第26話「隠し部屋」

 連中をどうにかしたいと思いつつも、

映像の提出をすればいいんだけど、証拠品はこれまでの分は、

処分したが今後のおすそ分けを取っておけばいい。

実際に奴らの目的を知って以降の、おすそ分けは残してある。


 ただあの映像だけで問えるのは、僕と黒の勇者への殺人未遂だけだ。

過去の分は、あの証言だけでは、今となっては問う事は難しいだろう。

そう思うと気が収まらないものの、かといって何をすればいいか分からなかった。

相手が犯罪者だからと言って、こっちが手を下すわけにはいかない。


 なお鎧が保有する武器の中には呪殺武器と言って、相手を呪い、

どう見ても自然死したようにしか思えない殺し方をできるものがある。

それらは鎧を着なくても召喚でき使用可能だが、

鎧の力で代償を無力化しているので、着ていない状態で使うと、

代償で使用者もただじゃ済まないけど。


 ともかく、その呪殺武器の中におあつらえ向けのがある。

それは、呪殺武器に分類されているけど、殺傷能力はない。

ただ相手を破滅させることは確実にできるので、

殺さないという事もあって、それを使う事も考えた。

でも、やっぱり物がモノだけに、使用には抵抗があって、

最終的には頼ることになるだろうけど、今はやめておいた。


 でも結局、いい考えが浮かばないまま日々は過ぎていく。

ただ連中の目的は、僕と言うか黒の勇者のみなので、

他に被害は出ていなくて、それと放っておいても、

進展がないのは向こうも同じで、毒だってただじゃないし、

刺客を用意するのだってお金はかかる。

まあ新しい刺客はまだ見つかっていないようだが。


 既に最初の失敗で、随分金を使っているようで、

例え事をなして、家が安くなったとしても、

多少の借金が必要な状態になっていて、二人は大分焦っているようだった。


 ちなみにあの後も、マジックドールはそのままなので、

奴らの動向はこちらに筒抜けになっている。

正直な話、進展がなくて焦っている連中を見ていると、

妙にスカッとする僕は、大概性格が悪いんじゃないかと、

少し自己嫌悪に陥るものの、このまま放っておくのが、

奴らにとって一番ダメージがあるんじゃないかと思った。


もちろん、その内、自棄を起こして周囲を巻き込むような真似をされても困るので、

早急に何か手を打たないと言う思いはあるけど。


 さて連中への対処が思いつかないまま、日々が過ぎていくなか、

僕はこの家の隠し部屋の事も気になっていた。

別に奴らと違って、お金が目当てなわけじゃない。

目当ては隠し部屋そのもの。何というか、まあ浪漫なのかな。

そう言うのがあると思うだけで、ワクワクする。

中に何も無くたっていい。隠し部屋を見つけるだけでも、楽しいのだから。

まあ今回はお金じゃないけど、隠しておきたい財産があるみたい。


 ただ見つけるのは容易ではないようで、


「この鎧のサーチでも無理か……」


分析魔法を防ぐものとして「サーチ除け」と言うのがあるんだけど、

鎧の「サーチ」は強力で大抵の「サーチ除け」は突破できるが、

この家のは、さらにその上を行くようで、

全く無力化されるわけじゃないものの、効果範囲がかなり狭められる。


(入り口のある部屋に行けば、分かるかもしれない)


と思ったけど、この家は家族向けの邸宅なので、 部屋が多い。

それらの部屋を掃除する事で、家事スキルを高めてるんだけど、

多いから面倒なところがある。

 

 それでも探してみたいという思いを抱いた。

先も述べた通り、金じゃなくて浪漫だけどね。


(さてどこから探そうか)


何かを探すというのは、何かワクワクする。


 だけどすぐに


「あっ!」


気づいたことがあった。それは書斎だ。

ここは最初の持ち主の頃から、そのままの部屋だ。

わざわざ遺言でこの部屋を残すように指定していた。


(もしかしたら、部屋を弄られたくないという思いからじゃないだろうか?)


