第17話「受け手のない依頼(2)」

 さてもう一つ、先の受け手の少ない依頼とは、違うので分けて記すが、

直ぐに受け手が現れない仕事と言うのがある。

その日は、とある商人の運搬の護衛を請け負っていた。

本来ならお抱えの冒険者パーティーが行うのだが、

今回、ある事情で請け負えなくなって、

代役を求めて冒険者ギルドに依頼が来ていた。


 その依頼を何故、僕が受けたかと言うと、その時の状況から、

直ぐに受け手が現れない仕事で、困っていそうな気がしたからだ。

そして実際、困っていて、


「いやあ、お二人とも、本当ありがとうございます」


依頼人である商人の男性がすごく喜んでいた。


 二人と言うように、依頼は複数人の募集だったので、もう一人いた。

それは、ソフィーさんだった。本来はもう少し人数が欲しかったようだが、

結局僕ら、二人だけだった。


「今日はよろしく……」

「……よろしく……」


僕も正体がばれないように、「ノエル」の口数は減らしているけど、

冒険者ギルドで見かけている時から思っていたけど、

彼女は、かなりの無口のようだった。

 

 そして馬車に乗って運搬が始まる。

馬車を操縦するのは依頼人の商人で、僕らは荷台に乗る。


「「………」」


お互い口数が少ないから、会話とかはない。

ただ馬車には、従業員の女性がいた。ポニーテールの髪形で、

半そでシャツに長ズボンで、右手には僕のとよく似た手甲を付けている。

そして顔立ちは美人で勇ましく、

かっこいい系のお姉さんに思えたが、後で聞くと、僕と同い年だった。


「初めまして、アタイは サンドラ、サンドラ・シェルフィールドよろしく」

「「どうも……」」


僕とソフィーさんは同じように答えていた。

 

 そしてサンドラさんは、気さくに話しかけてきて、

その中で、彼女が同い年だと知ったわけだが、


「アタイも、実は冒険者なんだよね。でも仕事がなくてさ……」


商人は、彼女の親の知り合いで、その縁で従業員として働いてるらしく、

今日もあくまで従業員としてここにいるという。


「まあアタイは戦えないから、護衛は無理だけど」

「じゃあサポート役か」


つまりは僕と一緒と言うこと、


「アタイはポーターをしてたんだ」


要は荷物持ちのこと。


「アタイは力には自信があるんだよ」


と言って彼女は力こぶを見せた。

確かに、サンドラは体が筋肉質で力持ちと言われても、

納得ができる体つきの持ち主だった。


 サンドラはとあるパーティーで自慢の膂力でポーターをしてたけど、

多くのサポート役同様、戦えないことを理由に追放された。

その後は、新しいパーティーは見つからず。冒険者登録はしたままだが、

商人のもとで働いている。ちなみに今日は積み荷の積み下ろしの手伝いで、

普段から力仕事専門との事。


「でも夢は諦められないんだよな。冒険者にとして活躍するって夢はさ」


この言葉に、


(僕と同じだ……)


と思い共感を覚えた。


 すると商人は馬車を操縦しながら、


「私も、サンドラの夢を応援してるんだ」


と言いつつ


「なあ、この子とパーティーを組んでくれんか?

ポーターとしてはいい働きをしてくれるし、家事もしてるくれるぞ」


僕は、彼女には共感はしたけど、パーティーを組むとなると、

正体が露見しかねない部分があるので、申し訳ない気持ちだったが、


「もう間に合ってるんで……」


すると、ソフィーさんも、


「私も……」


と答え、二人が、あからさまにガッカリいしていたので、

申し訳ない気持ちがした。


 この話をした直後、商人は急に馬車を止めた。



「どうかしましたか……」

「いえ、人が倒れていて……」


確かに、人が倒れている。行き倒れにも見えるが、

よくある手口でもある。僕はサーチを使うと、周囲に大勢の人の気配。

ただ分かるのは気配だけで、どんな奴らか分からないけど、状況から察しは付く。


 僕は商人に、


「盗賊の可能性があります。見てきます……」


盗賊と聞いて、商人は真っ青になり、馬車の中に身を隠す。

そして、僕と話を聞いていたであろうソフィーさんが、外に出て

馬車の方を彼女に任せて、僕は倒れている人の方に向かう。


「大丈夫か?」


と声をかけると、横から軽い衝撃があった。


 どうも魔法による攻撃だった。この鎧じゃなけりゃ、

まずかったと思われる。直後、倒れていた奴は起き上がり、

ナイフで襲い掛かって来た。僕は避けなかった。そもそも必要がなかった。


「なんで!」


とソイツは声を上げた。ナイフは腹に当たっていたが、

当然ながら貫けていない。手にしていたナイフがどう見ても、

普通のナイフだから、この鎧でなくとも貫けそうにないものだった。

ただ、ソイツの驚き用は半端なく、


(こいつアホなの?)


