第21話「伝説の始まり」.

 魔獣たちが全滅し、信者の残党が捕縛された。

余談だと、その信者の証言によると、市壁の爆破や結界の破壊は

もう何十年前から、仕掛けていたらしい。

いつか来るかもしれないビーストストームの為にだそうで、

やっとその時が来たのに、失敗したので、

相当悔しかったそうだ。その話を耳にしたときは、


(なんだか気の遠くなる話だな)


と思ったのだった。

 

 それはともかく、ビーストストームが一段落した時の事、

僕は冒険者の一人に声を掛けられた。


「あの剣、すごかったな。お前さんの切り札って奴か……」

「ああ……これで半年は使えない」


エクスアヴァロンは、正確には鞘を抜いた状態での使用は、一度使うと、

半年間使えなくなる。ただ鞘をつけた状態、鈍器や魔法銃としては、

使用することは可能だけど。


「それもそうか、じゃあ半年間は気を付けないとな」


エクスアヴァロンに限らずこの手の強力な武器は、

一度使うと、長期間、下手すると年単位で使えないということは多い。


「しかし、あの剣は、まさに聖剣だな。俺さあ、隣国に行ったときに、

勇者様を見た頃あるんだ。もちろん聖剣も見たぜ。形は違うが、あの光は似ている」


と言った後、


「お前さんの、強さに聖剣とくれば、お前、勇者だよ」

「勇者って、それは国が決めることだ……

それに選考会に出るつもりもない」


この鎧の力で勇者になろうなど、おこがましいにもほどがある。


「それも、俺にとっちゃ勇者だぜ。それにその黒い鎧、

今度からお前を、黒の勇者って呼ぶぜ」

「やめてくれ……」


と言ったけど、同じことを言う冒険者たちは他にも出てきた。

もちろん、初めて「黒の勇者」と言った子供とは無関係で、

黒い鎧と今回の活躍と、エクスアヴァロンの影響で勝手にそう呼ぶようになった。


 今回のビーストストームの被害は、最小限に済み、ソフィーさんの活躍と、

自覚はなかったけど僕というか「ノエル」の活躍のお陰であるとされ、

冒険者ギルドから報奨金をもらった。

ちなみにエイラ曰くさん辞退は許されないとの事。


 しかし、この事で「ノエル」はすっかり有名になって、

それに併せて「黒の勇者」と言う呼び名は一気に広がり、

途中から「ノエル」と言う名は忘れ去られてきり、

大人から子供まで、「黒の勇者」と呼ぶようになった。

もちろん畏敬の念を込めてだ。鎧の事があるから、その名で呼ばれると、

心苦しかった。

特に、子供が目を輝かせながら、話題にしているのを聞いたときは、心が痛んだ。

僕にとって誇れることではないのだから。

それと「黒の勇者」が有名になるとともに、

表向きその従者である僕も知られるようになったけど、

それはおまけみたいなものだから気にはならなかった。


 そんな中で、買い物の途中でルリちゃんと会った時、


「ノエルさん……今は黒の勇者様かな。なんだかすごいよね」

「本人は、よくは思ってないみたいだよ。

自分にとって誇れることはしていないって」


別人って扱いだから、他人みたいな言い方だけど、

よくは思ってないのは事実だ。するとルリちゃんは


「魔王よりかは、ずっといいと思うけど」


と何とも返答しづらい事を口にした。


 僕と言うか「ノエル」が黒の勇者と呼ばれ出したころ、

彼女の主人になるソフィーさんが、「白の魔王」と呼ばれるようになっていた。

白く厳つい鎧と今回の戦いで、かなり荒っぽい戦い方としたのと、

それと彼女が最後に使っていた武器、あれが何なのかはともかく、

禍々しく、まさに魔剣と言う感じで、それが決め手と言う感じだった。

勇者が聖剣をを持つように、魔王は魔剣を持つと言われているからだ。


 ただ、魔王が魔剣と言うのは実は正しくない。

実際、鎧の魔王は、鎧の方が有名で、そして勇者との戦いで、

剣は使うと言うが、その剣が魔剣だと言われいる。

だけど、それに関しては、詳しい話は聞こえてこない。

本当に魔剣ならば、詳しい話が、鎧の話と一緒に聞こえてきてもおかしくないのに、

そんな話は聞こえてこない。ただ魔剣を使うという話だけ広まっている状態。