僕は鎧を着たまま早速、書斎に向かう。一度中に入って読書をした事はあるけど、

ふだんは掃除以外では、入る事はない。ただ掃除で入るたびに、その蔵書の量に、


(立派な部屋だ)


と思う。


 早速、サーチを使ったけど、この家の他の場所で使ったよりも、

より制限が強くなった。これだけで当たりな気がした。

まずは部屋の両端にある本棚から始める。最初に左側の本棚に接近し、

サーチを使う。


(違うか……)


本棚の裏とかに出入り口とかは無かった。

ただ細工のようなものは、見つけた。どうやら扉を開けるためのものの様だけど、

ここだけじゃ駄目のようだった。


 もう一方の本棚も確認した。


(あたりだ……)


裏には隠し部屋に繋がる扉があったが

本棚は固定されていて、現時点では人の手では動かせない。

更に本棚の裏には硬い扉があって、

これが中々丈夫で強引に壊すのは容易ではない。

そして最初に見た本棚と同様に、細工があることを確認した。

しかし分かったからと言ってどうすればいいか分からない。

あと何かが足りないような気がした。


 最後に残った場所は机だ。接近してサーチを使用すると、


(机にも細工が……えっ?)


机に施された細工を確認した途端、

仕掛けの解き方が自然と頭に入ってきた。


(サーチにこんな効果があったっけ?)


サーチを使って得た情報を元に自分で考えて、

謎を解くという話は聞いていたし、僕もそのつもりだった。

でもサーチが扉の開け方まで教えてくれるのは、予想外だったし、初めてだった。


(この鎧のサーチは普通とは違うのだろうか?)


そんなことを感じた。


 サーチのことは、さて置き、少々拍子抜けしたものの、

開け方が分かったならば、早速試してみたかった。

もう鎧は必要ないと思った僕は、一旦鎧を脱いだ。

そして頭に浮かんできた通りのことをした。


 まず最初は左側の本棚からで、一部の本を特定の順番に抜いていく。

抜き終わったら、もう一つの右側の本棚に移り、こちらも一部の本を、

特定の順番に抜いていく。重さでスイッチが入って言う感じだ。


 共通項の無い本ばかりで、偶然抜くなんてことはないし、

しかも順番があるから余計だ。

それと本棚の本を全部抜いてしまうと、仕掛けは起動しない。


 本棚の本を抜き終わると、次は机のほうに行く、

そして机の引き出し、左右に三つずつ、真ん中に大きいのが一つあるけど、

これらを順不同に開けたり、閉めたりを繰る返し、

最後に左の一番上の引き出しを閉めると、「コトン」という音が聞こえた。

左側の一番上は、何も入っていなっかったが、引き出しを開けると、

鍵が入っていた。そしてカギを取ると、机に鍵穴が姿を見せる。


 この鍵穴にカギを入れて回せば完了だけど、

二つの本棚に、机まで使うとなると、

まぐれで開くことは決してないといえる代物だった。


 そして僕は、鍵を鍵穴に入れて回すと、

右の本棚が入口の方に向かって移動して、

裏にある扉を露わにした。そこにあった扉も、

右側に移動して、隠し部屋への入口が露わになった。

早速、中に入ることに、なお入ってすぐの壁にはボタンがあって、

そこを押すことで、内側から扉の開け閉めが、出来るようだった。


 それはともかくとして、隠し部屋は随分広く、

二人以上は寝られそうなベッドと小さめの机と椅子、

そして本棚があって、本がびっしりと詰まっていたが、

中身を確認して、思わず顔が熱くなる。


(サマンサさんの言うとおりだったな……)


 あとトイレもあり、さらに地下に続く階段もあって、

そこを降りていくと広めの風呂場もあった。

更に調べてみると、転移ゲートを生成するマジックアイテムもあった。

これは隠し部屋から使用でき、緊急用の脱出の他、隠し部屋の中にいる人が、

他者を招くためのものの様だった。


 それに部屋にある大きなベッドといい、広めのお風呂場といい、

他人を招くための転移ゲートなど、この部屋の目的が分かった気がした。

なお隠し部屋には、お金とかが一切なかった。

まあある意味、宝物と思えるものがあったが。


 ともかく目的は幻であることは分かった。

しかしそれを教えたところで信じることはないだろう。

「黒の勇者」がお金を隠匿したというに違いない。

それと連中が家を買おうしているのは、謎解きを諦めているからではないかと思う。

謎解きだけなら、空き家になってるうちに忍び込んで、行える。

それができないから、直接破壊して探すつもりじゃないかと思った。

空き家の時にそれをやると目立つし、ばれて捕まる可能性もある。

買ってしまえばどうしようと、誰も文句は言わない。


 しかし、その為に連中はもっと殺人と言う大きな罪を犯している

もしかしたら、家の破壊よりも自殺に見せかけた殺人の方が、

発覚の可能性が低いと思っているんだろう。

隠し部屋は見つけたから、満足だが、奴らの事を考えると憤りを感じる。


 とにかく奴らの求める財産は幻なのだから、

いつまでも終わりはない。だからこそ今回の一件で、

もっとも連中の凶行を終わらせなければと強く思うのだった。

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