第19話「ビーストストーム(1)」
ビーストストームは、前兆はないけど、
魔獣が大勢で向かってくるのだから、目視での確認はできる。
見張りを立てていれば、早めに気づくことが出来る。
ただ魔獣たちの移動速度は速いから、気づいたところで、到達は直ぐだろう。
そして鐘の音と共にギルドの職員や衛兵などが、
「ビーストストームが発生しました。速やかに避難場所に向かってください!」
と呼びかけ街は騒然となる。僕は、
「ノエルさんを呼んでくるよ」
「私もソフィーさんを……」
そう言って僕らは、別れた。そして僕は物陰に隠れると鎧を纏い、
「ノエル」に姿を変えて、大通りに戻ると、
「……早かったな……」
ソフィーさんに声を掛けられた。
「そっちこそ……」
と返した。思ったよりも早かったからだ。
そして、空に影が差した。それはワイバーンなど、
空を飛ぶ魔獣の群れだった。陸上を行く魔獣とは違い、
多くは街の上空に入ったからと言って、わざわざ降りて、街を破壊することはない。
だが一部は、降りて街を襲い人を襲う。
実際、この時複数のワイバーンやグリフォン、ドラゴンなどが、
街に降りようとして、結界に引っかかっていた。どれも上級魔獣だ。
(持ちこたえてくれればいいんだけど……)
一部とはいえ、かなりの数だから結界が張っているとはいえ、
いつまで持つか分からなかった。本来、上級魔獣は群れで動くことは殆どないから、
結界は、大量の上級魔獣が来ること想定していない。
だけどすぐに敗れることもない。それに、陸上の魔獣たちも、結界だけでなく、
街を囲む市壁もあるわけだから、直ぐには入ってこれない。
不安は感じつつも、何処かで大丈夫だろうと言う思いがあった。
しかしその思いは、直ぐに打ち破られることとなった。
突如、魔法による拡声下であろう声が響き渡った。
「我らは暗黒教団!これよりお前たちを偉大なる暗黒神様降臨の生贄とする!」
そして直後、市壁の一部が爆破された。
同時に結界も破壊されたようで、魔獣たちが空から降りてくる。
間違いなく教団の仕業。
僕は直ぐにチェインモアを装備。ソフィーさんも、槍の様なものを装備し、
僕らは二手に分かれて、魔獣に向かっていった。
幸いと言ったらいけないだろうが、ビーストストームの魔獣は、
上級でも防御スキルを持たないという逸話が残っている。
確かに、スキルを感じないから、直接急所を狙うことが可能で、
僕は避難中の住民を襲おうとする上級のワイバーンに切りかかり、首を落とした。
「ありがとうございます」
とお礼言ってその住民は去っていく。
そして僕は引き続き、ワイバーンやグリフォンなどの相手をする。
防御スキルがないのと、僕の場合は鎧の力のおかげで瞬殺できるが、
元来これらの魔獣が、防御スキルはなくとも、肉体が強靭なので、
急所を突けるとは言っても容易ではなく、
僕の周りでも冒険者や衛兵たちが戦っていたが、苦戦しているようだった。
とにかく僕は、サーチで、状況を把握しながら、
避難している人々に襲い掛かる魔獣を優先しつつも
ひたすら倒し続けた。魔獣の首を切り落としたり、
体自体を真っ二つにしたり、時には突き刺し、絶命させることもあった。
「すげぇ……」
と言う声が、周りから聞こえたけど、特に気にせず、ひたすら魔獣を倒し続けた。
空からの魔獣は、ほとんどが素通りなので、
数は順調に減っているが、問題は破壊させた市壁から入ってくる魔獣たちだ。
ゴブリンやスライムのような下級の魔獣の群れから、
ミノタウロスやサイクロプスの様な上級の魔獣こっちも数は少ないが、
群れと呼べるほどの数はあり、とにかく多種多様で、その数は増える一方。
しかし最も厄介なのは、
「暗黒神様の供物となるがいい!」
とか
「愚かなる人間どもに粛清を!」
叫びながら、魔獣と一緒になって暴れる暗黒教団の信者だった。
ちなみに、一緒になってと言ったけど、
こいつらは魔獣を操っているわけじゃないから、
中には魔獣を倒そうとする冒険者や衛兵に攻撃仕掛けて邪魔をしながら、
自分が魔獣に食われたり、殺されたりするものもいた。
(それにしても……)
この前の盗賊の事もあるし、人間相手の戦いは、
鎧がきちんと手加減してくれるから気にはならない。
しかし、こういう狂信者との闘いは、いい気分はしない。
直接戦うのは、初めてだけど、過去に見たことはある。
言ってることやってることが、支離滅裂でイライラする。
中には魔獣に食われても笑いながら死んでいく奴もいた。
まったく理解できない。直に戦って、余計にムカついた。
一方連中は、
「怯むな! 我々は暗黒神様の再降臨を迎えるべく町の者どもを生贄にするのだ!」
などと叫びつつ、勢いが衰えることはない。
そんな連中に対しては、先も述べた通り、それでも一応人間なので、
鎧は手加減していて、武器による攻撃は、
相手の武器を落とすことのみに使って体への攻撃は、
武器を装備していない足で行った。
「!」
どういうわけか、男性信者に対してはであるが、
攻撃が股間にあたることが多かった。
ただ、股間を抑え悶絶する連中を見ると、溜飲が下がりすっきりした。
なお女性信者もいるみたいだったが、僕の周辺にはいなかったので、
彼女たちに攻撃することはなかった。
その内、信者の方は減ってきた。多くの男性信者が、股間を抑えながら、
