第15話「従者」

 村に戻り、依頼人である村長に討伐を終えたことを伝え、

村人を連れて、再度洞窟に向かい現場を見せて、

全滅を確認してもらい、報酬をもらって終わり、

ミノタウロスは依頼外の存在なので、報酬はもらえないし、

ランクにも影響しないはずだった。僕としては人助けだし、

特に苦労もしてないから別に良かった。


「孫を助けてくれてありがとうございます!」


 なんとあの男の子は、村長の孫だったのだ。

その為、お礼と言うことで報酬は上乗せしてくれて、

依頼完了書に、口添えまでしてくれた。この依頼完了書を、ギルドに提出する事で、

事前にギルドが予測していた難度を元に点数が割り当てられ、

ランクアップにつながる。

 

 ただどれくらいの点数がつくかと言う詳しい話は非公開で、

依頼人の口添えで、点数上がったり下がったりするとの事だが、

ランクにどこまで影響があるかは不明だ。そもそもランクアップに、

どれだけの点数が必要かも非公開となっている。


 点数の事はともかく、男の子は、ずっと僕の事を


「黒の勇者様」


と呼んでいた。違うと言ってもだ。そして別れ際に村長さんも


「もしよければ、またお願いしますね黒の勇者様」


と言われてしまった。


 まあ違ったとしても勇者と呼ばれて、大体の人間は悪い気はしないから、

村長さんもそういったんだろうけど、

僕としては、あの鎧を使うということは、ずるしているような気がするから、

正直心苦しかった。


「やめてくださいよ。俺はただの冒険者です」


と返したけど、向こうは謙遜と捉えたみたいで、


「いえいえ、私たちにとっては勇者様ですよ」


と言われてしまった。


 心苦しい思いを抱えつつも、この時はまだ転移ゲートは知らなかったので、

バイクで村を後にした。なおこの時点では「黒の勇者」の名は、

あの村のそれこそ、あの村長と孫だけの事で、

その名で有名になるのは、もう少し後の事だった。


 さてそんな僕が、勇者の従者、

この頃はまだノエル・シュナイダーの従者、パーティーとなるんだか、

そこに至るまでの話だけど、ノエル・シュナイダーと名乗って、

ライト・アシュクロフトと言う存在を消す気はなかった。

なんでかと言うと、生活サポートの冒険者としてのプライドかな。

この分野で評価されたくて、存在を消すことは、

そういうのを諦めるとこになる気がして嫌だった。


 ただ僕と、「ノエル・シュナイダー」が同一人物である以上、

別人としていても、近い存在になりがちになる。

例えば、同じ宿にいたりとか、同じことを知っているとか、

他人と言う扱いにすると、不自然のなるような気がしたので、

パーティーなら、寝食を共にして近い位置にいても不自然さはない。


 ここで問題なのは、

僕と「ノエル・シュナイダー」とパーティーになる理由付けだ。

ほとんどの人は気にしないだろうけど、気にしそうな人間が二人いる。

一人はルリちゃん。そしてもう一人は、ギルド職員のエイラ・フォルシアンさん。

後にギルドマスターになる人だけど、

彼女は、僕やルリちゃんのように不遇なサポート役を気にかけてくれている。

だから関係性を気にするだろうし、ギルド職員だから、

探られてしまっても困る。


 そしてある日、冒険者ギルドに行くと、エイラさんから声をかけられた。


「ライト君、あれから新しいパーティーは見つかった?」

「いえ、まだです」

「大丈夫なの?あれからだいぶ経ってるけど……」


言うまでもないけど、サポート役はどこかのパーティーに入ってないと稼ぎはない。


「大丈夫ですよ。まだアベルさんのところにいた時の稼ぎがありますから……」

「ならいいんだけど……」


と心配そうに言うエイラさん。

実のところ、僕は嘘をついていた。アベルさんのところにいた時の稼ぎは、

既に尽きている。今は「ノエル・シュナイダー」としての稼ぎで暮らしている。


 この時には冒険者としては、「ノエル」として行動することが多く。

サポート役としてはほとんど働いてない。

その日も、時々でも顔を出しておかないと妙に思われるから、

行っていただけに過ぎなかった。


 この日、急がなければいけないなと思うことがあった。

仕事があるエイラさんと別れた後、仕事を探すわけじゃないけど、

適当に掲示板を見ていると、冒険者たちの会話が聞こえてきた。


「そういや、ノエルだっけ、あの大型の新人」


この頃は「ノエル」としてはCランクになっていて、

そろそろBになりそうな感じで、

しかも結構な短期間なので、他の冒険者からは、大型新人と言うか使いだった。


「アイツ、どこに住んでいるか知ってるか?」

「この辺のどの宿からもうわさは聞かないな。

あんな立派な鎧を着ていたら目立つはずだか……」


すると別の冒険者が、


「アイツの野宿してるって聞いたぞ」


この野宿と言うのは、以前、ノエルとして依頼を探しに来た時、

その冒険者から、どこに住んでいるか聞かれ、

とっさにそう答えたのだった。


「アイツ、これまでの依頼で、宿に泊まれるくらいの稼ぎがあるはずなのにな……」

「まあ俺たちは心配する事でもないんだろな」


と言って、別の話題に代わっていったが、この会話を聞いて、

怪しまれかけていると思った。

ノエルとしての活躍は、知られ始めていて、

稼ぎも予想されているようだ。確かに現在の稼ぎで、

