我らに逆らったからだ』じゃ、満足できなかった。人生の反抗期だった。
この手を血で穢すことを運命で決められていた。その意味とやりがいがほしかった。
キースに会って、手に入れた。だから柊木は……人殺しのアスターは、剣を振るうのだ。
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