第23話「偽の依頼」

 契約を交わし。お金を一括で支払い。

晴れて家を手に入れた僕は、早速宿を引き払い、移り住んだ。

家具付きなので、その日から住むことができる。


 一日目は、曰くをどうにかしようと思い、

鎧を着て家に入った。この鎧には、退魔の為の道具がそろっていた。

つまりお祓いができるのだ。なおお祓いをできる人間は少なく、

たとえ大魔導士であっても、殆どは出来ないと言う。


(隣国に住む大魔導士のクロニクル卿はできるって噂だけど)


 とにかく、鎧の力に頼るのは癪ではあったけど、

格安で家が買えたわけだから、良しとしなければならない。

まあ家を買ったお金も鎧のお陰なんだけど。


 そしてお祓いを試みたんだけど、結論から言うと、必要はなかった。

確かに、この家には、うかばれない霊が大勢いた。

交信ができないので、何者かは分からないけど、

この家で自殺した住民たちのようだった。

そしてみんな、僕に対しては敵対意識はなかった。

むしろ、新たな住民となった僕の事を案じてくれているようだった。


 そういう訳で、お祓いはしなかった。

それ以前に、これまで起きた自殺に霊的な要因はないように思えた。


(霊たちが僕の事を案じているところを見ると、もしかしたら人的要因……)


もしかしたらこれまで起きてきた自殺は、

人の手によってもたらされた。

すなわち自殺に見せかけた殺人の可能性が出てきた。


(しかし、衛兵の捜査でも分からなかったって言うしな……

異界の科学捜査なら分かったかもしれないけど)


とにかく相手は狡猾なのかもしれない。

何が目的は分からないけど、この家に住んだ者を殺す気ならば、

いずれ僕の前に現れる。


(その時は、鎧の力で返り討ちにしよう……)


そんな事を思ったが、鎧頼みな自分に気付き、自己嫌悪に陥るのだった。


 気持ちが沈んだけど、気を取り直して、食材を買いに行き、

台所の豊富な調理器具を駆使して、その日の食事を作るのだった。






 数日後、隣の家では、男女が話をしている


「あの家の、次の住民は黒の勇者のみたいよ」

「本当か!」

「噂になってるし、私も出入りしているのを確認しているわ」


男は頭を抱えながら、


「これまで、うまくやって来たと言うのに

相手がA級冒険者となれば、一筋縄ではいかないぞ」


すると女は、


「大丈夫よ。手は幾らでもあるわ。しっかりなさい。

あと一歩なのよ。次何かあれば、あの家はさらに安くなって、

私たちの手が届くようになるわ」


と叱咤した。すると男は、


「そうだな……多少の無茶は必要になるが、

それに見合うだけの、それ以上の報酬があるんだもんな」

「そうよ、あの家を手に入れて、お金持ちになるんだから!」


この後二人は、良からぬ相談を始めたのだった。




 新居に住んでから一週間、いつも通り黒の勇者として仕事をこなしたり、

あとソフィーさんも家を買ったとの事で、ルリちゃんに家に誘われて、

僕も彼女を誘って、お互いの家を見せ合ったりもした。

ソフィーさんの家は僕の家よりかは小さかったけど、それでも立派な家だった。

実は僕よりも先に家を探していて、候補には、僕の住む家もあったそうだが、


「広いと落ち着かないから、私……達にはこれくらいで良いと思って……」


それでこの家を家に決めたという。


(そういえば、不動産屋が言っていた決まった家というのは、この家なのかな、

もしかしたら、この家も曰く付き……)


ルリちゃんの家に行ったとき、そんな事を思ったけど、

なんだか言いづらくて、指摘できなかった。


 そんな日々の中、来客があった。

その人は女性で、ウェイブのかかったロングヘヤーで、

妙に色気のある人で、紙袋を持っていた

「私、隣に住むカリーナ・レイクスと言います。

黒の勇者様が引っ越してきたとの事で、遅れましたが、ご挨拶を……」

「はぁ……お生憎ですが、主人は留守でして……」


もちろん黒の勇者は僕だから、嘘ということになるんだけど。


「そうですか、でしたらお近づきの印に」


と言って紙袋を渡してきた。


「中身は、手作りのクッキーです。お口に会えばいいのですが」

「お気遣いありがとうございます」


と言って、僕は紙袋をもらう。


「それでは、ご近所同士、仲良くしていきましょう」

「ええ、そうですね……」


と言って彼女は去っていった。

そして僕は家に戻り、紙袋の中身を確認した。

確かに中身はクッキーだったが、ここで鎧の力が、

分析魔法のサーチが発動し、


「毒入り!」


クッキーの中には毒が入っていることを知らせてきた。

それは致死量じゃないが、特定の薬を飲まない限り、

体内から排出されずに溜まっていく毒でもある。


(まさか、あの人は少しずつ毒をもって僕を亡きものにしようとしているんじゃ)


