第10話「ドラゴン襲来」
さて、ガエルとカートはアジトに戻ったが、まずはエステラに、
「おいエステラ、お前、黒の勇者に余計な事を言ったらしいな」
とカートはエステラに詰め寄る。
「アイツが惚けた態度をとるから、つい……」
ここでガエルが、
「奴はライトの主人だ」
「えっ!」
そして再びカートが、
「確証はないみたいだが、お前の事が勘づかれたようだ」
「そんな……」
「全く激昂するとお喋りになる癖はどうにかしろよ」
と苦言を言うカートに対し、ガエルは、
「そんな事はどうでもいいよ。今重要なのは、奴の従者がライトだと言う事だ」
なおガエルたちは、黒の勇者が普段生活では、
従者に頼りきりと言う話を聞いている。
そこでガエルは、
「昔の事で謝罪がしたとと言って、おびき寄せれば……クク……」
するとカートは、
「まさか、アイツを人質にする気か?」
「悪いかな?」
そのつもりのようだったが、
「やめとけ、前にアベルって冒険者とその仲間、
俺たち以降にライトと組んでいた奴らで、同じように追放した奴らだが」
「そいつらがどうかしたのか?」
「ライトを人質に黒の勇者を言いなりにしようとしたんだが、
短時間で奪還された上に、お縄になったらしいんだ」
「そいつらがヘボなだけじゃないか」
「そうかもしれないが、状況が不可解でな。
その場所は『通信』とかで連絡は取れないし、連絡が取れたとしても
ライトは『周辺把握』は持ってないから、場所の把握もできない」
どうやって監禁場所を特定したのかが不可解だというのだ。
なおこの話は、カートの知り合いから聞いたもので、
そいつは軽微な罪で、一時的に留置場に入りその際に、
同じ場所にいたアベルが言っていた愚痴を聞いたとの事。
「とにかく、人質にしたとしてする奪還される可能性がある」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「さあな。俺はいい案が浮かばない」
とカートは突き放すように言う。
本音を言えば、とにかく黒の勇者との戦いは避けないのだ。
「チッ」
と舌打ちしつつも、直ぐに、
「そうだ。僕に良い考えがある」
と自信満々に言うガエルであった。
しかし、それを聞いたカートやエステラは、顔を青くした。
「いくら何でも、それは」
「さすがにやり過ぎじゃ」
だがガエルは、
「これは、黒の勇者を潰すだけじゃない。
口封じも兼ねてだ。ライトには生きていてもらっちゃ困る」
「でも……」
「さすがに人殺しは……」
と渋る二人であったが、
「何をいまさら、僕たちのしている事は、何時死人が出てもおかしくない。
事なんだぞ。その事を覚悟のうえではじめたんだろうが」
そう言われても、間接的ならまだしも、直接人殺しをするとなると、
どうしても気が引けてしまうが、
ただこれまでの悪行がばれると困るので、結局はガエルの意見に従うのだった。
さて、僕はいつも通り冒険者ギルドへ行って依頼を探していた。
最近は採取系の依頼が多い。まあ収穫時期の事と、先の薬草と同じく、
金にならず受けたがる人が少ないからか、掲示板にいつも残っている。
人が受けない仕事でも、率先してやる。それが僕の方針だ。
あの鎧に頼っている罪悪感を少しでも和らげるためだ。
採取系の依頼をいくつか受注し、
(明日から忙しくなるな)
と思いながら、今日は家に帰る途中、
「よう、ライト」
「カートさん……」
思った通りと言うか、またカートさんと会った。
「実はなあ、ガエルとエステラも来ていてな。二人ともお前に謝りたいんだと」
「お二人が……」
「こっちに来てくれるか」
今更、謝ってもらわなくてもいいんだけど。
ただ、僕は何かありそうな気がして、付いていくことにした。
今回は、鎧の力で映像を記録する為に、手甲に触れスキルを発動させる。
映像記録のスキルは、一度鎧を着れば、着ていなくとも発動し、
