第25話「ホラ吹きの話」

 マジックドールからの映像は記録しているので、

これを提出すれば、隣人をお縄にすることは可能なはずだ。

ただ盗撮映像なので提出の仕方は、少し考えなければいけないけど。


 その前に、連中の目的である大金がどこから来るのか。

それを探る必要があった。もしそれに第三者が絡んでいれば、

二人が捕まったとして、次があるかもしれないからだ。

しかし、その後も二人は家を手に入れたら、大金が手に入ると言うだけで、

出所は一切話そうとしなかった。


(このまま粘り強く監視を続けてみようか……)


とそんな事を思っていたけど、ここでふと不動産屋の人の話を思い出した。

館を設計した建築家の家族の騒動の事。

関係があるかは不明との事だけど、あの時、話題にしたと言う事は、

何かあるよう気がしたのだ。


 翌日は、仕事が会ったので翌々日に不動産屋に向かうと

以前と同じ担当者が対応してくれた。


「今日は、どのようなご用件で?」


そこで僕は、襲撃事件の事を話し、


「主人は、これまで館で続いて来た自殺との関係を疑っています。

僕が名の気なしに話した館を設計した建築家の家族の話を気にしているようで」


と話すと、担当者は困った様子で、


「口を滑らせた私が言うのもなんですが、関係があるかは分からないんですよ」

「でも、あの時話したのは、想起させるものがあるんじゃないんですか?」


と聞くと、


「実は、最初の自殺と時期が近いんです」


これは彼女が聞いた話で実際はどうかは不明だが、

建築家の子供たちが、そろって離婚したのは、最初の自殺が起きる少し前だと言う。ただ少しと言っても、一年以上間があるから、偶然の可能性もある。


「前も話しましたが、詳しい話は分からないんですよ」

「でしたら、本人に直接聞いてみます。連絡先は分かりますか?」

「分からないわけじゃないですが、個人情報ですから」


離婚云々も十分個人情報だと思うけど、流石に連絡先とはダメなようだった。


「まあ本人たちに連絡を取ってみますので、今日の所はお引き取りを」


との事で、その日は一旦帰った。


 その後、動きがあったのは一週間後の事だった。

なおこの間は、襲撃とかはなかったが、

カリーナからの毒入りのおすそ分けは続いていたが、それはさておき、

不動産屋から手紙が来た。


 それによると、建築家の家族との繋がりは仕事関係ではなく、

担当者の上司が個人的に付き合いがある関係らしく、

その上司に頼んで、連絡を取ってもらったところ、


「黒の勇者様からの頼みなら」


と快諾してくれたと言う。しかも話が聞きたいなら、

直接出向くとの事だったが、この一件が建築家の家族と関係があるなら、

出入りをあの二人に見られて、

探りを入れているのがバレる危険性があるので、

手紙で、返事を書く際にこちらから出向くことと、

そちらと接触してるのがバレると、不都合があるので、

来てほしくないことを記した。


 その後は手紙のやり取りで予定を決めて、

建築家の家族の元に会いに行った。会いに行ったのは、

建築家の子供の家の姉の方で、近隣の町に住んでいた。

なお行きは馬車で向かった。バイクを使う距離じゃないのと、

道中は人多く通る場所なので、黒の勇者の姿では、目立つからだった。


 家に到着すると、


「初めまして、あなたがライトさんですね?私はサマンサと言います」


初めて見る顔ではなかった。ビーストストームの中で僕が助けた人物だった。

あの日、偶然僕の住み町に来ていて、巻き込まれたとの事。


 なお手ぶらではなく手土産としてお手製の、

チーズスフレケーキを持って行った。


「これはご丁寧、ありがとうございます」


その後、家に上げてもらい。

紅茶と、向こうも事前にお菓子としてケーキを用意してくれていたようで、

それが出され、そして話を始める。


「あなた達は、あの『家』に住まわれているんですね」

「はい、あの家で起きてきた出来事が、

あなた達の騒動と関係があるかは、分からないのですが」

「まあ確かに自殺が始まった時期も、近いんで気にはしていたんですが」


ただあまり関わりたくなくて、特に何もしてこなかったが、

今回は、恩人である「黒の勇者」の頼みとの事で、

話をしてくれることになった。


 そして話をするにあたって、


「まずは、父の話をさせてください。この件には大きくかかわる事なので」

「はい」


そして彼女は話を始めた。


「父は、建築家としての腕は良く立派な建物を設計してきました。

特に本人は、隠し部屋とか隠し通路とかを作るのはすごく好きでしたね」


なお依頼主から頼まれたらであり、勝手に作ることはなかったと言う。


「あなた方が暮らしている屋敷、元は父の友人の依頼で設計したもので、

隠し部屋があるそうですよ」


あの家の最初の持ち主は建築家の友人だったと言う。


「父は人も良くて、誰からも愛されてはいましたが」


ここから恥ずかしそうに


「酒に酔うと、ホラを吹くんです」


と言った。


 その内容は突拍子の無いものばかりで、あまり女性にもてる人じゃないのに

奥さんと出会う前は100人以上の女性と付き合ってきたとか、

当時いなかった筈の勇者と親友で一時旅をしたとか、

戦闘経験もないのに単身で上級のドラゴンと戦い倒したとか

他にも、悪魔と知恵比べをして買ったとか、数々のホラを吹いたらしい。

もちろん、みんなホラだとわかって、笑っていたそうだ。


「そんな中でも、父がよく言っていたのが、

『自分には莫大な財産がある』というものでした。

