第18話「Aランク昇格」
「ノエル」としてBランクになって少し頃だ。この頃には依頼探しと受注、
事後処理は僕の本来の姿でやって、
「ノエル」として、仕事を行うという形になっていた。
最初は依頼を受けるときも「ノエル」の姿だったけど、
ギルド内で、知っている人と話しているうちに、ボロが出そうな気がしたので、
こういう方式にした。まあパーティーメンバーと言うが従者が、
主人の依頼を探しに来て受注するのは、おかしな事ではない。
その日も依頼を探しに、僕はギルドに来ていたのだが、
「ライト君……」
突然エイラさんから声をかけられた。
「最近、ノエルさん、冒険者ギルドに来ないけど、何かあったの?」
「まあ、人付き合いに限界が来たというか」
と誤魔化すと、察したように、
「そういう事ね……確かに社交的な人じゃなさそうだったけど……」
と言いつつ、
「ノエルさんに話したいことがあるんだけど……」
「じゃあ、僕が伝えときますよ」
「いえ、直接伝えたいの。
一度ギルドに来てくれるように伝えといてくれるかしら?」
「分かりました……」
エイラさんはこの時は、ギルドの一職員だけど、
後にギルドマスターになる人だから、それなりに地位のある人だ。
その人が直接話したいというくらいだから、
「ノエル」の時に悪いことをした覚えはないから、
悪い話じゃないと思うけど。
近いうちに「ノエル」として、ギルドに来るとして、
掲示板で依頼を探していて、気になったのを見つけ手を伸ばそうとすると、
別の手が重なった
「「あっ!」」
手を伸ばしたのはルリちゃんだった。彼女の方が少し早かったので、
「どうぞ」
と彼女に譲った。
「ありがとう、ライト君……」
手と手が重なったことで、妙に意識しちゃって、彼女は顔が赤いし、
僕も顔が火照るのを感じていた。
(僕たちは、恋人同士じゃないけど、初心な関係でもないんだけどな)
とそんな事を思った。
あとこんな状況になるのは、今日に限った事じゃない。
「妙に依頼がかぶっちゃうよね」
と言いながら掲示板から依頼書をはがすルリちゃん。
ソフィーさんは最近、ギルドの方に来なくて、ルリちゃんが代わりに依頼を探し、
受注するという、僕が表向きしている事をやっている。
これまでも今日みたいになった事はあった。
そのたびに、先に手を伸ばしたほうに、依頼を譲っていた。
今日はルリちゃんだったけど、僕の時もある。
理由は、単純にソフィーさんが僕と同じ方針で依頼を受けているからだ。
先の護衛依頼で一緒になったのも、その為だし、
あと「ノエル」として依頼を探していた時も、依頼書を取ろうとして、
手が重なる事があった。まああの鎧の所為か、意識するようなことはなかったけど。
ただあの人が、僕と同じような依頼を受けているのは気になった。
事情は分からないけど、
もしかしたら、あの人もあの人なりに何か抱えているんじゃないか。
ふとそんな事を思うが、立ち入ってはいけないような事情があるかもしれないので、
ルリちゃんに、あえてその事を聞こうとは思わなかった。
さて依頼書をはがしたルリちゃんは、
「そういえば、さっきエイラさんが声を賭けてたけど、何かあったの?」
と聞かれ、
「ノエルさんに直接話したいことがあるから、
ギルドに来てほしいって伝言を言付かっただけだよ」
と答えると、
「じゃあ、私と一緒だ」
「えっ?」
「私の場合は、ソフィーさんに用があるって」
どうもソフィーさんも呼び出されているようだった。
「特におかしな事はしていないんだど、何の様なんだろう……」
と悩まし気にしたので、
「おかしな事してないなら、悪い話じゃないと思うよ」
と声をかけてあげたが、
(あの人、鎧の見た目が厳ついし、戦い方も荒々しいから、
その事に苦情が来たんじゃないだろうか)
そんな事をふと思った。
過去にも冒険者の服装の事でギルドに苦情が来て、
その冒険者に注意したと言う話を聞いたことがある。
ただその冒険者は女性の戦士なんだけど、凄く際どい服装で、
戦い方が子供に見せられないという苦情だった。
ちなみに、衣装や戦い方が子供に見せられないでは、注意が関の山で、
その人は、今でも同じスタンスだと言う。ちなみにA級冒険者だったりする。
(失礼な話だけど、あの見た目と戦い方じゃ、子供が見たら泣きそうだもんな……)
それよりも、変に先延ばしすると落ち着かないから、
依頼を見つけた後、ルリちゃんと別れて、
受注した後、この頃はまだ宿住まいだったので、一旦宿に戻って、
鎧を着て「ノエル」としてギルドに向かうと、
「「あっ」」
丁度、入り口の前でソフィーさんとばったり会った。
「ライト君から、話を聞いたか……」
ソフィーさんはルリちゃんから話を聞居て、僕の事を知っている。
「そっちもルリちゃんから……」
彼女は黙ったまま頷いて、そして二人でギルドの建物に入り、
受付に向かい。
「エイラさんを呼んでほしいんだが……」
「はっ、はい……」
鎧を着た人間が二人もやって来ると、威圧感で受付嬢も怯えてようで、
申し訳なかった。
少ししてエイラさんは来た。
「ライト君と、ルリちゃんから話を聞いたんですね?」
僕は、
「ああ……」
と答え、ソフィーさんは、
「……用件は何?」
と聞くと、
「お二人とも同じ話なので、こちらに来てください」
と僕らを奥の部屋に案内した。
部屋に入るとエイラさんは、
「ノエル・シュナイダーさん、ソフィー・ホワイティアさん。
あなた達はAランクに昇格しました」
と言った。
「「えっ!」」
と思わず声を上げてしまった。確かにAランク昇格の時は、別室の呼ばれて、
言い渡されるとは聞いていたが、
「何でエイラさんが……」
本来は、ギルドマスターの仕事。後にギルドマスターになるとはいえ、
この時のエイラさんは、まだ職員だった。
