第20話「ビーストストーム(2)」

 そして市壁の穴をさらに壊して大きくしながら、やってきた超大型魔獣は、


「デモスゴード!」


山羊を思わせる頭部を持つ上級魔獣。生息地ではおとなしいが、

それ以外の場所では凶暴で、無差別に攻撃を仕掛けてくる。

この辺は生息地ではないから、危険だ。


「メデューサ……」


ラミア系の魔獣の最上位。

大きな蛇の頭部とその周りに髪のように無数の小さな蛇がついていて、

人間女性のような胴体に、蛇の下半身を持つ。神話の怪物から名を取った魔獣だ。

目から石化させる光を放つほかに、小さな蛇も各種、属性攻撃に加え毒液も放つ。

その大きな蛇の下半身を生かした締め付け攻撃も脅威だ。


「レックスドラゴンまで……」


しかも上級個体という通常の個体よりも強い奴のように思える

口から炎、雷、毒霧を吐き出したり、

足や尻尾からも攻撃を仕掛けてくると思われる。


 現れたのはこの三種類だが、一体ずつではなく、

デモスゴードは二体で、体つきから雄と雌なのでつがいと思われる。

メデューサも二体。この魔獣は雌雄同体なので、つがいかはわからない。

レックスドラゴンに至っては、計六体もいる。


(これは、まずいかも)


どの個体も、さっきまでいた上級魔獣とは、比べ物にならないくらいに 強敵だ。

一体づつならともかく、ここまでの数となると、鎧の力でも苦戦しそうな気がした。


 それでも戦わなきゃいけないと思った。

とにかく僕は、雄のデモスゴードの方に向かっていった。

それと取り決めていたわけじゃないけど、

ソフィーさんは雌のデモスゴードの方に向かっていく。そしてほかの冒険者たちも、

メデューサやレックスドラゴンに攻撃を開始した。


 デモスゴードは、こっちに気づくと巨大な拳で攻撃してきた。

その拳を交わし、そして腕を切りつけた。


「ゴォォォォォォォォ!」


と言う咆哮を上げ、デモスゴードは痛がるそぶりを見せるが、

さっきとは違って、切り落とすということはできなかった。

なおデモスゴード、メデューサ、レックスドラゴンは先の魔獣たちと同じく、

防御スキルが無力さされている状態。

しかしスキルなしでも、その強靭さで一筋縄で行きそうになかった。


 とにかく攻撃を続ける。鎧の力故に手ごたえはあるし、

感じとしては順調と言えるが、ただそれはデモスゴード一体だけならの話。

ソフィーさんが相手をしているとはいえデモスゴード自体は二匹いる

メデューサやレックスドラゴンの事も考えると、

他の冒険者たちの力があるとはいえ、時間がかかるように感じられた。


 しかし時間がかかってしまうと、魔獣たちによって町への被害が大きくなるのは、

避けられない。逸る気持ちを抱えながらも、

僕は魔獣との戦いを続けていた。デモスゴードと戦いつつも、

他の魔獣たちの状況も見る。


(デモスゴードはこっちを明確に狙っているが、他の連中は無差別だな)


無差別ゆえに、攻撃はこっちにも飛んでくるが、

これを利用しようと思った。ちょっとでも時間短縮をするために。


 僕は大声で、


「魔獣たちを同士打ちさせる!手を貸してくれ」


すると冒険者達や衛兵たちは、頷き、

ソフィーさんも雌のデモスゴードと戦いながら、頷いているようだった。


 取り敢えず僕は、デモスゴードをメデューサの方に誘導する。

他の冒険者たちも、逆にメデューサを誘導し、更にはレックスドラゴンも誘導する。

ただすべての魔獣をぶつけようとすると洒落にならないと、みんな思ったのか、

打ち合わせをしたわけじゃないのに、魔獣は、二か所に分かれて集められる。

僕とその周辺にいる冒険者や衛兵は、

雄のデモスゴードの方にメデューサの一体と、レックスドラゴンを三体集め、

ソフィーさんと周辺の人々が、

雌のデモスゴードの方に残りの魔獣たちを集める用に誘導した。


 それで結果はと言うと失敗だった。

確かにお互いを攻撃させることには成功した。

デモスゴードのパンチをメデューサやレックスドラゴンに当てることには成功した。

レックスドラゴンのうち一匹は打ち所が悪く絶命した。


 更にメデューサの頭の小さい蛇が放つ各種属性攻撃に、

目から放たれる石化光線をデモスゴードやレックスドラゴンに当てる事には

成功している。石化光線は魔獣たちには効果が無かったが。


 またレックスドラゴンの口から放たれる属性攻撃や毒霧に

尻尾から放たれる衝撃波は、デモスゴードとメデューサに当たっているし、

あとデモスゴードは基本徒手空拳だが、時々口から炎を吐くこともあり、

それらを、メデューサやレックスドラゴンに当てることに成功しているし、

レックスドラゴンの一匹は火だるまにもなった。

ソフィーさん達の方も同じ結果の様だった。


 ただお互いの攻撃が当たっているのに、それ以上は進まない。

互いの攻撃が当たっても、気にしていないかのように、

争い合うような真似はせず、結局のところ攻撃は街や僕たちに向かってくる。


「どうなってるんだよ。普通なら揉めるだろ!」


冒険者や衛兵たちの中からそんな声が聞こえた。

魔獣同士は同一種ならともかく、

異なる種なら、仲良しこよしではなく、

互いの攻撃が当たれば、もめ出すのが普通だ。


「まさか、ビーストストームの所為か」

「そんな話聞いたことねえぞ」


確かにビーストストームの魔獣たちが同士討ちをしないなんて話は、

聞いたことはない。


(もしかしたら、試みたのが今回が初めてなのかもしれない)