僕の見聞きしたものが記録される。
そして黙って、付いていくと、街はずれの人気のない広場に来た。
「悪いな……」
とカートさんは言ったかと思うと、いきなり腹に一撃食わらせてきた。
警戒はしていたけど、カートさんは動きが素早いので避けれなくて、
もろに喰らう羽目になった。
「グフゥ……ゲホォ……ゴホッ!」
殴られた勢いで地面に倒れてしまう。その時、逃げていくカートさんを見た。
そして大きな魔法陣が浮かび上がったかと思うと、物凄い音と突風が吹き、
砂埃が舞った。
「これは……一体……」
僕はどうにか立ち上がるが、体が思うように動かないし、
砂ぼこりで回りの状況も分からない。
「!」
気づくと目の前に魔獣の口があった。
逃げていたカートは、振り返ってみた。
「レッドドラゴンの召還はうまく行ったな」
それはドラゴン種の上級魔獣である。これまで召喚してきた魔獣の中でも、
強力な奴だった。盗みを働いてきた時の様に、魔獣を利用して、
ライトの殺害を試みたのだ。もちろんテイムはしていないから、賭けであるが。
「ライト相手に大げさだよな」
なお魔獣は、ガエルが選んでいるので、彼の匙加減としか言いようがない。
そして砂ぼこりで、ハッキリとは見えないが、
どうもライトは食われたようだった。
(悪いな、恨むなら俺たちの邪魔をした主人を恨めよ)
そんな事を思った。
だが次の瞬間、
「キシャァァァァァァァ!」
と言うドラゴンの咆哮と共に、血が辺りに飛び散った。
「なんだ!」
その量は、人間の量にしては多すぎる。
やがて砂埃が晴れると、
「なっ!」
そこには、口が切り裂れ、血まみれになったレッドドラゴンと、
剣を手にした黒の勇者の姿があった。
まさかレッドドラゴンが出て来るとは、正直ヒヤッとした。
本気で危ない状態になると、鎧は自動的に着用されるらしい。
(前にダンジョンに置き去りにされた時は、着用されなかったけど
あの時は、その前に助けが来たからかもしれない)
とにかく剣を召喚し装備して、口を切り裂き脱出した。
口を切り裂かれ、吐血しているが上級魔獣だから、まだまだ戦えるようだ。
しかし急がなければいけない。ここは街はずれで人気はないけど、
さっきの音と砂ぼこりで、人が来るかもしれない。
あとカートさんは、逃げてしまったようだが追う余裕はない。
まずは、この魔獣を倒してからだ。
「行くぞ」
武器を異界の「チェーンソー」って奴に似た大剣「チェインモア」を召喚し、
切り替えると僕は駆け出し、魔獣に切りかかる。
「ギィ!」
だが爪で受け止められ、火花が散る。
「クッ!」
僕は、地面を蹴って一旦距離を取り、今度は魔獣の懐に入り横なぎに胴を切りつけた。
「キシャァァァァァァァ!」
悲鳴を上げのけ反るドラゴン、効いているみたいだ。そして傷口に向けて、
「ウォーティ・エクスプロージョン!」
強力な水属性の魔法を使った。そうレッドドラゴンの弱点は水。
傷口に撃ち込むことで、さらに効果は高まる。
結果、咆哮も上げずに苦しそうにするドラゴン。そして僕は、
「サンダスラッシュ!」
雷属性の斬撃で縦に切り裂く。
レッドドラゴンは、雷は別に弱点ではないものの、
水属性の追撃としては、雷属性は効果的なので使った。
この後は爪で攻撃を仕掛けてきて、再び大剣とぶつかる。
すると今度は、火花をあげながら爪が割れ、そのまま指を切り裂いた。
「キシャァァァァァァァ!」
と叫びながら、苦しそうに暴れまわるドラゴン。
(防御スキルは弱くなってる)
上級魔獣は防御スキルに覆われているから、
相当な力が無いと即死させる事は容易じゃない。
スキルの効果が弱い部分を攻撃し、肉体を弱らせ、
スキル自体も弱らせる必要が有る。
ちなみに。この前のレックスドラゴンとかは、
個体によっては、防御スキルが極端に弱い事もあって、
この前の敵が、一撃で倒せたのはその為。