おすそ分けとか言って、事ある事に食べ物を持ってきて、

それには、毒が入っていると言う感じだろう。

やがて致死量に達した時、死に至る。


 そして毒入りクッキーを見ながら、


(あの人が、この家で続いている自殺に関わってるんだろか)


と思いつつも、


(衛兵所に届けるべきなんだろうが……)


しかし、どうして毒が入っているか分かったのか聞かれると、

回答に困る。何故かと言うと、この毒は元来サーチでは検知できない毒で、

一般人には手に入らない特殊な薬で検知出来ると言う。


 実は鎧の持つサーチは特殊で普通のサーチじゃ見つからないものでも、

見つける事ができる。だがそれを証明するには、

実際に鎧を着てもらわなければ無理だと思う。だが鎧は僕以外に着せられない。


 他にも理由を考えてみた。ネズミや野良猫が食べて死んだとか、

しかしその場合、証拠として死骸を用意しないといけない。

その為に動物を用意するのは、流石に抵抗がある。


(今のところは、様子見とするか……)


結局、衛兵所には届けず、クッキーは処分した。


 その後、カリーナは、思った通りお裾分けと称して、

お菓子やら料理やらを持ってきて、そのすべてに同じ毒が入っていた。

もちろん、そのすべてを処分するわけだが、


(様子に変化がないなら、違う動きを見せるはずだ)


毒は致死量に達しないと言っても、体調に変化が起きるからだ。

もしかしたら直接的な動きを見せるかもしれない。

その時に衛兵に突き出す機会があるだろうと思った。

それと、会う中で聞いた話では、カリーナは既婚者で夫がいるとの事。


 そして同じころ、妙な出来事が起きた。

その日は、近場の村からの指定の依頼だった。

しかも、急ぎだと言うので優先して向かっていた。


(しかし視線が痛いな……)


行きかう人々が、こっちの方を見てくる。

ビーストストームの一件で有名人な上、

バイクなんて珍しい乗り物に乗っていれば、目立つのは仕方のない事。


(近場だから、馬車でも良かったかな。でも急期の依頼だし……)


バイクの方が馬車より早く着く。ちなみに近場だけど、

一度も行ったことのない村なので、当然、転移ゲートは使えない。


 やがで人気のない街道に入り、視線もなくなったが、

道の真ん中に、人が倒れているのが見えた。

僕はバイクを止めて、


(あの時、以来だな……)


