第14話「勇者と呼ばれた日」
森に入って、結構な時間歩くと、少し開けた場所に着く。
そしてそこには、巣と思われる洞窟があった。
ゴブリンは夜行性だから、この時間帯は洞窟に戻っているはずだった。
洞窟を前に、再度武装の確認をする。
(ステータス・オープン)
心の中でつぶやき、目の前に情報が表示される。
これをステータス画面っていうらしい。
HPとかMPとか訳の分からない単語が並ぶが、
それがどういう意味なのかは頭に勝手に入ってくる
HPは体力、MPは魔力という感じだ。 職業というのが書いているけど、
勇者、戦士、盗賊、魔法使い、僧侶と、たくさんの肩書があって、
これまでこの鎧をもっていた人間の職業のようだった。
それはともかく、確認するのは使える魔法やスキル、そして武器だ。
ゴブリン退治に必要なもの、すでに確認していたが、直前にもう一度確認する。
なおステータス画面を開いている間は、僕は動けないけど、
それは、時間が止まっているからで、どれだけ長くこの画面を見ていても、
全く問題はなかった。
そしてステータス画面を閉じて、確認した武器を召還する。
両手に短剣が出現する名前は「ヴァイブナイフ」。
刃が振動することで、切れ味を増すというナイフで、 魔法剣の一種との事。
洞窟での戦闘なので壁に引っかからないように、武器は短剣と言うのが、
ゴブリン退治の基本だ。二本あるので両手に装備する
とにかく僕は、敵を逃がさないように洞窟の入り繰りにゴブリン用の結界を張る。
その後で、
「サーチ」
分析魔法を使う。これは個体の分析だけでなく、索敵も可能だ。
もちろん鎧を着ているから使えるのであって、普段は使えない。
ともかく頭の中に、周辺にいるゴブリンの位置が浮かびあがる。
まず近場に、三体ほど屯している。
あと「暗視」スキルもあるので明かりもいらない。
そして僕はヴァイブナイフを手に、 一気にゴブリンの所まで走った。
するとゴブリン三体が僕に気づき、
「キシャァ!」
と声を上げ敵意をむき出しにして襲ってくる。
ゴブリンは、元来臆病なところがあり、すぐに逃げていくこともあるが、
その割にはしつこくやってきて作物や家畜を襲う。
ただ巣に入られるのを嫌がり、入れば敵をむき出しにして踊ってくる。
まずは小手調べに、最初にとびかかってきた一体を斬る。
ゴブリンは見事なくらい真っ二つになり絶命した。
残り二体も一気に間合いを詰めると、連続で斬りつける。
先のも含めて、その体は鎧を身に着けていたが鎧ごと真っ二つにし、
二体のゴブリンは、何の抵抗もなく、咆哮さえ上げずに息絶える。
武器だけじゃない鎧の力で、熟練の冒険者のごとく体も動く。
あと鎧は丈夫だが重くないので動きも素早い。
そして異変を察知したのが
「キシャァァァァァァァ!」
と声を上げながらゴブリンが次々と向かってくる。
「うおおおおおお!」
こっちも自然と雄たけびを上げながら、ゴブリンに向かっていき、
最初の攻撃を避けつつ、すれ違いざまに斬ったり、
突き刺したり、首を掻っ切ったりと次々にゴブリンを退治する。
僕の動きは洗練されているけど、
先も述べた通り鎧の力で勝手に動いているようなところがあるので、
正直気持ち悪かった。ゴブリンを虐殺するかのように倒していき、進んでいくと、
大きな空間にでた。そして僕は、武器をいったん仕舞い、
その中央まで来ると物陰に隠れていたゴブリンが、
「キシャァァァァァァァ!」
大勢出てきて、こっちに向かってくる。
ここに待ち受けていることは、わかっていた。
そして奴らが一定の距離まで近づいたとき、
僕の体は勝手に左手を開いた状態で上に挙げて、
「ファイヤー・エクスプロージョン」
と叫び魔法を発動させる。この魔法は炎系の上位の魔法だ。
一定の範囲内にいる対象を炎で燃やし尽くす魔法だ。
対象はゴブリンで、範囲内に入ったところを見計らって使用した。
そしてゴブリンたちは火に包まれ、これで巣の大半のゴブリンを倒すことが出来た。
ただすべてではないので、後はサーチを使い位置を確認しながら、
ヴァイブナイフを手にしゴブリンを倒していく。
ちなみにゴブリンにもボスと言える奴がいるが、
さっきの空間にいたので魔法で、焼け死んでいてあとは雑魚だけ。