ただ防御スキルが弱くても肉体は強靭な事があるので、
倒せたのは、結局のところ鎧のお陰だったりする。
とにかく防御スキルの弱体化を感じた僕は、
いよいよ、とどめを刺そうと思った。ここで、ドラゴンは強力な炎を吐いてきたが、
僕はそれを避け一気に近づき、 その首を切り裂いた。
「………!」
断末魔の声を上げることなく、大きく口を開いたかと思うと、
そのまま動かなくなった。
騒ぎを聞きつけ、人がやって来たのはこの直後で、
人が来る前に事が終わったことに安堵しつつも、その場を後にする。
なお、近くまで人が来たのは、この時だが、
僕の戦いは遠方からでも見えていたようで、
街にやって来たレッドドラゴンを倒したと言う、
黒の勇者の新たな偉業が増えることになり、僕は心苦しい思いをするのだった。
「失敗しただって!」
アジトにガエルの怒号が飛んだ。なおあの時現場には、
おびき寄せたカートに召喚魔法を使ったエステラもいた。
両者とも召喚と同時に、その場を離れた。
レッドドラゴンはテイムしていないのだから、
巻き添えにならない様にする為である。
その後、二人は別々の方向に逃げつつも、
遠方から状況を見守った。その後、ドラゴンが退治され、
黒の勇者が居なくなった後、カートは念の為、黒の勇者の家に向かい。
家に入って行くライトを見かけ、失敗を悟り、
アジトに戻って、事を報告しガエルの怒号が飛んだわけである
「しかし、どこからやって来たんだ黒の勇者は」
エステラも、
「あの場所には、念の為、転移防止の結界を張っておいたのに」
なおその結界は、張った人間、つまりエステラの召喚魔法は、無効化しない。
「付けられたんじゃないのか?」
と言ってガエルはカートを睨む。
「いや、付けられてはいないぞ!」
と声を上げるが、
「じゃあどうして助けに来れたんだ?」
なお魔獣召喚のタイミングもあるので、
通信の無効化はしていないが、それでも転移は出来ないはずだから、
ライトが助けを呼んだところで、直ぐに来ることはできない。
ガエルの言う通りつけられていたとしか考えられないが、
カートも警戒はしていたし、自信もある。
「おなじだ、アベルって奴の時と」
それに、カートはちゃんとは見ていないが、
たしかに、ライトは食われていたように思えたのだ。
口を切り裂いて助けたとも考えられるが、登場のタイミングが良すぎた。
あと、救助されたはずのライトの姿もなかった。
速やかに逃げたと言えばそれまでだが、
カートは情報を集める過程で気づいたことがあった。
(そういや、ライトと黒の勇者が一緒にいた事はないな)
主人と従者と言う関係ながら、
二人が一緒にいたと言う話は、一度も聞かなかった。
「まさか……」
カートの仲である考えが浮かび、思わず声を上げる。
「どうした?」
と聞くガエル。
「俺も信じられないけど黒の勇者とライトが、同一人物じゃないよな」
するとガエルは笑い出し
「そんな訳ないだろ。家事だけのアイツが……」
「おかしな冗談、言わないでよね」
とエステラも笑う。
「そうだよな。忘れてくれ」
と自嘲気味に笑うカートだが、実はそれが正しい事を三人は知らなかった。
ただ問題なのは、
「しかしどうする?ライトには顔は見られているし」
エステラも、
「多分魔法陣も見られたと思うから」
これまでとは違い強力な魔獣だったので、魔法陣がくっきりと浮かんだのだ。
ガエルは、
「カートは、ほとぼりが冷めるまで身を隠しておいた方がいいな」
との事だが、ただ人数が足りないのと、顔を隠して行う事もあって、
盗みの時は、いつも通りという事で。
「ライトは、僕の方でどうにかする」
「わかった……」
と言い頷くカート。しかし三人の破滅は近かった。
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