第8話「情報屋」

 冒険者ギルドに向かった僕は、ダメもとで、エイラさんに尋ねてみた。


「あの、僕と組んでいたガエルさん達の事、分かりますか?」


するとエイラさんは、


「どうしてそんな事を聞くの?」

「いえ、ちょっと気になって……」


と言うも、


「何かあったのね……」


この時、変に誤魔化せない気がしたので、


「僕じゃなくて、主人の事なんです」

「黒の勇者様が何か」

「実はですね」


ここで依頼中に襲われたことや、その人物が村にワイバーンを召喚した事、

それを倒したことで、恨みを抱いての犯行である事を話して、


「話を聞く限り、エステラさんみたいなんですよ」

「彼女が……」

「直接見たわけじゃないんで、何とも言えないんですが」


実際は直接見たわけだから、間違いないのだけど、

あの場に僕はいなかったのだから、こう言うしかない。

映像に記録しておけばよかったのだが、失念していた。


 話を聞いたエイラさんは、しばらく考え込んだ後、


「そういう事は、ちょっとね。個人情報だから」


と言った。もちろんわかっている。だから、ダメもと。


 でもすぐに小さな声で、


「そういうのは、情報屋にね」

「情報屋?」

「そう、いい人、知ってるから」


エイラさんからその人物の名前と住所を教えてもらった。


 その後、言われた住所に向かった。なお途中でルリちゃんと偶然会って、

一緒に来ていた。


「ここで合ってるのかな」


そこは、小さなボロボロなアパートだった。あまりの酷さにルリちゃんは、


「やめといた方がいと思うよ……」


と言うけど、でもエステラさんの事は気になるし、

それに、大きな声では言えないとはいえ、一応エイラさんの紹介という事もある。


「いや、行くよ。ルリちゃんは帰った方がいいかも……」


と僕は言うも、


「私も行くよ」


と言って結局、彼女も付いて来た。


 言ったら悪いけど、外もボロボロなら中も良くはなかった。

薄暗いし、壁も傷だらけで長い事掃除してないのが、廊下は、所々にゴミがあって、


(今すぐ掃除したい)


そんな衝動に駆られた。


 目的の部屋に来て、呼び鈴を鳴らしたけど返事はない。


「留守なのかな……」


しばらく待ってみるけど、出てくる気配はない。


「帰ろうよ」


とルリちゃんに促されて、帰ろうとすると

そのタイミングで、扉が開き、唸り声が聞こえてきた。


「!」


出てきたのはブロンドでボサっとしたショートカットの女性だった。

ただ問題なのは、彼女は倒れながら出てきた事である。


 僕らは思わず


「「大丈夫?!」」


と声を掛けるけど、彼女は真っ青なやつれた顔で、唸り声を上げ続ける。


「医者に連れてこうか」


僕が言うと、ルリちゃんも


「そうした方がいいかも!」


と同調するけどそんな中、彼女は、


「……お腹すいた……」

「「えっ?」」


彼女から腹の虫の大きな泣き声が聞こえた。


 数分後、僕らはこの時、近くの異界料理の店に入っていた。

異界では「チュウカ」って言う奴で、その中のチャーハンとギョウザって食べ物を、

彼女は貪るように食べていて、一通り食べ終わると。


「いやぁごめんね、奢ってもらっちゃって」

「いえ別にいいんですよ」


ここでルリちゃんは、


「それより大丈夫なんですか」


と僕が言うと、


「ちょうど、金欠で飢えそうだったんだ。食事を食べたから、もう大丈夫だよ」


彼女の顔はすっかり血色を取り戻していた。


 改めて彼女の容貌をみると、明るく元気そうな美女だ。

さっきまで大違いな気がした。

あと食堂に来てから気づいたけど僕と同じ手甲を身に着けていた。


「えっと、フェリシア・オルグレンさんでしたっけ?」

「そうだよ、君たちはライト君とルリちゃんだっけ」

「さすが情報屋ですね」

「いやいや、アタシじゃなくても知ってるよ。

君たちは有名人だからライト君は黒の勇者、ルリちゃんは白の魔王の従者って」


と彼女の言葉に少し恥ずかしくなる。

ルリちゃんも同じで、顔を赤くしていた。


 そんな中、彼女は、


「もしかして情報が欲しいの?だったら奢ってもらった分、タダにするよ」

「それは、さすがに悪いですよ」

「いいって、いいってせめてものお礼だから」

「でも……」


確かに食事は奢ったけど、これとそれとは別な気がしていた。


 でも結局押し切られる形になって、僕はフェリシアさんに

エステラさんの事を尋ねた。


「その前に、情報を話す時はアタシの家でね」


そんな訳で、再び彼女のアパートに向かった。


 フェリシアさんの部屋も、物が散乱していて、外と同じく汚く。


(掃除して綺麗にしたい)


