第12話「勇者と呼ばれるからには」
ガエルさんは連行される際も、
「何で、アイツが勇者なんだよ。国に選ばれてるわけでもないに……」
とうわ言を言っていたので、ますます哀れに感じた。
なお連行していく衛兵から
「ご協力ありがとうございました」
と言われたけど、
「奴は俺を狙っていた。それに応対しただけ、礼には及ばない」
と答えておいた。
衛兵たちがガエルさんを連れて去って行った後、
僕も帰ろうとすると、
「黒の勇者……」
「白の魔王……」
彼女は、去ったと見せかけた近くで状況を見ていたようだった。
「大変だったわね」
「そうでもない……大変だったのはライトだ」
と言いつつ、
「礼を言ってなかったな。ライトの事をありがとう……」
黒の勇者としての礼を言っていなかったので、改めて、お礼を言った。
「礼ならルリに言って、彼女の頼みで出来たんだから」
「ルリちゃんか……」
僕はルリちゃんとソフィーさんの関係に、思うところがあったのだが、
本人を前にしているが、聞きづらかった。
もし違っていたら、こっちの正体露見の恐れがあるからだ。
そして彼女は僕に、
「お互い、有名になると、それだけで妬みや恨みも買いやすいし、
その矛先が従者に向けられることも多い。
お互い従者なしではやってけない身の上だからね」
とどこか自嘲ぎみに言い、
「だから、これからもライト君に気を付けてね。
彼がまた狙われてもおかしくないのだから」
「ああ、分かってる」
と答える。
そう言う事が起きるだろう事は、
黒の勇者として有名になるにつれ、分かっている事だった。
実際にアベルさんの一件といい、今回の事もある。
しかしアベルさんといい、ガエルさんといい、襲ってきたのが知り合いと言うのが、
何とも言えなかった。
そして、ソフィーさんは、
「とにかく彼の事を頼むわね。もし何かあったら、その……
ルリが悲しむから……」
と念押する。
「そっちこそ、ルリちゃんを頼む。狙われてもおかしくないのは、
彼女もいっしょなのだからな」
「もちろんよ……」
そう彼女は言い、去っていった。
僕も黒の勇者の姿のまま、家に戻り、そこで鎧を脱いだが、
ガエルさんの事もあって、何とも言えない気分だった。
翌日、冒険者ギルドにて仕事を探しているとエイラさんから、
「話は聞いたわ。大変だったわね」
昨日の一件がエイラさんにも伝わっていたようである。
「ええ、ソフィーさんと主人のお陰で助かりました」
「それにしてもガエルさん、皮肉なものね。勇者を目指した人が、
今や犯罪者だもの。まあ、彼に限った事じゃないけどね」
後に聞いた話だけど、勇者になれなかった人間には、
その後、犯罪者に身を落とす人も多いらしい。
そういう人たちは、プライドが異常に高く、
少々腕が立つものの、それを過信しすぎる傾向にあると言う。
結果、選考会やガエルさん達に用に、それ以前の段階で、
現実を知って、その高いプライドをズタズタにされた結果。
自暴自棄になり、犯罪へと走ると言う。
勇者とは本来、人を守るべき存在。それを目指していた人が、
人々の脅威となるエイラさんの言う通り、皮肉な事だ。
目指していた人が犯罪者にと言う話は初めてだが、
「勇者くずれが、人々の脅威になると言うのは有名ですけどね」
勇者だった人間が道を外し、勇者をやめさせられた上に、
人々の脅威となる。
「そう言えばアイアディクス王国の言い伝えに、
『勇者が、自分勝手に仲間を追放すると、悪い事が起きる』って
言うのがあるわね」
その仲間が問題を起こしたと言うならともかく、
身勝手な理由に仲間を追放するようになると、
それは、傲慢の証であり、やがてその傲慢さが、脅威へと変わっていく。
「最近では元勇者ユリアーナの悪行が有名ね。
これも今回の件と、同じところがあるわ。
そもそも勇者の人間的な質が下がってきているのよね」
と言った後、苛立ってるように、
「そもそも国が勇者を認定するようになって
勇者と言うのが地位の様になってしまったから、
その地位に群がるろくでなし増えることになったのよ」
ガエルさんの言葉が頭によみがえる。
(地位や名誉の為に勇者になるか……)
この国で、勇者の該当者なしが続いているのも、
彼女の言うろくでなしが多いからだろう。
「もちろん、無償の奉仕じゃなく活躍に見合っただけの、
報酬は必要だとは思うけど、今は過剰すぎるのよね」
