第27話「閑話」
凶行を止めると言っても、先も述べた通り現時点では殺人未遂。
被害者である「黒の勇者」がピンピンしてる状況では、
大した罪にならない可能性がある。そうなったら同じことを繰り返すだろう。
無いことを納得させることは難しいだろうから。
それに考えてみると被害を訴えた際に、
体の事を調べられたら正体露見の可能性がある。
いい案が浮かばないまま、マジックドールでの監視を続けつつ、
時だけが流れていった。
カリーナとマルセルは事が上手くいかないことの業を煮やしているのか、
二人の関係は険悪になっているようだった。
カリーナは「黒の勇者」への新しい刺客を用意できないマルセルに文句を言い
マルセルはカリーナに、きちんと毒を盛っているのかと文句を言う
その他、些細なことで、言い合いになっている姿を見て、
(この二人、もしお金があったとしても、それをめぐって喧嘩しそうだな)
と思いつつも、いっその事このまま自滅してくれないかと、本気で思っていた。
それに、狙いは黒の勇者や、僕に絞っているので、
他を巻き込むことはないだから、急ぐ必要はなさそうだった。
そんな中、買い物に行こうとして、家を出たところでカリーナに会った。
今回はお裾分けではなくて、
「どうもこんにちは」
普通に挨拶をした感じだったが、
「そういえば黒の勇者さまは、お元気ですか?」
どうも探りを入れてきたようだった。
「ええ、元気ですよ」
別に相手にゆさぶりをかけるつもりがなかったけど、
つい反射的にそう答えていた。
「それはよかった……」
と笑顔で口では言うけど、その笑顔は引きつっていた。
これが原因なのか、その日の夜、
いつものようにマジックドールで監視していたのだが、
彼女は鬼気迫る様子で料理を作って、毒を入れていたが、
「おい、それはさすがに入れすぎだ!」
とこの時家に帰ってきたマルセルが制止する。
「それ食って死んじまったら、不審死になっちまうぞ。
そうなったら、これまでの事も疑われちまう」
すると据わった目で、マルセルを見ながら、
「その時は、あのライトって奴に罪を擦り付けるから、
それに自殺よりも他殺の方が、あの家の値段は下がるわよぉ」
「それは、無理だ。あのライトって奴は、冒険者としたら3流だが、
ギルド内じゃ誠実さでは、信頼されてるんだ。確実に冤罪を疑われる」
それを聞いた僕は、3流というのは自覚はあるけど、
マルセルに言われると腹がたった。しかし彼の言うギルド内の評価については、
(そうだったんだ……)
と初耳だった。まあギルド職員のエイラさんが、
色々と世話を焼いてくれていたけど、そういう事もあるのかな。
誠実さでの信頼と言っても実感がわかなかった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
と言って睨み付けるが、
「実は、奴と戦ってくれるいい人材を見つけた。
そいつは魔獣使いだ。盗賊よりも他殺を疑われにくい」
魔獣使いと言うのは、魔獣を扱うテイマーだと思えばいい。
「しかも広範囲に動ける魔獣を使うから、
奴の受注している依頼が分かれば、どこであっても魔獣を送り込める。
だから偽の依頼を出す必要もないし、金も後払いでもいいらしい」
「でもどうしてそんな人が?」
「さあな、向こうから来たんだ。
俺が酒場で黒の勇者を殺せそうなやつを探していたらな」
この街にはヤバめの連中が集まる酒場がある。
おそらく、そういう場所で探してたんだろう。
「しかもずいぶんと乗り気でな、
多分、黒の勇者に恨みを抱いてるんだろう」
見の覚えはと言うと、盗賊団の関係者か、暗黒教団しかないけど、
とにかく新しい刺客が見つかったようだった。
「今度こそ大丈夫なの?」
「なかなか、強い魔獣を複数扱っている。
ただ最初に弱めの魔獣を送り込んで、相手の強さを判断するらしい」
ただ、その際の手ごたえによっては依頼を断ることもあるらしい。
「とりあえず、ギルドの協力者を使って、黒の勇者の直近の依頼を確認して、
奴に伝える。どの依頼で狙うかは向こう次第だがな」
「………」
やはり、まだ信頼できなのか、黙り込んでしまったが、
毒を増やすのはやめたようだった。この時作っていた料理は、
翌日おすそ分けとして、もらったけどもちろん食べずに保管している。
ただ、ギルドの協力者の事が気になって、
(こっちの方を潰してみるか。しかし二人とも、
自分たちの企みが筒抜けになっているとは、思いもしないだろうな)