しかも自分だけじゃなく他人も巻き込んで、『アイツは莫大な財産を持ってる』

とかも言うんです。ほとんどの人は否定するんですけど、

中には乗っかる人もいて……」


その乗っかった人が、僕の住む家の最初の持ち主。


「隠し部屋に財産を隠してるとか言ってましたね。

もちろん父に乗っかってるのは分かってましたから、誰も信じてませんよ」


と言いつつも、サマンサさんは恥ずかし気に、


「まあ、あながちホラとも言えないところがありますけど」

「それは、どういう……」


すると小さな声で


「実は、二人の話を盗み聞きしたのですが……」


話を聞くと、その内容に顔に火照るのを感じた。


「それは、確かに隠しておきたい財産ですね」


お互い苦笑いした。


 そしていよいよ本題。


「実は、父のホラが離婚の原因なんです」


先に述べたがサマンサさんの父親は、莫大な財産があるというホラを吹いていたが、

彼女の弟の奥さんつまり弟嫁が、真に受けてしまったという。


「あの人も父がホラ吹きだと知っていたのに、どうしてか、

財産があると思い込んで、私たちがそれを隠しているって騒ぎだしたんです」


もちろん財産などあるわけもなく、どれだけ説明しても信じず。

ついには自分の夫、つまりはサマンサさんの弟や、さらには自分の子供にまで、

手を上げる始末で、それが原因で、離婚となったらしい。


(子供に手を上げていたんじゃ、親権が父親の方に行くわけだな)


と僕は思う。


 しかし事態はそれだけに済まず、


「私の夫も同じことをし始めたんです」


つまり財産の事で騒ぎだして、

ついにはサマンサさんに暴力を振るうようになっていた。

それが原因で離婚になったわけだが。僕はここで、


「ところで、遺産相続って弟の元奥さんも、元旦那さんも関係ないですよね」


と聞くと、


「そうですけど、旦那の物は妻の物、妻の物は旦那の物って考えがあるんでしょう。

しかし、あの二人は昔は優しくてあんな事をする人じゃなかったんですけど

お金は人を変えますね」


その言葉に対し僕は、


「変えたんじゃありません。それがその二人の本性だったんですよ」


僕は父さんから聞いたことがある。人の本性を暴く一番いい方法は、

目の前に大金を置く事。

大金は人を変えるんじゃない。隠された真の姿を露にすると。


 その後の顛末はと言うと、離婚となって二人はごねたらしいが、

暴力沙汰が決め手になって、 離婚は成立した。

そしてサマンサさんの父親が酔ってホラを吹くのは近所でも有名なので、

真に受けた二人の方がおかしいとして周りから嘲笑されるようになり、

周囲の目を気にして、二人はそろって離婚後、街を離れたという。


「これで、離婚の顛末は話しましたけど、黒の勇者様の参考になるでしょうか?」


この時点では一見、

サマンサさんの離婚の顛末と家の件がどうつながるのかは分からなかった。

 

 ここで思い立って、


「そう言えば、お二人の名前は?」

「私の元旦那はマルセルと言います。弟の元妻はカリーナと言う名前で」

「えっ!」


と思わず声を上げてしまう。


「どうかされましたか?」

「いえ……ところで元旦那の職業は?」

「商人です。確か、冒険者ギルドに出入りしてたと思います」


ここで話が繋がった様な気がした。


 僕は頭を下げ、


「ありがとうございます。とても参考になりました!主人も喜ぶでしょう」

「黒の勇者様のお役にたてて嬉しいです」


サマンサさんも嬉しそうに答えた。そして、僕は立ち上がり。


「そろそろ帰りますね。この事を急ぎ主人に伝えねばなりませんので」

「でしたらこれを、黒の勇者様へのお土産です」


と彼女は紙袋を渡してきた。中身は僕に出されたのと同じケーキだ。

もちろん毒は入っていない。

ただ黒の勇者は僕なので、既にケーキをいただいた以上、

必要ないのだけど、正体は秘密にしないといけないので、


「ありがとうございます。主人も喜びます」


と言って受け取り、


「では、さようなら」


と言って、お土産を手にしたまま、サマンサさんの家を後にして、

帰りは、人気のない場所で、転移ゲートを使って帰るのだった。

行きは初めて行く場所だったから使えなかったのだが、

帰りは気持ち的に、早く帰りたくて使った。


 家に帰った僕は、お土産にもらった二個目のケーキを食べつつも

考えをまとめる。僕の推測だけど

この家の最初の持ち主は、サマンサさんの父親のホラに乗っかって、

家の隠し部屋に財産を隠したとホラを言って、

カリーナとマルセルはそれを真に受けた。

遺産を手に入れられなかったから、そっちに狙いを定めた。


(あるいは、友人同士だったとの事だから、遺産を預かって、

一緒に隠し部屋に隠していると思ったのかもしれない)


とにかく奴らはありもしない遺産を狙って、大勢の人を殺した事になる。


 そして今後の事を考える。証拠となる映像記録を然るべき場所に、

提出すれば二人を捕まえる事は出来るかもしれない。

だけど、自分の欲望の為に、大勢の人を犠牲にした連中を許す事が出来ない。

特に、この家に留まるうかばれない人の霊の事を思えば、

余計にだ。いくら騙されたからと言っても、そもそも例え真実をであったとしても、

やってはいけない事をしているんだ。


 これ以上首を突っ込む事じゃないとは思うけど、

どうにも、黙ったままではいられなかった。

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