と思ってしまうのだった。


 ともかく、その盗賊が驚いている最中に、

さっき魔法で攻撃してきたと思われる仲間たち、

見るからに盗賊と言う奴らがわんさか出てきた。

僕とソフィーさんは身構えた。


 連中は自慢げに有名な盗賊団の名を名乗って、襲い掛かって来たが、

数分後、盗賊共は全滅しお縄についていた。

まあ鎧に力だけでなく、ソフィーさんが新人ながら、

凄腕の冒険者と言う事もあって、ホントあっという間だった。

なお僕が相手をした盗賊は、


「ちくしょう……」


と声を上げながら睨みつけてきて、心には余裕があるようだったけど、

ソフィーさんが相手をした盗賊たちは


「お願いです。命だけは……」


と震えていて、何人かは失禁していた。

彼女の鎧は厳つい上に、戦い方も荒っぽかった。


(まるで狂戦士みたいだったな。やっぱり魔王って感じだな)


魔王と呼ばれる冒険者のもう一つの要件は、

荒っぽい戦い方だったりする。


 とにかく盗賊は捕まえたが、この後は衛兵所に連れていきたいけど、

場所は遠いし、馬車には載せきれない。

この時、僕は転移ゲートを知っていて、それを使おうかと思ったが、

その前に、ソフィーさんが、


「……転移ゲートが使える……」


といいだして、直ぐに使いだし、

そして片方が、さらなる襲撃を警戒してこの場に残り

もう片方が、盗賊を連行すると言うのを交代で行った。

連れていく際は、それぞれが倒した盗賊を連れて行く形になった。

そして盗賊を全員連行すると、ソフィーさんは転移ゲートを閉じて、

改めて運搬を再開した。


 なお交代で連行している間や、その後は特に何事もなく。

運送は完了して、護衛の依頼を終えた。


 この依頼が、直ぐに受け手が現れないのは、

連中が名の知れた盗賊団だったからだ。

なお盗賊が怖いからじゃない。この手の盗賊団は捕縛すると、

国から賞金がもらえるが、それとは別に冒険者ギルドからも、

賞金がもらえる。


 ただ賞金がもらえるほどの盗賊団は、

広域で活動していて、場所によっては活動していない地域もある。

だから冒険者ギルドは管轄地で活動しているのが確実になってから、

手配書を出す形になっていた。

ただこの手の盗賊団がギルドが認知する前、噂になっていることが多く。

盗賊との戦いとなるであろう護衛任務で、

出現の噂がある地域での護衛の場合。噂の盗賊団の襲撃にあって、

倒したとしても、手配書が出てなければ、

国からの賞金はあっても、ギルドからの賞金はない。


 だから冒険者たちは、盗賊団の噂がある地域の護衛任務は、

ギルドから、手配が出るまで受け手が現れないのである。

ただ急がない場合ならいいのだが、商人は商売の関係上、

悠長な事は出来ないので、今回の件も含めて商人を困らせることが多く。

その為、お抱えの冒険者を用意しておくことも多い。


 ギルドの手配書は出てなかったから僕もソフィーさんも

国からの賞金だけだった。でも不満ない。

生活が成り立つだけの稼ぎはあるし、それに依頼人で喜んでくれれば、

僕の罪悪感も薄れるからそれでいい。


 このように僕は、受け手が少ない仕事を受け続けた。

鎧のおかげで、楽に済ますことのできることもあるけど、

悪臭がする魔獣のように、戦い以外の部分で苦労することも多い

とにかくひたすら僕はそういう仕事を受け続けた。


 受け手がいなくて、点数が上がっている依頼もあったけど、

そういうのはもともとの点数が低いもあるから、

ランクの上昇に、つながるとは限らない。

達成が困難で、受け手が少ない依頼も受けていたから、

自然と僕のと言うか「ノエル」のランクは上がっていった。

言っておくけど、ランクが目当てじゃない。受け手がいなさそうだから、

自分がしなきゃと言う妙な使命感があることもあるけど、

あくまでも、罪悪感を紛らわせるためだ。


 そこまでしても僕は冒険者でいたかったという思いがある。

夢は簡単に諦められない。こうして僕は、「ノエル」として冒険者を続けて行き、

そして「黒の勇者」と広く認知される時が来るのである。

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