 僕の地元には、隣国で勇者と魔王の戦いを見た事のある人がいて

その人の話だと。勇者の聖剣に対し、魔王が使っていた武器は、

ごく普通の剣にしか見えなかったと言う。

もちろん聖剣と渡り合っているのだから、ただの剣じゃないようだか、

その人の話では、鎧の力で強化されているだけで、

剣自体は普通の剣はないかと言う話だった。


 恐らくは、勇者が聖剣を使うのに対して、

魔王が扱う武器は、魔剣だろうと言う思い込みが広がり、

魔王が魔剣を使うと言う話になっていたのだろう。


 魔王と魔剣に関する話は、ここまでにして、

僕もあの鎧と荒々しい戦い方から魔王を連想してしまっていたけど、

流石に魔王呼ばわりは悪い気がして、


「でも、魔王呼ばわりはないよね。ソフィーさんだって、この町を救ったのに」

「けど、話題はノエルさんの方が先行したからね」


僕は知らなかったけど、

最初の村での活躍が、既に一部の冒険者の間で伝わっていたらしい。

でも子供の言うことだから勇者(笑)的な話題だったそうだが、

今回の活躍があって、本当に勇者みたいだと言うことになって、

同時期に活躍したソフィーさんよりも先に話題になったという。


「勇者がいるんだから、魔王って感じで、

あの見た目で戦い方が荒々しいって事もあるんだけど」


つまり魔王呼ばわりは、僕の所為でもあるようで、


「なんだか、申し訳ないな。今度会う機会があったら、謝っておこう」


と言うと、


「どうして、ライト君が謝るわけ?」

「!」


おもわずボロが出そうになって、


「いやノエルさんとは、従者として寝食を共にしているから、

我が事のようになるっていうか、それにあの人口下手だから、

僕が代わりに詫びを入れに行かなきゃいけないだろうし」


と必死にごまかす。するとルリちゃんが


「私も似たようなものだから、その気持ちは分かるな」


と言いつつも、


「でも気にしてないから、謝る必要はないよ。

それに、あの鎧と戦い方で勇者はないだろうし、

そもそも勇者なんておこがましい。私には魔王が似合ってるよ」


とどこか暗い顔になるが、彼女の言葉か気になって、


「私?」


するとルリちゃんはハッとなったように、


「ごめん、私の事じゃないよね。何言ってるんだろ……」


と言うと、


「とにかく気にしてないから、別に謝りに来なくてもいいからね。

むしろ謝りに来られた方が迷惑かも」


と言いつつ、


「そうだ、私、買い物の途中だから、じゃあね」


そういって、ルリちゃんは去っていった。


(どうしたんだろ……)


少し気になったが、僕も買い物の途中だったので、

こっちも買い物の続きをした。

彼女の秘密を知るのは、もう少し後の事だった。


 そしてAランクになった事と、ビーストストームの一件の事もあってか、

指定の依頼が多く来た。

こういう風になったら来るもの拒まずで行くつだったから、 断らずに受けた。

もちろん、これまで通り、受け手の無い依頼を受けている。

と言うか、これまでの事もあったからか、指定の依頼の多くも

普通に募集をかけたら、受けてがない依頼になるものばかりだった。


 おかげで忙しい日々になったけど、冒険者として活躍してると思えば、

悪い気はしないけど、同時に鎧のお陰だと思うと、嫌悪感を覚えることもあった。

あと冒険者ギルドで小耳にはさんだことだが、

ソフィーさんも忙しいようで魔王とは呼ばれているけど、

仕事自体には影響はないらしいけど、話によると、あの見た目だから、

子供には泣かれているという。


(まあ仕事には影響ないようだから、ひと安心なのかな)


話を小耳にはさんだ時はそう思ったのだった。


 依頼をこなし「黒の勇者」として知名度も上げていく中、

最初の方は、心苦しかったけど、そのうち気にするのはやめて、

日々の仕事の集中した。

そして今思えばなんだけど、あのビーストストームの日が、

ある意味伝説の始まりと言えた。

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