「ギルドマスターは定年を控え、有休消化中です。
その間は私がギルドマスターの代理を務めています」
そういうわけで、エイラさんが昇格の話を言い渡すのだった。
そして新しいギルドカードを渡してきた。
DからBとAからSではカードの見た目が異なる。
正確には色、BランクまではシルバーだがAランクはゴールドのカードだった。
既存のカードは、回収となるのだが、
「前のカードは一年後に回収しますので。それまで保管しておいてください」
詳しい理由は言わないけど、Aランクは一年維持して、
真のAランクとされ、多少の事では降格しなくなるから、
その時まで、降格の可能性があるということを暗に告げていた。
新しいカードを受け取ると、エイラさんは、
「これで、あなた達は正式にAランク冒険者です。
Aランク以上の冒険者は皆の模範とならねばなりません」
とAランクの冒険者としての心得について説いた。
「慢心せず、初心を忘れず、これまで通り仕事にまい進する事」
後のガエル達が、そうであったように、Aランクのなってダメになる冒険も多い。
「犯罪行為をしないのは当然ですが、
問題行動を起こすような行動は慎んでください。
みんなあなた達を、見ているのですから」
そんな事は、当然の事なので、うなずいた。
そしてエイラさんは、Aランクの心得について話終えると、
「それと、これはこの街のAランク以上の冒険者全員言ってることで、
あくまでお願いなのですが、一週間ほど遠方の仕事を、控えてほしいのですが」
と言った。
「何かあったんですか……」
「ビーストストリームへの警戒です」
「ビーストストリーム……」
ビーストストリームと言うのは、さまざまな種類の魔獣が、大移動する現象。
原因は定かじゃないし、もしその途中に街があれば、街は破壊され、
人々は食われる。しかも魔獣たちも前兆もなく急に動き出す上、
普段よりも、速い速度で移動するのは容易ではなく、
身を隠してやり過ごすしかないと言われている。
ただ100年ほどは起きていない。
「ビーストストリームは闇の力が高まる時期に起きることはご存じですか?」
自然界では微量の魔力が放出されているが、特
定の属性の魔力が以上に高まる時期がある。
それによって、自然災害の影響を与えると言われている。
水属性が高い時は、雨が多いとか、地属性が高い時は、地震や火山が噴火したりする
ただ光と闇の属性は、その自然界影響を与えることがないと言われている。
そして今が、その闇属性が高まる時期だった。
「初耳です……」
と僕は答え、ソフィーさんに
「初めて聞いた……」
と言うと、
「もちろん確証はありません。ただ過去の記録によると、
闇の力の高まる時期と魔獣が大移動する時期がぴったり重なっているんです」
ただ、その時期だからと言って、必ずビーストストリームが起きるわけでもない。
事実、起きていない100年間の間に闇属性が高まる時期は何度もあった。
起きるか起きないか分からないので、お願い程度の事しかできないという。
「この一週間を乗り切れば、後は問題はありませんから、お願いできますか?」
そう時期はあと一週間で終わる。
「分かりました……一週間程度なら」
と僕らは答えた。
「それくらいなら……」
とソフィーさんも答える。そしてエイラさんは、
「では一週間、よろしくおねがいします」
と言って頭を下げて、こうして話は終わった。
さて、この一週間は受け手が少なそうな依頼もなく
Aランクになると指定依頼も多くなるけど、
まだなったばかりだからか、そういうのもなかった。完全な休暇のようなものだった。
(なんだか久々の休暇って感じがするな)
と今まで全然休めなかった分、ゆったり休むことにした。
だから宿にこもっているわけもなく、買い物とかで街に出て、
「ライト君……」
「ルリちゃん……」
ルリちゃんと会って一緒に行動することもあった。
そして、Aランクになって五日目の事。
「なんだか、二人でいるとさあ。デートしてるみたいだね」
とルリちゃんが言いだし、顔が火照るのを感じた。
言い出しっぺのルリちゃんも顔を赤くして、
「何言ってるんだろ。私……」
僕たちは、恋人とは言えないけど、でも初心な関係でもない。
だけど、こんなことを言われたら意識せずにはいられなず、
落ち着かなくなったので、話題を変えることにした。
「街のみんな、暗いね……」
この時、街は暗い雰囲気に包まれていた。
「でもみんなビーストストームの事は気にしてないよね」
ビーストストームへの注意喚起はされているが、
100年間起きてないから、実感はないのだと思う。
じゃあなぜ暗いかと言うと、闇属性が高まる時は、
暗黒神の封印が解かれると言われている。ただ暗黒神も確実じゃない。
だが暗黒神を崇める暗黒教団の連中は、
この時期になると暗黒神復活の生贄だと言って、破壊活動を行う。
これの方が実感のある脅威で、街の人たちはそっちの方を気にしているようだった。
とはいえ何の準備もしてない訳じゃない。街には魔獣除けの結界は張っている。
まあビーストストームの前じゃ、それだけだとダメかもしれないが、
街の周辺には壁を築いているビーストストームへの対策じゃなく、
普段の魔獣に対応して作られたもの。でもある程度は守ってくれいるし、
街の地下には、避難所もある。
いずれにしても、不安が街を覆っている状態だった。
「あと二日、何もなければいいんだけど」
と僕が言うと、
「そうだね、何も置きなければ、また街も明るくなるよね」
とルリちゃんが言う。だけど話をする中、街に鐘の音がなった。
(まさか……)
何もなければと思ったけど、世の中甘くないようだった。
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