第11話「勇者になれなかった者たちの破滅」

 数日後、買い物をしているエステラ。

彼女は、ライトの都合もあって、まだ手配されていなかったが、

突然、男の衛兵から呼び止められた。


「お前エステラだな。少し話が聞きたい。衛兵所にきてもらえるか。

もちろん任意だがな」


任意聴取の対象にされていた。そしてエステラは、


「どうしてですか?」

「お前の仲間のカートの事で、話が聞きたい」


ライトが衛兵所に訴えていれば、カートが手配されていることは分かっていたから、


「最近、急に居なくなって……」


と誤魔化すが、一緒にいる女性の衛兵から、


「貴女、魔法使いですよね?召喚魔法も使えるんじゃありませんか?」


と言われ、


「いえ、それは……」


召喚魔法が使える事はライトを含め何人かに話した事があるから、

嘘をついてもバレる気がしたが、それ以前に自分が疑われていることを察した。


「カートが何をしたんです?」


衛兵は


「暴行及び、許可なく上級魔獣を居住地に呼び込んだ罪です」


魔獣を操る魔獣使いが、移動や荷物運びなど、きちんとした理由があれば、

上級魔獣を街に呼び込むことは、許可されることはある。


「しかし彼は明らかに、一般人への攻撃目的で魔獣を召喚している。

明確な違法行為だ」


と男の衛兵が言った後、


「貴方には、その手伝いをした疑いが掛かっています」


と女性の衛兵が言い、続けて、


「魔法残滓と貴女の魔力を照合し、疑いを晴らしませんか?」


魔法残滓と魔力と照合する事で、誰が使用したか分かる。

ただし照合できるかは、魔法による。


 なお、彼女の使った魔法は普段なら残滓は残らないが、

今回の様に上級魔獣を召喚したとなると、残る場合がある。

加えて、照合できる可能性もある。

つまり、彼女が召喚魔法を使用した事が証明される。


「任意ですよね?」


確かに断る事も出来る。すると女性の衛兵は。


「疑いを晴らす機会を断るという事は、何かあるんですか?」


そんな事を言われ、焦った彼女は、


「急いでるんで!」


と言って大慌てで逃げ出した。なお転移用のアイテムは高価なので、

この時は持っていなかった。


「待ちなさい!」


と追いかけられ、


「ファイヤーシュート!」


と衛兵に攻撃してしまった。


「クッ!」


男性の衛兵の命中し、大した怪我ではないものの。女性の衛兵は、


「公務執行妨害ですね。確保します」


と剣を抜き、エステラを追いかけた。


「ひぃ!」


と声を上げ逃げ惑うエステラ。しかし、すぐに追いつかれ斬られた。


「ギャアアアアアアアアアアアア!」


全身に、電撃が走り倒れるエステラ。

衛兵が使った剣はスタンブレードと言って、特殊な魔法が付与されていて、

発動させると刃に雷を宿すものの、切れ味を失う。

生かして確保するための武器である。意識を失ったエステラは、

そのまま拘束され、 連行された。



 その日の晩、アジトにて、


「エステラの奴、遅いな。ちょっと見て来る」


とガエルが出ていく。カートは手配されてるかもしれないので、

一人留守番だったが、しばらくして、バタバタと言う音がして、

衛兵が数人入って来た。


「えっ!」


やって来た衛兵は、


「カートだな?暴行及び窃盗の罪で逮捕する!」



とカートの腕を掴み、取り押さえた。


「何をしやがる!離せ!!」


抵抗するが、複数の衛兵に取り囲まれ、拘束されるカート。

あと衛兵たちは転移防止の結界を張っているので、転移で逃げられない。



 なおすでにエステラが捕まり、追及で洗いざらい話してしまい。

カートへの罪が変更されている。


「あとガエルはどこだ?」

「エステラを探して、出かけたよ!どこ行ったかは知らねえ!」


すると衛兵は、


「じゃ近くにいるな。探せ!」


と衛兵の何人かが外に出ていく。だが、ガエルは捕まる事はなかった。


 実はこの少し前、


(危なかった……)


エステラを探しに出たガエルは、衛兵たち自分のアジトに向かって行くのを見た。

そう入れ違いになる事で助かったのだ。だが、もうアジトには戻れない。

それに衛兵がアジトに来て、エステラが戻ってこないところから、

彼女が捕まり、すべて話してしまった事は容易に想像がついた。


(もうおしまいだ)


自分も手配されてるだろう。自業自得とはいえ、途方に暮れるガエルだった。


(これも、すべてあのえせ勇者の所為だ)