ビーストストームは全滅か、身を隠して乗り切るかのどちらかしかない。

本来なら、住民の避難が終わったら、僕らも避難するはずだった。

ただ今回は魔獣たちに優勢だったから、逃げずに戦って、ここまで来た。

だから今回こういう状況に、初めて出くわすことになったといえる。


 鎧の力を持ってすれば、時間を賭ければ勝てる。ただ町の壊滅は免れないだろう。

だが、このまま逃走しても同じことだ。できる事なら被害を最小限にとどめたい。

僕は魔獣たちと戦いながら考えるが、中々妙案は出てこない。


(考えろ……考えろ……)


時間が経てば経つほど、焦りは大きくなる。


 結局、たどり着いたのは


(ステータス・オープン……)


鎧の力に頼ることだった。


(この状況を、なんとかできる方法は……)


魔法、スキル、アーツ、そして武器。なおアーツは使えないものも多い。


(ヘルフレム・ギガンスラッシュってのが使えれば……)


チェインモア専用のアーツ。かなり強力だけど、今は使えない。


 だがここで一つの武器を勧められた。


(エクスアヴァロン……)


刃の部分が白い長方形の鈍器のようになった剣のようなものと言うところだが、

鈍器の部分は実は鞘で、普段は鞘に入ったまま見た目通り鈍器として使ったり、

魔法銃が仕込んでいて銃撃もできるらしいが、

その鞘を抜いたとき、すさまじい力を発揮するという。


(これだ!)


その武器を選択すると、ステータス画面を閉じると手には、

剣が出現していた。ここまでの出来事は一瞬なので、近くにいた冒険者が


「なんだその剣?いつのまに」


と言ったが答えず、デモスゴードの方を向き、剣を構えた。

ちなみにこの時、ステータス画面を開くにあたって、

デモスゴードからは間合いを取っている。

なお鞘を抜くと言っても、直接手で抜くわけじゃない。剣を構え、


「解放……」


と僕は、呟くように言う。すると剣が抜けたというか、

鈍器の部分が割れたという感じだ。中から現れたのは光り輝く刃で、


(まるで、聖剣だ……)


実物を見たわけじゃない。話に聞いたことがある。

隣国にいる世界で唯一の勇者、「剣の勇者」

その名の由来となる聖剣の。鎧の魔王に唯一対抗できる武器で、

その光り輝く刃は、どんな敵をも切り裂き、闇を払うといわれている。


 ともかく今すべきは集中することだ。この剣は強大な力を持っているが、

それをぶつける対象を、選ぶことが出来る。

対象は、デモスゴードとメデューサ、レックスドラゴンだ。

それらに意識を集中させないと、その力が無差別に向けられることになり、

周囲に迷惑をかけることになる。


(あれ?)


 その時、なぜか雌のデモスゴードとメデューサの内の一体、

レックスドラゴンと僕らが担当している方の魔獣しか選べず、

ソフィーさん達が担当している方は選べないことを感じた。

同時に、この時、ソフィーさんが剣を握っていることに気づいた。

エクスアヴァロンと真逆のどす黒い闇をまとっていて、

危ない雰囲気があったが、ソフィーさんに任せておけばいいような気がした。


 そして僕は、当初の対象に集中しながら、エクスアヴァロンを振ると、

複数の光が飛び出し、レックスドラゴンやメデューサ、

そしてデモスゴードの方に向かっていき、

その体を貫いていく。


「グオォォォォォォォォォ!」

「シャァァァァァァァ!」

「ゴォォォォォォォォ!」


デモスゴード、メデューサ、レックスドラゴンが悲鳴を上げる。

その後も剣を振り続けると、光が飛び出し魔獣に向かっていき、

その体を貫く。そしてメデューサ、残りのレックスドラゴンが、先に息絶えた。

なおもし、対象を選んでいなかったり、集中が途切れると。

この光が無差別に辺りを攻撃するらしい。


 メデューサ、レックスドラゴンは、倒したがデモスゴードは生きている。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


と声を上げながら、デモスゴードに向かっていく。

向こうも引く気はないようで、ボロボロの状態で向かってきて、

強大な拳で殴り掛かってくるが、僕はそれを避けず、それに向かって剣を振るった。

そして剣と拳がぶつかると、まばゆい光が放出され、

それによって僕自身はなには起きたか分からなかったが、

光が消えると周囲は肉片だらけでなっていた。

どうやらデモスゴードは爆散したようだった。


 そして、ソフィーさんの方の魔獣たちも全滅していた。

僕は自分の方に集中していたから分からなかくて、

他の冒険者から聞いた話だけど、ソフィーさんが剣を振るうたびに、

その剣の力なのか魔獣の体の一部が爆発し、僕と同じく、

雌のデモスゴード以外は全滅、そしてデモスゴードを切りつけると、

闇の力が噴き出して、それによって雌のデモスゴードを爆散させたと言う。


 ちなみに僕の方も同じで、僕の方は光だが同じ様に吹き出して、

雄のデモスゴードを爆散させたらしい。

その後、側でソフィーさんが剣から噴き出していた闇の力と絡まり合って、

空へと昇って行くと言う光景が見られたと言う。

最後の光景はともかく、デモスゴードたちは全滅した。

そして他の魔獣たちも全滅して、ビーストストームは無事乗り切れたのだった。

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