その後、別のネズミ型のマジックドールを使い。
マルセルを追って、ギルドの建物まで来たものの、ネズミ型なのが災いして、
「キャー!ネズミよ」
とギルドの女性職員が声を上げてしまい。混乱が起きて、
撤退せざるを得ず、結局、特定に失敗した。
その後、家に戻ってきたマルセルの会話から、
奴は協力者との接触を終えた後だった。
次の接触まで、待つのもどうかと思った僕は、策を考え、
そしてエイラさんに会って、黒の勇者からの伝言という形で、
話をして、協力を取り付けようと思った。
この人は信頼できるし、実際に調査をしているという事だから、
手を貸してくれると思ったからだ。
そこで、僕はエイラさんに会って、
「あのこの前の偽依頼について、主人からの伝言がありまして……」
ただ冒険者ギルドを疑っていると言えば、
いくら調査をしていると言っても気を悪くしかねないので、
気を付けて話をしようと思っていたんだけど、
「ちょうどよかった。こっちに来て」
そう言うと、僕を個室に案内した。部屋に入ると、
「ここなら、盗み聞きされることがないから」
彼女の方からも、話があるようだった。
まずは最初に、
「話というのは、もしかして偽依頼と襲撃に関することかしら?」
偽依頼のことは、話していたけど、関連性は不明だったから、
襲撃の事までは話していなくて、多分、衛兵から話が伝わったのだと思った。
「はい……」
と答えると、エイラさんは、
「その件にかんして、此方からも話があります。よろしいでしょうか?」
「はい……」
と答えつつも、
「本当なら、本人に話をしたいんだけど、
あなたなら、信頼を置けるし、黒の勇者様も、
信頼があるだろうから、あなたに話しましょう」
と前置きをしつつ、
「申し訳ない話ですが、襲撃者の黒幕と協力しているものがいると、思われます」
と疑うきっかけは、襲撃の話を聞いて偽依頼の依頼書を確認したことだった。
「実は、最近高ランク冒険者への悪戯の防止のために、指定依頼は、
審査を厳しくしているんです」
怪しいと思われる依頼書場合は、ギルドの職員が、依頼人に連絡を取って、
確認もしているという。
審査の際は、筆跡を確認できるマジックアイテムも使うという。
「そんなものがあるんですか」
「最近導入したんです」
そのマジックアイテムは、過去に依頼してきた人間の、
筆跡を記憶していて、違っていた場合は、依頼者に確認するという。
なお完全新規の依頼人は、記録していないので、その事を教えてくれる。
そのマジックアイテムを使って、最初に依頼を振るいにかけるとの事。
新規の人、過去に依頼をした人、そして過去に依頼をした人の名義にも関わらず、
筆跡が合わない人。なお代筆の可能性もあるので、筆跡が合わないからと言って、
直ぐに弾くことはない。ふるいにかけた後の審査に関しては、
秘密との事で、教えてくれなかったけど、
「今回の偽依頼の依頼書を試しにマジックアイテムに通したところ、
過去にも依頼してきた事があったのか筆跡が合わないと出たんです」
本来なら、依頼人への確認が必要となる話だったが、
それが行われず、通ってしまったということは、
「ギルド内の職員が、それを怠ったということになります。
襲撃者たちの事を考えても、意図的だと思われます」
依頼の審査を行っている職員内に協力者がいるとの事だった。
そしてエイラさんは、
「ところでそちらの要件は?」
と聞かれたので、
「実は主人も、エイラさんと同じ考えに達したようで、
エイラさんに協力してもらおうかと……」
ここで頼みたかったことを話す。すると、
「私も同じことを考えていました。
ですが今回の事は、我々が対処すべきことであり、
黒の勇者様の仕事ではありません。なので、私が協力するんじゃありません。
私に黒の勇者様が協力するという体でお願いします」
と言ってきたので、
「それは、さすがに悪いですよ」
「いえ、ギルドとしての依頼ですから、
それにいつ尻尾をみせるは分かりませんからね。
そうなったら、一方的にそちらに迷惑をかけることになりますし」
と頑なだったので、
「分かりました。お願いします」
というわけでギルドに協力する体で、事を実行することになるも、
(まあ、確実に尻尾を見せることになるんだけど……)
と思いつつも、盗撮によるものなので、その事は言えなかった。
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