と言う衝動に駆られていたけど、今は抑えて話を聞くことに。

なおさすがは情報屋と言うべきか、

エステラさんが僕の元仲間である事を知っていた。


「エステラの情報は、他のお仲間さん情報と一対だから、

本来なら追加料金だけど、命の恩人だからタダにしちゃう」


と言いつつ、


「どこから聞きたい?」

「僕を置いて行ってからの事を」

「分かったよ」


そう言うとフェリシアさんは話し始めた。


「エステラを含めたガエル一行は、王都の方で冒険者家業を始め、

その腕前から、直ぐにBランクからAランクになった」


王都の方で、高いランクの冒険者に成る事が、必須ではないけど、

勇者選定で有利になるらしい。だから勇者を目指すものは、

王都で冒険者に成る為、この街を出ていく。


 王都でAランクの冒険者になったガエルさん達だけど、


「それが彼らの転落の始まりだった」

「まさか、三日Aランク」


 Aランクなった冒険者が直ぐダメになって、良くて降格、

最悪やめてしまう事を言う。三日と言うけど、実際は三日以上あって、

三日と言うのは、異界由来の元の言葉から来ているらしいけど、

元の言葉は僕はしらない。

とにかくAランクになったと途端に、急に駄目になってしまう事。

多くはAランクになった事で、調子に乗って自分の実力を見誤って、

依頼を受けて失敗続きになってしまう。


「君を追い出した時点、かなり傲慢になっていたから、

既にその傾向だったみたい。Aランクになって拍車がかかって、

結果実力を見誤った」


ガエルさん達も実績を作ろうとして多くの依頼を受けたが、

同じランクの依頼でも、簡単なのと難しいのがあり、

実力を見誤った結果、難しい依頼ばかり受けてしまって、

結果として失敗続きとなった。


 加えて、


「連中は、傲慢な態度で依頼人を含めた周辺の人間に接していたから、

かなり評判が悪くて、その上失敗続きと来て拍車がかかってね」


ガエルさん達の王都での評価は最悪で、勇者選定どころじゃなくなっていった。


「Bランクへの降格が決まってから、王都を出て行って、

その後の消息ははっきりしていないよ。他の町で、まだ冒険者をしているか

、或いはもう辞めてしまったか、それとも盗賊に身をやつしたか」

「!」


その言葉に、僕が反応したので、


「何かあったの?」


とフェリシアさんに言われたけど、


「いや、なんでもないよ」


と誤魔化した。


「じゃあ、勇者選考会が始まって、勇者志望だった元仲間が気になったのかな?」

「ええ、まぁ……」


と曖昧な感じで答えた。


 するとフェリシアさんは、


「アタシも同じ事をしたけどね」


情報屋をしている彼女だけど、元は冒険者で今でも登録している

彼女は、冒険者パーティーで、斥候をしていたらしい。


「アタシ昔から情報収集が得意なのよ。

戦いが不得手でね。結局勇者志望の仲間に捨てらえて、置いて行かれたの」


と彼女は自嘲気味に言った。どうやら彼女も僕らと同じようで、

その後も新しいパーティーに入ったけど幾度か追放され、

今は情報屋をしているらしい。

そしてエイラさんが紹介するくらいだから、その情報は確からしい。


「情報集めて、パーティーに貢献してたんだけどね。

やっぱり戦えなきゃダメって事かな」


そう言って、彼女は寂しげな表情をした。


「フェリシアさん……」

「大丈夫!大丈夫!今の所、情報屋で、どうにかやっていけてるからさ」


そう彼女は笑って見せたけど、僕には彼女が無理しているように見えた。

実際彼女の生活は困窮してるみたいだし。


「まあ、今日みたいに危ないときもあるけどさ」


と言った後、フェリシアさんは、


「実は誘われてるんだよね。凄腕の冒険者に……」

「冒険者?」

「まだまだ新人だけど直ぐにAランクになるよ。

すばしっこくて、紺色の装備をしてるから、『紺の早業師』って呼ばれるかも」


と言いつつ、


「とにかくアタシも近いうちに、アンタ達と同じように、従者になるんだ……」


その口調はどこか自嘲的だった。


 聞きたいことは聞けたので、彼女の家を後にした。


「……結局、彼女の言うようにエステラさんは盗賊に身を堕としたわけか」


他の仲間も同じとみていいのかもしれない。

一緒にいたルリちゃんは


「気にしてるの?」

「まあ、元は仲間だったからね。まあ未練はないけどさ」


と言いつつも、


「アベルさん達の事もあるしね」


するとルリちゃんは、


「みんな自業自得だよ。ライト君を追い出した時点で、

こうなる事が決まってたんだよ。私の仲間たちと同じように」


ルリちゃんの元仲間も、自業自得な悲惨な経過を辿ってるらしい。

大体はアベルさんと同じようにAランクに上がれなかった故だったりするが。


「だから気にしない方がいいよ」


とルリちゃんは言うが、それでも気になる事がある。


 なぜなら、邪魔をした事で、黒の勇者はエステラさん、

いやガエルさん達が狙っている状態。この前の一件で、諦めたとは思えないし、

多分アベルさん達と同じことするような気がした。

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