と黒の勇者への恨みを募らせていき、

自分はお終いだが、最後に黒の勇者には一泡吹かせたいと思うのだった。









 あの後、衛兵所に行ってカートさんの事を通報した。記録した映像をもってだ。

ただし、映像は魔獣の口が迫るところまで、

それ以上は僕が黒の勇者とバレるので見せず。


「すいません。この後は気絶してしまったもので」


衛兵に説明する際に、自分が見聞きしたものを記録するマジックアイテムと

説明したので、気絶すれば記録はされなくなるのは、知られているから、

それ以上、記録がないのは納得してくれた。


「気が付くと館に戻ってきていまして、どうも主人が助けてくれたみたいで」


すると衛兵が、


「黒の勇者様が……」


と言って納得したので、何とも言えない微妙な気分になった。


 とにかく僕が証拠付きで被害届を出したことで、

まずはカートさんが手配されることになった。また記録に魔法陣が映っていたから、

レッドドラゴンは召喚魔法で出現したことも明白になり、

直前の状況から、カートさんが疑われ、

仲間であり魔法使いであるエステラさんが疑いが向き、

その後は公務執行妨害で彼女が捕まって、

彼女の口から、これまでの窃盗を含めた全容が明かされたらしい。

そして、カートさんも捕まり、ガエルさんも手配された。


 さて僕が、ここまでの状況は何故詳しく知っているかと言うと、

別にフェリシアさんに聞いたわけじゃなく、

衛兵から聞いたのである。僕が被害者であると言う事もあるが、


「逃げているガエルは、黒の勇者様を逆恨みして、

襲ってくる可能性がありますので、

気を付けるようにお伝えください。もちろん君も」


と黒の勇者に危機を伝えに来たついでに話してくれたと言う感じだった。

なお僕を襲った動機も、黒の勇者に一泡吹かせるためだとか、

かつてアベルさんがやった事と同じだ、

黒の勇者は、凄腕の冒険者と言う評価の反面、

僕なしでが普段生活は何もできないと言う陰口もある。

アベルさんの時は、人質だったけど、今度は僕を殺して、

黒の勇者に打撃を与えるつもりだったんだろう。僕自身が、黒の勇者とも知らずに。


 その後は、特に何もなく日々は過ぎていく。

ガエルさんが捕まったという話は聞かないから、

警戒はしていたけど、それでも緩むときはあるわけで。

その日依頼の帰りに、ルリちゃんと会った。


「ライト君……仕事の帰り?」

「うん」

「黒の勇者様は?」

「先に帰ったよ。後の処理は僕の仕事だから」

「じゃあ、私と一緒だ」

「そうだね」


その後も、他愛もない会話をしながら歩いていたんだけど、

突然、後ろから襲われ路地裏に引き込まれた。


「ライト君!」


僕を心配して、ルリちゃんは追って来たから、


「来ちゃダメ!」


と声を上げたかったけど、手で口を塞がれ、声をだえなかった。


 そして僕を引き込んだのは、


「久しぶりだな、ライト」

「ガエルさん……」


ガエルさんは、昔はもっと紳士的な気がしたが、

今は、雰囲気が変わっていて、なんだか粗暴な感じがする。

フェリシアさんの言っていた。転落で人が変わったか、

あるいは彼女が言っていたように、僕の前では、猫を被っていただけなのか。


 彼が口から手を離したので


「何のつもりですか」


彼は、僕の首にナイフを突きつける。


「別にお前に恨みはない。いろいろと世話になったしな、

まあ衛兵に通報したとしても、あれだけの事をしたんだから、

仕方ない事さ」


と言いつつ、


「でも勇者の名を騙る、てめぇの主人は許せない」

「別に、勇者の名をかたってるんじゃ」

「うるさい!」


と怒号を上げる。


「ライト君を放して!じゃないと大声を上げますよ!」


とルリちゃんは言うが、


「いいよ!だがそうしたら、ライトの首を切るからな」


と脅す。


「くっ……」


何もできず立ち尽くすルリちゃんに、


「女、黒の勇者を呼んで来い!」

「えっ……」


思わず僕は声を上げてしまう。そんな事はお構いなしに、


「家は知ってるだろ?有名人だからな」

「呼んで来たら、助けてくれるの?」

「ああ、目的は黒の勇者だ。だが、コイツは人質さ」

「分かったわ。必ず連れてくるから……」

「早くしろよ」


そう言って彼女は走り出した。


(まずい、連れてこれる訳が無い。僕はここに居るんだから)


 僕は迷った。ここで鎧の力を使えば、助かるけど、

ガエルさんに正体を知られる。そこから他に漏れるのは間違いない。

それだけは避けたかった。ただ不幸中の幸いと言っていいのか、

この程度じゃ鎧は自動装着しないらしい。


 僕は、この状況下だけどガエルさんに聞いた。


「何で、勇者を目指した貴方が何でこんな事をしてるんですか?

