から揚げ

 天使は、生きていた頃の体質をそのまま受け継ぐ。

 だから、剣の才能がある奴は、生きていた頃と遜色ない剣技を披露するし、編み物が好きな奴は編み物が好きなままだし、性格だってそのままだ。アレルギーや障害は治るらしいが、そのくらいである。


「イオ、もっと食べなよお。せっかく食べ盛りなのに」


 したがって、イオが少食なのは逃れられない運命なのである。

 確かに、午前は実技が二つ……剣術と体術……もあって大変だったし、疲れたし、腹も減ったが、目の前にあるようなから揚げの山を食べきれるかどうかは別問題なのだ。

 柊木がこれでもかと乗せたから揚げを、泣きながらもそもそと食べる。これほど昼食がバイキング制なのを恨んだことはない。

 その横で、ほいほいとお手玉のようにから揚げを放り込む柊木は何者なのだろうか。細身の体によく入るなと感心してしまうほど、柊木はよく食べる。無駄のない動きで、最低限の所要時間で決着をつけるくせに、多分イオたちより格段に動いていないくせに、腹は一丁前に減るらしい。

 イオの前には、規則正しい昼食をトレーに乗せ、礼儀正しく食べている桜綾が、あきれた顔をしてから揚げの山を見つめていた。


「あなた、こんなに食べられるの?」

「無理だ。柊木が勝手に乗せてきた」


 軽蔑するような視線を浴びた柊木が、慌ててから揚げを嚥下し、誤解だよ! と語気荒めに叫んだ。


「だって、あんまりにもイオが食べないから、心配で。それに、もしお腹いっぱいになったらぼくが食べるから」

「他人の皿にあるものを食べる、ですって? はしたないわ!」


 憤慨しつつ魚を綺麗にほぐし、器用に箸をあやつって口に運んだ。桜綾の動作は、いつ見ても洗練されている。きっと生きていた頃は貴族令嬢だったのだろう。


「そういえば」


 しばらくは肩身狭そうに食事をしつつも、いつの間にか調子を取り戻し、ミネストローネを水のように飲んでいた柊木が、口元を拭いつつ言った。


「現世、また大規模な戦争が起こるらしいよ」


 あぁ、と頷くと、桜綾が右手を頬に添えた。


「実習、連れて行ってもらえるかしら」


 どうだろうね、死者数によるね、と口々に話しながら、またひとつから揚げを食べた。


 天使の仕事に、死者の魂を導く、というものがある。死者の国の大神官様が待つその場所へ、上手く辿り着けない魂もいるのだ。それを上手に導くのが天使の仕事で、最も簡単と言われるがゆえに、イオたち二年生の実習でもたまにやらされるのだ。

 内申にもあまり関係ないし、楽しいので、あってほしいなと考えてしまう。


「……いっぱい、死なないといいね」


 恐らく、こうやって考えるのが正常なんだろうけども。

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