ゴブリンのボスと言っても、他の個体よりも少し大きいくらいで、
そんなに強くはない。
稀に強力なゴブリンロードなるものがいるが、幸いこの洞窟にはいない。
そして、最後の一体を仕留めると、再度サーチを使って、
洞窟内にいないのを確認し終わると洞窟を後にした。
この後は依頼人の村長を含めた村人を呼んできて現場を見せて、
それを討伐の証拠にして、報酬と依頼完了書をもらうだけだ。何事もなければ。
だが帰り道で魔獣を見てしまった。
(ミノタウロス……)
牛のような頭部を持つ巨大な人型魔獣。この近隣に生息域のある上級魔獣だ。
今回は、鎧の力とは関係なしに、それこそ幸運なことに、
こっちが先に気づくことが出来て、向こうはまだ気づいていない様子。
(まあ、相手をする必要はないか……)
放置して村に接近したとしても、結界があるから、上級魔獣は村に入れない。
それと今回は運がいいが、多くの場合はこういった魔獣に気づかれて、
討伐の前後や途中に乱入されることが多い。
ミノタウロスをやり過ごして、村へと向かう。
なお、この鎧は転移ゲートを生成と言う大魔導士でも使える人の少ない魔法を、
使えることができ、一度行ったことのある場所には、
どこでも行けるのだが、この時はその事を知らなかった。
この鎧には自然と情報が頭に入ってくる「教え要らず」って奴で、
分かる事もあるけど、使用できる武器や魔法の詳細など
ステータス画面で確認しないといけないものも多い。
転移ゲートに関しては、存在自体を確認しないといけなかった。
ともかく転移ゲート知らないので、歩きで帰っていたけど、
それが功を奏するというか、一人の人間の命を救うことになった。
森を進んでいると突如、
「うわぁぁぁぁぁ!」
と言う声と子供の声と、何かが落ちたような音がした。
思わずその場に向かうと、村の住民と思われる男の子が、
座り込んで痛がっていた。
「大丈夫かい?」
と声をかけると、男の子は、痛がって泣くだけだった。
(足を怪我してる……)
上を見ると実がなる木と周囲には枝が散乱していて、
男の子が、木の実を取ろうとして木の上から落下したのは、間違いなかった。
「今、治してあげるからね」
と言って手をかざすと、
「ヒール」
と治癒魔法を使った。もちろん鎧の力。これで怪我は治ったはずで、
「もう大丈夫だよ」
と言うと男の子は、痛みが引いたのか泣き止み、僕の顔を見て、
「ありがとう、冒険者さん」
とお礼を言ってくれた。そして僕は早く帰るように促そうとしたら、
「グオォォォォォン!」
と言うミノタウロスの咆哮が周囲に響き渡った。
そして地響きを立てながら、こっちに向かっているのが、
あからさまに分かった。恐らくさっきの声を聞きつけたからだろう。
「早く逃げるんだ!」
「冒険者さんは?」
「大丈夫だから、早く行くんだ!」
「分かった」
そう言うと、男の子は立ち去るけど、子供の足じゃ追い付かれる。
転移ゲート知っていれば、それを使って村まで送り届けたが、
知らないので、それは出来ないので、
僕はこの場に残って足止めをする必要があった。
僕はステータス画面を開く。
(巨大な魔獣と戦う時の武器は……)
大剣があるのは知ってるけど、種類は多いし詳しい情報はない。
ただ望む武器を薦めてくれる機能があり、
この時薦められたのが、「チェインモア」と言う名の大剣で、
大型の上級魔獣戦で愛用していくことになるが、
魔法石を動力とした機械仕掛けで鎖についた無数の小さな刃が、
刀身の周りを回転していて、切れ味を生み出しているという、
変わった作りの大剣で、
(異界の道具にチェーンソーていうのがあるけど、それに似ているな)
何だか強そうなので、これを使う事にした。
なお武器の召喚は、望むだけで手元に出現するが、
ステータス画面を開いているときに欲した場合は、
画面を閉じると自動的に召喚される。あとヴァイブナイフの時は、
手に出現しただけで、特に動作を必要としなかったが、
このチェインモアの時は体が勝手に動き、
左肩に右手を持っていき、その手に大剣が出現。
まるで大剣を左肩に装着していて、それを抜くかのような動作をした。
その後は、体を自由に動かせるが、
(随分軽いな……)