「いずれ、お前たちは暗黒神様に、滅ぼされるのだ!」
と捨て台詞を吐きながら逃げて行った。
魔獣が、跋扈している混乱状態なので、捕縛は難しいだろうが、
何人か捕まえているのは、見えた。
しかし市壁に会い穴から入ってくる魔獣の数は増える一方だった。
僕は武器をヴァイブナイフに切り替え、両手に装備した。
リーチは短いけど、加速スキルもあって、素早く敵を倒す事ができる。
そして魔獣の群れに向かい、そのまま突っ込んでいき、
片っ端から倒していく、僕を見た人間によると、
僕が魔獣の群れを通り過ぎると、加速スキルで素早さが上がっているから、
一瞬のうちに、魔獣たちが次々とバラバラになっていって凄かったと言う。
敵を倒すことに必死だったから、そんな風に見えていたとは気づかなかった。
その後も必死に魔獣を倒し続けた。
切れ味のよさもあって、ゴブリンやスライムと言った下級魔獣はおろか、
オークやワーウルフ、リザードマン、アラクネと言った中級魔獣まで、
ヴァイブナイフで対応した。なお周囲への影響を考えて範囲魔法は使えない。
魔獣の中には蜂型魔獣キラービーや、コカトリスと言った。
ワイバーンとかの様に、高度は飛べず、低空を飛ぶ魔獣たちは、
市壁の方から入ってきたが、こいつらは高い位置をちょこまか動く上、
炎や毒針と言った遠距離攻撃を仕掛けてくるので、
武器を、カノンタガーに切り替え、それらを避けながら、
銃撃で倒していった。鎧の力で体が勝手に動いているから、気が付かなかったが、
後で聞いたところ僕は、ダンスを踊っているかのような動きで戦っていたと言う。
後に、その動きに魅せられそうになったという話を聞いたが、
こっちは、無我夢中で戦っていただけで、
別に見世物になろうとしたわけじゃないから、特に何も感じなかった。
そして下級、中級の魔獣を相手にしつつも、
上級魔獣の相手も忘れない。当然ながら、こいつらの相手をする時は、
チェインモアを使う。ミノタウロスやサイクロプスの他、
クイーンアラクネとかもいて、先の2種の様に人型の魔獣は、
直接手づかみで人を食らう奴らなので、掴みかかってきたところを避けて、
腕を切り落とす、あるいは避けずに手を切り裂いて指を落とし怯んだところを、
首を落とす。
或いは首筋を切り裂いて、大量出血で絶命させた。
なお防御スキルが効いていないので、直接首を落とす事もできるのだが、
何故か自然とこういう戦い方をしていた。
ただ、戦いの中で捕まってしまう冒険者や衛兵たちもいたので、
こっちは救出の為に意図的に、腕を落とす事があった。
なおクイーンアラクネは、下位種のアラクネがそうであるように、
直接、手で掴んで捕食すると言う事はない。
奴らは毒針を飛ばし、相手を痺れさせ、或いは糸を飛ばし相手を拘束した後、
捕食するので、針や糸を飛ばしてくる。
僕は飛んでくる針を避ける。或いはチェインモアを振るい、
弾き敵に向かっていく。糸も避ける場合もあれが、剣で切り裂く。
途中捕まった事もあったけど、鎧によって強化されている腕力をもって、
引きちぎって、接近し後はミノタウロスとかと同じで、
首を落とすか、首筋を切り裂いて出血死させるかのどちらかだった。
さて僕だけじゃなく他の冒険者や衛兵たちの活躍や、
特にソフィーさんの活躍がすごかった。
彼女は棘の付いた巨大な金棒を武器にしていて、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
と言う雄たけびと共に金棒を振るい、下級、中級、上級問わず、
魔獣たちを薙ぎ払ってた。
ちなみに彼女は回避とかは殆どしないというか、する必要がないようだった。
例えばサイクロプスの巨大な手が迫ってきても金棒を振るい、
グシャグシャにしていた。そして大きく怯んだところを頭部に向かって、
金棒を思いっきり振るうと、サイクロプスの頭は吹っ飛ばされた。
またクイーンアラクネの時は毒針を、金棒で弾くこともあるが、
それ以前に鎧が弾いていて、糸も容易に引きちぎっていて、
攻撃を物ともしないので、避ける必要もないとの事だった。
もちろんクイーンアラクネの頭に金棒を叩きつけて潰す。
こんな風に、ソフィーさんは魔獣たちを撲殺していく、
その姿は荒々しいので、周りで戦う冒険者や衛兵は、
若干引いているように見えた。
ともかく彼女の活躍もあって魔獣の数は減っているようだった。
あと僕は、数えてなかったか気づいてなかったけど、
同じくらいの量の魔獣を倒していたらしい。
だいぶ魔獣の数は減り、空を覆っていた魔獣たちも通り過ぎていたし、
住民の避難も終えているとあって、
「ふぅ……」
と僕は一息つくが、ここでさらに呼びかけがあった。
「超大型魔獣が接近しています!」
「!」
その叫びを聞いて、僕はすぐにサーチーを使う。
すぐにさっきまでの魔獣よりも、更に上をいく魔獣が数体近づいていた。
ビーストストームでは、毎回じゃないけど、他の魔獣に遅れる形で、
超大型魔獣がやってくると聞いたことがある。
(むかし父さんから話を聞いたとき、最後まで油断するなって言ってたな)
父さんの忠告を思い出して、気を引き締めるのだった。
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