と悲し気に言うエイラさん。
そしてエイラさんは、更に熱い口調で
「そもそも勇者とは、勇敢なる者の事、
隣国の『剣の勇者』とて、今でこそ国が認定しているけど、
初代勇者は、元は一介の冒険者と聞くわ。
冒険者として人々を助けるうちに、勇者と呼ばれるようになったの」
と言った後、僕の方をじっと見て
「ガエルさんが、取り調べで貴方の主人の事を、
えせ勇者だって言ってるみたいだけど
私には黒の勇者様こそが、勇者本来のあるべき形だと思うわ」
その言葉に恥ずかしくなって
「そうですか……」
答えると、更にエイラさんは続ける。
「私は、黒の勇者様に、選考会に出てほしかったわ。
地位が存在するのは仕方ないにせよ。勇者としてふさわしい人とは、
そもそも勇者とは何かを知らしめてほしかったのよ」
「はぁ……」
「まぁ、本人にその気がないんじゃ、仕方ないんだけど、
それにもう間に合わないしね」
と言って残念そうにするのだった。
するとここで、職員がやって来て、
「エイラさん、もうその辺にしておいた方が、それと書類もたまってますし」
「ごめんなさいね」
その職員は、
「全く、昔から勇者の事になると熱くなるんですから」
と愚痴を言う。
その後、エイラさんは、
「ごめんね、仕事探し中に長話しちゃって」
「いえ、別にいいんですよ」
「本当、ごめんね」
そう言って、やって来た職員と共に、エイラさんは去って行った。
エイラさんと入れ替わりにやって来たのはルリちゃんだった。
彼女もソフィーさんの仕事を探しに来たようだった
まだお礼を言えてなかったので、
「昨日はありがとう。ソフィーを呼んでくれて」
そう言うと、ルリちゃんは、
「どういたしまして」
と答え、続けて、
「ライト君も無事でよかった」
と言う。
その後は、お互いに仕事を探す。
時期的なものもあって、不人気な仕事は、
魔獣の多い場所での薬草等の採集が多かった。
ルリちゃんの所も方針が同じなので、僕らはどちらも、採集の依頼だったが、
依頼を選んでいるときに、
「そういや、エイラさんと勇者について話していたんだけど、
ソフィーさんも魔王って呼ばれてるけど、
実質、勇者だよね。僕の主人と似たような仕事をしているし
もし、僕の主人がいなかったら白の魔王じゃなくて、白の勇者だったのかも」
と僕が言うと
「分からないよ。あの鎧だからね。よく幼い子供には泣かれるし、
あの見た目で勇者はないと思う」
と言って目を逸らした。その姿に思わず
「いや……その……ごめん……」
と思わず謝ってしまう。
「大丈夫、気にしないで、魔王って呼ばれてるけど、
忌み嫌われてはいないから……まぁ子供には泣かれるけど……」
そう言うルリちゃんに
「やっぱり、なんかごめん」
と謝るのだった。
そして、ルリちゃんは
「それに勇者って呼ばれると、重責なのが背負わされちゃって、
正直辛いと思うから、むしろ今の方がいいと思う」
と言った後、ハッとなった顔した後、
「そう、ご主人様が言ってたよ」
と付け加えた。
重責と聞いて、僕はあまり気にしてないけど、
確かに、勇者の称号は重いものだし、人によっては耐えられないものかもしれない。
でも、ガエルさんはこだわってはいたけど、
勇者の持つ責任感と言うのは持ち合わせていなかった。その称号を軽んじていた。
(僕も同じようなものか)
僕は気にしてなかっただけだけど、
その責任感と持っていない点ではガエルさんと同じという事になる。
選定会の結果、今年も該当者なしと言う話を聞いたのは、
その数日後だった。街で買い物をしていると、街の人からまたも、
「残念だねぇ、黒の勇者様か出ていれば、
間違いなく本当の勇者になれただろうに」
と声を言われたので、
「主人にはその気がないので」
と答え続けた
そう僕にその気はない。
あの鎧を着て勇者になろうなどおこがましいし、
本当は呼ばれること自体もいいとは思わない。
ただ勇者と呼ばれるからには、それに恥じないようにしたい。
そう僕は、あくまで従者。鎧を着ている時は勇者と呼ばれる冒険者。
これまでは気にしてこなかったけど、鎧を着て、冒険者として活躍するときは、
出来るだけ、その名に恥じない様にしようと、
ガエルさんとの一件を通してそんな事を思ったのだった。
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