その大きさの割にはかなり軽かった。これはチェインモア自体が軽いのか、
それとも鎧によって腕力が上がっているのか、正直分からなかった。
ともかく武器を構えて待った。
そしてすぐにさっきのミノタウロスが現れた。
「グオォォォォ!」
と咆哮を上げながら、巨大な手で掴みかかってくるので、
最初に一撃を素早く避けた。なおミノタウロスの目的は、捕食だ。
まあミノタウロスに限らず魔獣が人間を襲う時は、
基本は捕食。ただゴブリンは雑食だから人の肉も食うが、
人を食うために、襲う事はなく、
さっきの時の様に、侵入者を襲う時は殺害が目的としている。
さて最初一撃を避けた僕は、そのままチェインモアで太ももを切りつけた。
その巨体故にゴブリンとは違って一刀両断とはいかなかったが。
中々の切れ味で、大きな傷をつけて、そこから血が噴き出る。
「グオォ!」
と苦しそうな咆哮を上げるが、上級魔獣は防御スキルがあるから、
致命的じゃない。防御スキルを弱らせるため、
効果が弱い足や手を狙って攻撃を仕掛けていく。
というかどこを狙えばいいか、勝手に分かって、
そして体が勝手に動いて、その部分を攻撃して行く。
ただ、場所が分かった段階で僕自身は狙いを定めている。
ゴブリンの時も同じ、狙いは僕が定めているし、
魔法を使った時も、発動のタイミングは僕が決めていた。
だから僕の意に反して動いているわけじゃないのだが、
でも感覚的には勝手に動いているようなものなので、
この時は、正直気持ちが悪かった。
太ももに怪我をしたからと言って動きに変化はなく、
引き続き魔獣は襲ってくるが、ミノタウロスの攻撃は手足を使った単純なもの。
中には大木や石を武器にするものいるが、基本は素手。
それでもその腕力と防御力は強力で、多くの冒険者が犠牲になっている。
ゴブリン退治に来て、結果的に上級魔獣のミノタウロスと遭遇、
戦いと、今僕は初心者の罠に落ちている状態だ。
でも鎧のお陰で、そんな感じは無くて魔獣の攻撃を避けつつも、
「このぉぉぉぉぉ!」
と自然と声が出つつも、足や腕を切りつけていく。
やはりお勧めの武器だけあって、先程も述べけど、
中々の切れ味で、大きなダメージを与えているみたいで、
防御スキルがあっという間に弱くなっていくのを感じた。
ちなみに、感じるのも鎧のお陰で、熟練の冒険者は勘で分かるが、
普通はスキルの弱まりは魔法で確認する。
そしてミノタウロスは、
「グオォ!」
と咆哮を上げつつ、防御スキルが弱まった状態ではあるが、
果敢に攻撃を仕掛けてくる。鎧の力とは関係なく、
見るからにその動きが次第に遅くなっていくのが分かった。
そして、ミノタウロスは右手で掴みかかろうとするが、
今度は避けずに、むしろ切り込んでいって、右手の指を切り落とした。
「グオォォォォォォォォ!」
ミノタウロスは方向を上げるが、苦しそうで、
痛がっているような素振りを見せる。そのまま追い打ちとして、
「せいやっ!」
という掛け声共に左腕を切り落とし、そのまま、
「とりゃ!」
左足を切りつけた。こっちは切り落としには至らなかったが、
深い傷を負わせることが出来て、
「グオォォォォォォォォ!」
と言う咆哮と共にミノタウロスは、地面に膝をつく。
そして防御スキルはさらに弱まったので、ここで胴体を切り裂く。
「グウォォォ!」
大きな傷ができ、血が噴き出す。
そしてさらに数回切り裂いた後、スキルの更なる弱まりを感じて、
「うおおおおおおおおおおおお!」
と自然と声を上げながら、チェインモアをミノタウロスの首に叩き込み、
首筋に刃が食い込んだ。そして血が噴き出して、苦悶の表情をしつつも、
咆哮を上げることはなかった。
頭を落とすことはかなわなかったが、そのままミノタウロスは、絶命した。
ミノタウロスが動かなくなったのを確認すると
拍手が聞こえ、その方を見るとさっきの男の子がいた。
どうやら逃げてなかったようだった。
「すごいよ。冒険者さん!」
と言いつつも、
「いや、勇者様だ。黒の勇者だ!」
と純粋な目で見つめながら言った。
黒い鎧を着ているから黒の勇者なんだろうけど、
これが初めて黒の勇者と呼ばれた瞬間だった。
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