第16話「受け手のない依頼(1)」

 僕は、「ノエル」として仕事を受けるときは、

基本的に、人の嫌がる、受ける手のない仕事を基本としている。

ちなみに受ける手のない仕事は、日が経つと点数が高くなるというけど、

具体的な数字は分からないし、あげるタイミングもわからない。

早いこともあれば遅いこともある。なんでも点数が上がるのを持って、

わざと依頼を寝かせるような真似をさせないためらしい。

まあ実際のところ点数が上がる仕事は、上がっていても受けたがらない仕事が多い。


 なお僕が引き受けた仕事は、ウィレミナさんのように、

第三者が警告してきたくらいの、忌避されてる仕事で、僕が受けなければ、

点数が上がっていたらしい。まあ依頼人の口添えで、結果的に点数は上がったけど。


 とにかく僕は点数が目当てじゃなく、あくまでも受け手がいないから、

引き受けているだけだ。受け手が無くて困っている人たちを助ける思うことで、

あの鎧を使っていることへの後ろめたさを、少しでも和らげたかったんだ。


 受け手がいない依頼は二つある。一つは達成が困難な依頼であること、

例えば上級のドラゴンの討伐とかだ。

対処できる程の高ランクの冒険者が少ないから、手が回らず。

他の冒険者たちは嫌がり、受け手がいないままになる。

なおこの手の依頼が、討伐自体が難しいので、最初から達成した時の点数は高い。


 もう一つは、依頼自体は簡単であるが、依頼外の部分で苦労が予測される場合。

僕が初めて引き受けた依頼のように、上級魔獣の乱入が予測される場合。

僕の場合は村長の孫を救ったことで、報酬が上乗せされたけど、基本的に、

魔獣討伐においては乱入した魔獣を倒しても報酬は上乗せされない。

逃げれればいいけど、逃げれないときは戦う羽目になって骨折り損となる。


 ほかにも依頼外の苦労と言えば、場所的な問題、それは僻地の依頼だ。

仕事は楽でも、そこまで行くのが大変で、

報酬に旅費もこみになってる場合があるけど、報酬だから後払いなので、

行きの分で金銭的な負担が出てしまう故に、敬遠されがちだ。


 僻地は、行きはバイクがあるから、特に苦になることはないし、

転移ゲートの存在を知ってからは、それを使うので、旅費は必要ないので

報酬の旅費分は辞退するから、依頼人には喜ばれる。


 魔獣の乱入については、まあ己惚れているつもりはないんだか、

あの鎧の力なら大抵の魔獣なら倒せるだけ力があるから、

気にはならない。その強さに自己嫌悪を感じるけど。


 それと、依頼外の苦労と言う扱いになっているのだが、

魔獣自体は強いわけじゃないのに変な特性があって、

それで苦労を強いられる割には、依頼に考慮されない場合。


 具体的の例として仕事で対峙した時の事を話そうと思う。

それは、とある村から受けた依頼に関することだ。

依頼内容は村の畑を荒らす魔獣の討伐の時の事だ。

その村の畑を襲っていたのはパンタテリバグという昆虫型魔獣。

そんなに強くないが、数は多い。


「こちらです」


依頼人である村長。ゴブリン退治の村の村長よりもずっと若く30代位の女性で、

彼女の案内で森の中にある巣まで来た。

巣と言っても何かあるわけじゃなく、ただ魔獣たちが森の一か所に、

魔獣が集まってると言う感じ。


 パンタテリバグは雑食性の魔獣だが、食事が時期によって異なる。

今は草食期と言って肉は一切食べない。だから畑を荒らすけど、

人や家畜を襲う事はない。まあ畑を荒らされるだけでも大問題だけど。


 これが肉食期に入ると、畑は荒らさないが代わりに家畜や人間を襲い始める。

そしてパンタテリバグはその特性ゆえに、討伐依頼は受け手が少ない。

しかし肉食期に入られたら大変ゆえに、急ぎの依頼だったので、仕事を受けた時は、

依頼人である村長だけでなく村人からものすごく喜ばれた。


 さて今回の依頼で、村長は案内するだけでなく、

実際に巣の中ににまで入っているが、この時期は巣に人間が入っても、

ゴブリンとかと違って、攻撃をしない限りは、襲ってこない。


「それでは、私が村に戻ったら、合図の花火を上げますので、

後はお願いしますね。終わったらそちらも、合図の花火を上げてください。

遠見の鏡で確認します。確認を終えたら花火を上げますから」


そう言うと花火を渡して村長は帰って行く。

村長の言う「遠見の鏡」と言うのは、使い手が過去に行った場所を、

見ることのできるマジックアイテムの事、

ただ村長が所有するのは過去数時間前に行った場所を、

数分だけ見ることのできる制限がある代物。

要は、二度戻ってきたくないということの現れ、それには理由がある。


 そして村長が去った後、魔獣退治の準備に入る。

まずは巣の真ん中に虫寄せを置く。これは、アイテムショップで買ってきたもので、

鎧の収納空間に入れて持ってきたけど、鎧とは無関係な代物。

ともかく、こうすれば昆虫型魔獣は、逃げていかない。

なお結界を張って逃げ道は防ぐと言う方法は、訳あって使えないからだ。

ちなみに攻撃しない限り巣の中をうろついていても、魔獣たちは襲ってこない。


 さて合図の花火がまだ上がらないので、


(ステータス・オープン)


