第1章「黒の勇者、誕生」

第13話「冒険者再登録」

 僕が、初めて「黒の勇者」と呼んだのは、とある村の子供だった。

そこに至るまでの話をしようと思う。僕がアベルさん達のパーティーを追い出され、

持ち金が減ってきて、鎧を使う決心をした翌日、僕は冒険者ギルドに向かった。


 鎧姿の僕の正体に気づくものは誰もいなかった。

みんな、見慣れないやつが来たと顔をしていた。


「流れか……」


と言う声も聞こえた。別の地域から来た冒険者とでも思われてるんだろう。

僕は、まっすぐに受付に向かい、別人を装うため普段とは口調を変えて、


「すいません。ギルドに登録したいんだが?」


と言うと受付のお姉さんが驚いたように、


「新人さんだったんですか?」


と言った。鎧は結構立派だから、

見た目だけならベテランの冒険者とみられてもおかしくない。

この人も、別に地域から来た冒険者だと思っていたんだと思う。

そして受付のお姉さんは、用紙を出してきて、


「では、これに必要事項を記入してください」


僕は名前、年齢等を書き込んだ。もちろん正体を隠すため、全て噓だけど、

冒険者はよっぽどなことがない限り、

身分を詮索することはないから、ばれる可能性は低い。

この時名乗った名前は、ノエル・シュナイダー、今では呼ばれることのない名前だ。

記入欄を一通り埋めると、受付のお姉さんが、


「では、これで登録します。ノエルさん」


と言った後、席を外し、しばらくすると一枚の金属製のカードを持ってくる。


「これは冒険者カードです。このギルドでの依頼を受けるにはこれが必要になりますので お忘れにならないように」


そう言って渡してくれた。これが冒険者としての身分証明書だ。

もちろん知っている。でも知らぬことにして、


「分かった……」


と答えた。


 その後はギルドのルールについて一通り説明を受けた後、


「依頼はあちらの掲示板に張り出されていますので、

受ける方はあちらからお選びください」」


そう言って指さす。そこは掲示板で、依頼に関する紙が張り出されている。

もちろん、よく知っているが知らぬふりをして、


「分かった……」


と再度答える。


 さて「ノエル」として冒険者登録したわけだが、初めて登録した時を思い出して、

懐かしさを感じつつ、掲示板の方に向かい。依頼を探すことに、


(さてどんな依頼があるのかな?)


これまでは、サポート専門であるから、依頼は仲間が選ぶから、

僕自身が依頼を選ぶのは初めてだった。


(なんだか新鮮だな)


と思いながら依頼を眺めていると、「ゴブリン討伐」と書かれた紙を見つける。

ギルドが予測する難度は低めで、


(新人冒険者の定番だな)


そんな事を思い、依頼の紙を掲示板から剥がすと、


「その依頼はやめた方がいいわよ」


突然背後から声がしたので振り返るとそこには、

杖を持って背も高く長髪で、体つきもよくて

色気を感じつつも凛々しさを感じる美人の魔法使い風の女性がいた。

右手には革の手袋を付けている。


「えっと……」


 どこかで見たことある顔だったが思い出せず、

僕が戸惑っていると女性は続けて、


「この依頼は、一見初心者向けのものだけど、罠なのよ」

「どういうことだ」


僕は思わずそう尋ねる。すると女性は答えてくれる。


「地名を見てみなさい」


僕は地名を見ると、思わず。


「あっ!」


と声を上げてしまった。


「どうやら知っているようね。新人さん」

「初心者殺しの土地……」


 初心者殺しの土地というのは、上級魔獣の生息域が近い場所の事。

そんな場所でも暮らしている人々はいる。

いい作物が育つからだ。それに大地の力が強く、それを利用して

対上級魔獣用の結界も張れるから、上級魔獣からの被害も少ない。

ただ、結界は上級魔獣は防ぐけど、

ゴブリンのような下級魔獣は防げないことが多く。

そういう場所からくる依頼は基本的に下級魔獣の巣の盗伐で、

初心者向けの依頼でもある。


 じゃあなぜ初心者殺しかというと、上級魔獣の生息域が近いゆえに、

下級魔獣を討伐中に上級魔獣が乱入する可能背が高く、

当然初心者は、上級魔獣には手も足も出ず、全滅ということになる。

この事は、冒険者になる前から聞いていて、

両親からも気を付けるように言われていた。彼女の言う通り、罠ともいえる。


 そして僕は、依頼の紙に目を落とし、


(でも、受けてくれる人はいるんだろうか?)