人々を助けるのが勇者と言うものでしょ」


ガエルさんは鼻で笑い、


「きれいごとだ。みんな地位や名誉の為に勇者になるんだよ。

その為に、これまで頑張って来たんだ。

なのにお前の主人はなんだ。国に認定されてないのに、

勇者、勇者って持て囃されて……」


そんな彼に僕は


「勇者になりたいわけじゃない。

ただ、他の冒険者がやらない事をやらない事をやって来ただけだよ

そしたらいつの間にか勇者って呼ばれるようになった」


そして今では、僕が考えた偽名さえ呼ばれなくなった。


「地位や名誉?そんなもの勇者にならなくたって、手に入るよ。

例えばS級冒険者とかね。本来勇者ってのは、そう言うんじゃないと思うよ」


地位や名誉ってのをある意味、超越したものじゃないか。

僕は、そんな事を思っていた。


「国が選ぶ勇者なんて、しょせん形骸化したものだよ

空っぽさ、そんなものに、ガエルさんはなりたいの!」

「うるせぇ!」


とガエルさんは激昂して叫ぶ。


「僕は、勇者になるはずだった!選考会に出れば、勇者になれたはずなんだ!

何でうまく行かなんだよ!」


と言った後、


「悪いな、勇者じゃないに勇者ともてはやされてる主人を恨め」


僕はこの時、まずいと思った。

約束を破ってガエルさんは僕を殺す気だと察した。


 だが次の瞬間、その人は現れ、手をかざすと


「ギャア!」


と言う悲鳴を上げ、ガエルさんの力が抜けた。

好機と持った僕は、肘内で食らわせ、更に怯ませて、脱出し、

彼から離れる。


「ありがとうございます。助かりました。ソフィーさん」


現れたのは白の魔王ことソフィーさんだった。


「大丈夫?魔法の調整が難しいから、貴方に危害があるかもと思ったんだけど」


手をかざした時に一瞬だけ見えた魔法陣から雷の魔法である事は分かったから、

雷魔法を調整して、ガエルさんだけにダメージを与えたみたいだった。

同じような事は僕の鎧でもできるけど、彼女の言う通り、

これが結構調整が難しく、上手くやらないと、

対象外の人間にもダメージを与えてしまう。


 しかし僕には全くダメージはなく、彼女は上手くやったという事で


「大丈夫ですよ」


と僕は答える。ここで持ち直したと思われるガエルさんが、


「どうして、白の魔王が……」

「ルリから助けを求められたからよ」


ここで僕は、


「ルリちゃんはソフィーさん、白の魔王さんの従者なんですよ」

「何だと……!」


と驚いていた。どうもルリちゃんの事までは知らなかったようだった。


 そして、


「ここは、私に任せて逃げなさい」

「はい」



僕は一旦、離れる。


「待て!」


とガエルさんの声が聞こえたけど、


「貴方の相手は私よ」


とソフィーさんが立ちふさがったようだった。


 だけど僕は逃げるつもりはなかった。いったん物陰に隠れ、

鎧装着した。そして現場へ戻った。

そこでは、ガエルさんをソフィーさんに取り押さえられようとしていたが、


「待て、後は俺に任せてほしい」

「……わかったわ」


彼女は、ガエルさんを解放し、去って行った。


解放されたガエルさんは、


「ようやく会えたなぁ!えせ勇者!」


と言いながら、僕に向かってきた。


「よくも俺たちの、邪魔をしやがって!」


と声を上げながら剣を振り下ろす、僕はそれを自分の剣で応戦する。


「くそっ!くそっ!くそっ!えせ勇者がぁ!」


と叫びながらも、ひたすら打ち付けて来る剣戟を、

受け止めつつづけた。


 この鎧の力で、一気に倒す事も出来なくもないけど、

それをする気には、なれなかった。

勇者に妙にこだわるガエルさんに、何だが憐みのようなものを感じたから。


 その後も「えせ勇者」と連呼しながら、切りかかってくるガエルさん。

こっちは無言で、応対してたけど途中、


「勇者を名乗るんじゃね」


とも言われたので


「勇者を名乗った覚えは無い」


とだけ答えた。


 そしてしばらくすると、彼は体力切れなのか息が上がり始め、

動きが鈍くなっていくが、そこを突くこともなく、

剣戟を的確に防御していき、遂には彼は手から武器を落とし、

地面に膝をついた。


「はあ、はあ、はあ、何でだ?なんでなんだぁ!」


と声を上げる。ちょうどその時、騒ぎを聞きつけたのか、

あるいは白の魔王さんが呼んだのかは分からないけど、

衛兵たちがやって来て、手配中のガエルさんを拘束し、連れて行った。

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