事前に確認はしたけど、使ったことがなく、

まだ覚えてないのでステータス画面から武器を呼び出す。

使う武器は「カノンタガー」。

二つ一組の武器で短剣と魔法銃が一体になった武器で、

今回は魔法銃の方を使う。何故かと言うと、魔獣は

飛び回るので、遠距離攻撃が必要なのと、

火以外の魔法耐性があるから、物理的な攻撃の必要があるのと、

傷を少なめにして、倒す必要があるから、ただ弓だと威力が足りない。

ちなみに魔法銃は発射こそ魔法だが、攻撃事態は物理である。

 

 やがて村から、合図の花火が上がりいよいよ魔獣退治だ。

魔獣たちに銃弾を浴びせる。弾丸は誘導性を持つので、急所に命中し、

一撃で倒していく。なお数が多いので、全滅には少し時間がかかる。

ただその間に、この依頼が受け手が少ない理由が襲ってくる。


(臭い……この鎧でも完全には抑えられないのか)


パンタテリバグの見た目は、巨大なカメムシだ。

なので刺激を与えると、カメムシ特有の悪臭を放つ。

またその体液も臭い。だから剣とかで切ったりしたら、

体液が飛び散って余計臭くなる。だから銃を使うのはその為、

少ない傷で絶命させ、体液をなるべく少なくするためだ。

結界が使えないのも匂いがこもるからだ。


 やがて魔獣たちは全滅し、僕は合図の花火を上げる。

その後、鎧の力である程度は緩和しているらしいが、それでも気分が悪くなって


「ウェェェェェェェェ……」


僕は、草むらに吐いてしまうのだった。

なおこの鎧の便利な所は着たまま、飲食ができることだけど、

同時に嘔吐することもできる。なお吐しゃ物は鎧の中に溜まることなく、

速やかにちょうど口のあたりから外に排出される。


 この後、確認の花火が上がり、僕は水系の魔法で鎧を洗い村に戻って、

報酬と依頼完了書をもらいパンタテリバグ退治を終えたけど、

臭いが忘れられなくて、その日の晩は、食事が喉を通らなかった。


 匂いがキツイと言えば、空を飛ばないドラゴン、ディドラゴンの一種に、

スカンクドラゴンと言うのがある。体に生えた黒い体毛が特徴で

こいつはドラゴンだけあって中級魔獣で、火を噴くし雑食で、

作物や家畜、最悪人間への被害もある。


 初心者は無理だけど、少し慣れてくれば倒せる程度の強さだが、

こいつも臭い分泌液をまき散らす。

僕も戦ったが、こいつも、その匂いは鎧でも防ぎきれず、閉口するが、

ただ体液自体は鎧で防ぐことが出来るし、水で洗うだけで簡単に取れる。

 

 しかし体液が肌に触れれば、匂いが肌に移り、半年は取れずに、

香水のお世話になる必要があるという。

なおスカンクと言うのは、異世界の動物の名前らしい。

同じように臭い分泌液を出すとの事。


 ほかにもアウラウネと言う半人半植物型の魔獣の一種に、

ラフレシウネと言うのがある。こいついつも雑食で人間を襲うだけでなく

地面の養分を吸いつくし、作物を枯らすと言う点から、 退治の対象になるが、

同じく匂いがキツイ。主な攻撃方法は、毒棘の射出と、

蔦による締め付け、僕が戦った時は、鎧のおかげで、

どれも大したことはなかったが、導管液みたいなもの飛ばしてくることがあって、

これが臭い上に、当たったらべたべたして鎧越しなのに気持ち悪かった。


 ほかにもこのような悪臭をもたらす魔獣は他にもいて、

その匂いでひどい目にあうことが多いけど、

毒とかならともかく、悪臭では、依頼に反映されないので、

報酬は低く、結果としてこのような魔獣の討伐は受け手が少ない。


 またこれら魔獣はどれも炎以外の魔法耐性がある。

唯一効果がある炎魔法で焼き殺せば匂いを気にせず駆除できるが

しかも耐性がないとされる炎もかなり強力じゃないと効果がない。

周囲への影響を考えると、その手は使えず、

悪臭の影響を受けやすい戦い方を強いられる故に、受け手が少ないと思われる。

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