野宿だと、よっぽどなケチならあり得なくもないけど、

ちょっと怪しいと思われそうだった。


 かといってノエルとして別に宿をとるのは不経済だ。

二人部屋なら、宿泊費は上がるも別に宿をとるよりも安くすむ。

ただ、今のままだと変に思われてしまうから、

おかしいとは思われない状況、急ぎパーティーを組む必要があった。


 ちなみに余談だけど、この時の冒険者達の話題は、

もう一人の大型新人の話になっていて、


「なあ、あの厳つい鎧で、ソフィーって名前はどう思う」

「ないだろう。流石に可愛いすぎるよ」

「だよなあ。あの鎧でソフィーはねぇよな」


と言って笑っていると、本人で、後に白い魔王と呼ばれる冒険者、

ソフィー・ホワイティアが、やって来た。

冒険者達は、彼女が来たことに気付かず笑っていたけど、近づいて、


「私に何か用か?」


と声をかけると、みんな固まって、


「いや……別に何も……」


震えながら、答える。


「そう……」


と言ってソフィーさんは去って行くが、

話題していた本人が現れたと言う事もあるけど、

あの鎧で来られたら流石に怖い。僕は思わず


(白い魔王だな……)


と思ってしまった。ちなみに思っただけで、

僕自身があの人を白の魔王と呼ぶようになったのは、

他の人から呼ばれるようになってからだから、

僕が言い出しっぺではない。


 ちなみになぜ魔王かと言うと、

この国には、魔王は攻めてきたことは無いけど、

隣国は、断続的ではあるものの長年魔王の侵攻を受けている。

その魔王は「鎧の魔王」って言って黒くて厳つい鎧を着ている


 なお魔王と言うのは、魔族の族長で、他にもいるけど、

本格的に侵攻してくるのはこの鎧の魔王だけで、

魔王の代名詞となっている。特に鎧が魔王の特徴であるため、

厳つい鎧を愛用している冒険者の事を魔王と呼ぶことがある。

まあ魔王と呼ばれるにはもう一つ要件があるが、それは一旦置いておいおく。

なお僕の鎧も黒くて厳つい気がするが、勇者と呼ばれても、

魔王と呼ばれることはなかった。


 ともかくパーティーの理由付けだが、

なかなか思い浮かばず、困っていたが、ここで助け船が来た。

それは、悩む理由であるエイラさんからだった。


 その日は、依頼完了書をもって、冒険者ギルドに来たんだが、

受付で手続きが終わった時に、エイラさんから声を掛けられた。


「随分と頑張ってるようね。新人さん」

「それほどでも……」

「依頼によるけど、次くらいでBランクは間違いないわ」

「そうですか……」


鎧の力のお陰なので、ランクが上がっても嬉しさは特になかった。

そんな僕にエイラさんは、


「ところで、貴方、家事はできる?」


と言われ、思わず「できる」と言いそうになったが、

そこはこらえた。

僕と「ノエル」がパーティーを組む理由付けの一つとして、

家事ができないと言う事にするつもりだったからだ。


「出来ません……」


と答えると、エイラさんは、


「私は、この先Aランクとかに行くには。家事が重要だと思うの。」

「そうなんですか……」

「自分でできないなら、できる人が必要よ。

私は丁度いい人を知っているわ。ライト君って言って、

生活サポートの冒険者なの。彼とパーティーを組んでもらえないかしら?

絶対、あなたの役に立つわ」


エイラさんは、僕の事には気づいてない様子だが、

この申し出は、理由付けとして良かった。

ギルドからの仲介でパーティーを組むと言うのはよくある事だし、

それにエイラさんからの紹介なら、当人はもちろん、

ルリちゃんも納得してくれると思った。


「分かりました。彼の居場所を教えてください」

「それだったらギルドで場を設けるけど」


と言われ、それだと同一人物故に困るので、


「その必要はありません。直接本人に会いに行って話します」


と言ってどうにか居場所を聞いた。

もちろん、僕の事だからどこにいるのかは知っていたけど、

「ノエル」として、知っていたら変だからだ。

ともかくこうして僕と「ノエル」とパーティーを組み。従者と言う形になった。 


 さて僕の方はうまく行ったけど、僕にはもう一つ気になる事があった。

それはルリちゃんの事だ。彼女も僕と同時期に追放されて、

それ以降、パーティーを組んだと言う話を聞かなかったからだ。


 でも僕が従者となったころ、冒険者ギルドで彼女と会った。


「ライト君はあれから、誰かとパーティーは組んでるの?」


と聞かれ、いざ話そうとすると、嘘が混じっている事なので、心苦しかったけど


「エイラさんの紹介でノエルって人と組んでる」


と話した。するとルリちゃんは、


「そうなんだ。エイラさんの紹介なら、大丈夫だよね。よかった……」


と安心したような表情を浮かべたので、ますます心苦しさを感じつつも、

僕も尋ねる。


「ルリちゃんの方はどうなの?」

「私も、パーティーを組んだの、ソフィーって人と」

「あのソフィーさんと……」

「私も、エイラさんの紹介でね」


彼女も言ってたけど、エイラさんの紹介なら大丈夫な気がして、


「それは良かった」


と僕は安堵したが、当のルリちゃんは何だか微妙な表情を浮かべるのだった。

その意味を知るのは、少し後の事だった。

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