知らない初心者なら受ける人もいるかもしれないが、

じゃあ上級者、高ランクの冒険者は受けるかというと、

依頼自体は、初心者向けで稼ぎが少ない。

それに、魔獣の乱入ははっきり言えば運だから難度には含まれていない。


 くわえて、冒険者の依頼全般に言えることだが、

上級魔獣が乱入したからと言って、報酬が増えるわけでもないし、

その事を申告してもランクに影響はない。

だから、旨味のない仕事なので、受ける人は少ない。

知らない初心者ならと記したけど、初心者でも知っている冒険者も多いから、

とにかく、受け手の少ない依頼なのは確かだった。


 だけど、僕は、


「この依頼は、俺が受けなきゃいけない依頼だ」


別人を装うため一人称は変えているけど、

それはともかく、彼女に対しそう宣言していた。


「受ける受けないは、あなたの自由だけど、私は警告したわよ」


彼女はそう言って、この場を去ろうとする。


 この時、僕はふと思い出して、


「あの……」


僕が呼び止めると彼女は足を止める。


「何?」

「貴女、もしかして占い師じゃないか?確か名前は……」


名前までは出てこなかったが、


「ウィレミナ・ ハルフォードよ」


と彼女は名乗った。たしかウィレミナさんは路上で占いをしていて、

よく当たると聞いていた。


「どうして、冒険者ギルドに?」

「私は、本業は冒険者なの。バッテリーだけどね」


バッテリーというのは、元は異界の言葉が由来との事だけど、

自分の魔力を他の魔法使いに供給する人間の事。


「まあ、冒険者としては仕事がなくて、占いで生計を立てているの」


きょうは冒険者としての仕事があるから来ているとの事だが、日雇いとの事。


 バッテリーと聞いて、思い立ってことがあった。


「もしかして ヴァレーリエのパーティーにいなかったか?」


ヴァレーリエさんは、アベルさん以前に、僕がいたパーティーのリーダーだ。

このパーティーも当然追放されたわけなんだけど。


「ええ、いたけど……」


その時に聞いた僕の前任者が、

バッテリーで追い出した後は占い師をしていると聞いた。

ただ名前は聞いてないし、女性の占い師は何人もいるから、

この瞬間まで気づかなかった。


「ヴァレーリエのパーティーに知り合いがいたことがある。

そいつから、話を聞いたことがあって」


実際は知り合いじゃなく僕なんだけど。


「その知り合いは、ひどい目にあってなかった?」


実際はひどい目にあったけど、


「さあな、そこまでは聞いてない」


と誤魔化した。


「まあ、何もないならいいけど……」


と言いつつ、


「ヴァレーリエの事はともかく、依頼の事は気を付けてね」

「ああ……」


僕はそう答えると、ウィレミナさんは去っていった。


 残された僕は、


(あの人も僕やルリちゃんと同じなのかな)


と思った。バッテリーは生まれつき大量の魔力が保有するも、

何だかの理由で魔法が使えない人間が多く、

使えないから他人に供給して、魔法使用のサポートをするわけだけど、

ただ魔法以外の戦闘能力を持たない限り、

僕も含めた多くのサポート役同様、不遇な立場に追いやられることが多い。

ヴァレーリエさんから聞いた話だと、前任者、つまり彼女はバッテリーだけでなく、

僕と同じく家事とかもしてたという。だから余計に彼女に共感を覚えた。


 ウィレミナさんの事は、いったん置いておくとして、

僕は依頼の紙を持って受付に向かい、依頼を受注した。

冒険者としての初めての魔獣討伐、僕は依頼を受けた後、

早速依頼の場所に向かった。


 その場所は馬車を使わないといけないくらい遠い場所だけど、

僕には移動手段があった。それは「バイク」っていう異世界の乗り物だ。

鎧は様々な技能や魔法を使えるだけじゃなく、武器とかも召喚できる、

これもその一つだ。動力源は魔法石。


(カーマキシみたいなものだな)


武器がそうであるように鎧の力で、今回初めて乗るバイクに、

以前から乗っていたかの如く、すぐ乗りこなすことが出来て、

バイクに跨り、 僕は依頼の場所に向かった。


 さて依頼の場所まで僕がバイクで向かう途中、他の冒険者の姿を見た。

パーティーを組んで、親しそうに話している人を見ると、


(これまでいたパーティーは、どこも最初は、あんな感じなんだよな)


と懐かしさを覚えつつ、依頼人のいる村に向かった。


 この手の依頼の依頼人は、大体、村の村長さんで今回もそうだった。

村の近くでバイクを降りて、ひっこめた後、歩きで村に行き、

村長さんと会って、依頼内容の確認をする。

依頼書にも書いてあったけど、魔獣の巣は森のかなり深い場所ある。

打ち合わせの正確な位置と自分の武装を確認し、

僕は、歩きで森の奥にある巣を目指した。


 ここで少し話を戻して、

依頼の地に行こうとして冒険者ギルドの建物を出た時のこと、

冒険者と思われる人物と、すれ違った。

その人は白い鎧を身にまとっていたが、


(女の人かな、しかしずいぶん厳つい鎧だな)


僕の鎧も厳つい気がするから他人事言えないけど。


 少し気に合ったけど、依頼の方が優先なので、

特に何もしなかった。

この冒険者こそが、後に「白の魔王」と呼ばれるようになるのだった。

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