降りてサーチを使えば、周囲には大勢の人影。

ついでに倒れている奴もサーチで見た所、健康そのもので、

行き倒れているわけでも、寝ているわけでもない。つまりは、盗賊の足止めだ。


 直後、弓が飛んできた。


「!」


素早く避ける。なお弓は光を発していて、強化魔法が付与されているようだった。

多分、鎧を貫くためと思われる。僕はショットブレードを装備した。

これはビーストストーム以降に見つけた武器で、

長剣で、刀身に沿う様に長い銃身の魔法銃がついている。

その構造上、片刃の剣だが、見つけて以降はヴァイブナイフに次いで使用している。


 そして矢を避けるほか、避けきれない一部はショットブレードで弾いた。

なお倒れていた奴は飛んでくる矢を避ける為か、

起き上がって、物陰に隠れた。しばらくすると、矢が切れたのか、

剣を持った見るからに盗賊風の奴らが出てきた。

あと倒れていた奴も武器をもって、混じっている。そしてリーダー格と思える男が、


「さすが黒の勇者。お前には恨みはないが、死んでもらうぜ」


そして全員一斉に飛び掛かって来た。


 少しして、


「強すぎだ~~~~~~~~~~~」


と地面に倒れながら声を上げるリーダー格。

そう盗賊団は全滅させた。ショットブレードは片刃の剣なので、

刃の無い方を使った。いわば峰打ちだから死者はいない。

その後、連中はロープで拘束した後、そのままにして、

近くの衛兵の出張所があるの知っていたので、そこに出向いて、後を頼んだ。


 問題はその後だった。依頼人である村長のもとに向かったのだが、


「おや、あなたはもしや黒の勇者様ではありませんか。なんで御用で?」

「えっ、あなたから依頼を受けたのですが」

「依頼などしてませんが」

「そんなバカな。依頼書は受け取りましたが……」


そう言って、村長に依頼書を見せると、


「確かに、私の名前が書かれてますが、このようなものは知りません」


すると気の毒そうに


「これは、偽依頼でしょう。その……ご愁傷様です」


Aランクになると有名人だが、故にこういう悪戯もされると聞いてはいた。

もちろん今回が初めてだけど。


 依頼が嘘だった以上、帰るしかないが帰る途中、衛兵の出張所によった。

何もなければただの悪戯だが、今回は狙われているということもあるから

連中が関与しているのではないかと思って、話を聞いてみようと

思ったからだ。連中は出張所に連行されていて、

簡単な事情聴取は終えていたが衛兵によると、


「連中は金で雇われて、あなたを襲ったそうです」


依頼人は、知らないとの一点張りだった。


「まぁ、奴らを信じるわけではありませんが、

ああいう輩は金さえくれれば依頼人の事などどうでもいい連中ですから」


との事だった。更に、


「連中は、今日以降、貴方があそこを通ることを知っていました。

依頼人から聞いたとの事です」


なお具体的な日にちは、分からなかったとの事。


 僕は偽の依頼の話をする。


「なるほど、その偽依頼が関係しているなら、

貴方が、あそこに来ることを知っていてもおかしくないですね」


偽依頼で行った村に行くには、あの場所を絶対通るからだ。


「何か思い当たる節はありませんか、他人に恨みを買うとか」

「過去に、護衛で盗賊たちを倒したことが……」


その盗賊団の話をすると、


「違うでしょうね。連中と敵対していた盗賊団ですから」

「そうか……」


そうなると、後はビーストストームの時にやりあった暗黒教団か、

あの家の関わることか、家の事は確証がないので、暗黒教団の話をした。


「だとしたら、我々の管轄外ですね。異端審問官に連絡を入れておきます。

後日、話を聞きに来ると思いますよ」

「異端審問官ですか……」


暗黒教団がらみだと、異端審問官の管轄なのわかってはいたが。


 聞ける話はなさそうなので、出張所を後にして教会に行くことにした。

衛兵から連絡はいくのは分かっているけど、

異端審問官が来られるのは不安だったからこっちから出向くことにした。

昔は、異端審問官と言えば拷問をして無理やり自白というイメージはあるが、

隣国にいるクロニクル卿のお陰で、この国でも改革が行われて、

そういうことはないみたい。


 だが正体を隠す暗黒教団の信者を探すために、色々と調べているせいか、

人の詮索が職業病な連中との事だから、

家に来られると、黒の勇者の正体がばれてしまう可能性がある

そこで、こっちから出向くことにした。


「最近、相談が多いんですよ。

ビーストストームの際に信者と戦った冒険者は多いですから」


修道女姿の審問官から言われた。


「貴方の場合は、実際に襲撃されたということですから、

衛兵からの報告を受け次第、捜査はしますが、

おそらく、盗賊の黒幕は教団ではないと思われます」

「どうして……?」

「暗黒神が、ウェスティード王国で降臨したという噂はご存じですか?」

「ええ、知ってます」


ウェスティード王国というの隣国の事。


「噂の真偽については我々も掴めていません。

ですが、暗黒教団の信者たちは信じているようで、

信者たちは暗黒神のもとに、馳せ参じようとしている見たいです」


信者たちの興味は完全に隣国に向いていて、

ビーストストームの時のことなど、どうでもいい様子との事だった。

そう言うわけで、相談に来る冒険者たちには、安心するように言っているとの事。


 その後、教会から帰ってきた僕だったが、

実際のところ僕自身も、敵が暗黒教団とは思ってはいなかった。

確証がなくて話せなかったものの、あの家が、何かあるんじゃないかと思った。

そしてこのままでは落ち着かないから、このことを調べてみようと思うのだった。

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