第7話「予期せぬ再開」
冒険者ギルドに依頼完了書を持って行ったときに、
エイラさんにこの話をしたんだけど、
「最近多いわね。そう言うの」
「そうなんですか?」
現れる魔獣は、弱いものから強いものと様々だが、
魔獣が村や町中に突然現れるというのが多いとの事。
「まあ、ゴブリンとか下級の魔獣なら気づかなうちに、
街中って言うのはない訳じゃないけど、大型の魔獣となるとおかしな話だから、
衛兵たちが調べているの」
僕は、
「やっぱり何者かが、転移で送り込んでるとか」
「だとしたら、相手は大きな存在よ。下級ならともかく、
大型の魔獣を転移させるとなると、上級の魔法使いか、
マジックアイテムなら誰でもできるけど、
かなり高価なアイテムを使う事になるから」
それなりに財力が無いといけない。
「まさか鎧の魔王が、遂にこの国にも攻めて来たんじゃ」
僕は、そんな不安に駆られた。
三大魔王の一人、鎧の魔王。魔王の代名詞で、現在隣国を百年単位で攻めている。
因みにずっと同じ魔王じゃなく、代替わりをしながら戦いは続いている。
「それは無いわね」
エイラさんは否定する。
「どうしてですか?」
「やり口が地味よ。もし鎧の魔王なら、大人数で攻めてくるはずよ」
「確かに……」
これまで、隣国の話だけど鎧の魔王は、大人数でやって来て攻めて来るのが基本。
単身で来るときは、勇者との一騎打ちの時だけ。
そしてエイラさんは、
「私は、暗黒教団を疑うわね。暗黒神が復活したって噂もあって、
奴らの活動も活発だし」
と言う。
このファンタテーラを創造した二柱の神の片割れで、
知恵をもたらした神にして、人類を滅ぼそうとする神。
五百年前に封印されたというが、最近隣国で復活したという噂があった。
ただ国は、未だに復活を認めていない。その暗黒神を崇める教団の一つで、
暗黒神の名の元に、破壊活動を行う過激派が暗黒教団。
エイラさんの言う通り、暗黒教団ならやりかねない事である。
「でも声明は出てませんよね」
「そうなのよね。奴らならすぐに声明文を出しそうなんだけど……」
この場合も疑問が残る。
するとここで、
「あの……転移じゃなくて召喚だったら、どうでしょうか」
「ルリちゃん……」
同じく冒険者ギルドにいたルリちゃんが、そんな事を言い出した。
転移魔法は、こちらからどこかに飛ぶものだが、
召喚魔法は、特定の場所から呼び出す魔法だ。
「召喚魔法なら、そこそこの腕前で使えますし、
マジックアイテムも安価です」
と言った後、
「魔王とか暗黒教団とかじゃなくて、もっと小規模な、
そう盗賊団の仕業じゃないでしょうか」
「どうして、そう思うの?」
「私も、魔獣が突然現れるって話は聞いていて、
私……の主人も現場に出くわすことがって」
「ソフィーさんが?」
「はい……」
ソフィーと言うのは白の魔王の本名。今じゃあまり呼ばれない名前。
出くわすと言っても、ルリちゃんの話では、
ソフィーさんが魔獣依頼を受けて村に行くと、
討伐対象と異なる、しかもその地域では生息していない魔獣が、
村に現れたという。その魔獣は下級で、到着した時には、
村人たちの手で倒された後だったが、
「その際に、火事場泥棒が出たと」
「僕の時も同じだ……」
エイラさんは、
「こういう時の火事場泥棒って珍しい事はないわよ」
突然魔獣が、現れるのは珍しいけど、
普通に、乗り込んでくることは珍しくないので、
その際に火事場泥棒が出るのは、よくある事。
しかしルリちゃんは、
「その火事場泥棒が意図的に行われたとすれば」
エイラさんは、
「それじゃ、盗みを働くために魔獣を」
僕はふと思い立って、
「もしかすると、魔獣使いが……」
と僕が言うと、エイラさんが
「その線は既に調べてあるみたい。
魔獣をテイムする魔法やスキルの痕跡はなかったわ」
「じゃあ、テイムしていない魔獣を召喚してるって事かな」
魔獣の召喚は、別にテイムをしている必要はない。
「聞いたことがあるんです。魔獣を呼び出して、混乱を狙って、
盗みを働く奴らの事を」
するとエイラさんが、
「その話は聞いたことはあるわ。
その末路は、呼び出した魔獣に襲われて、全滅したのよね」
テイムしてないが故に、こういう事も起きるわけで、
何人か生き残りはいたらしいけど、
みんな、酷い障害を負ったという。まあ自業自得だ。
「魔獣をテイムできないのに、何でこんな事を」
と僕は思ったけど、
「まあ、そういう事を考える輩がいるのよ。連携の必要はない。
ただ暴れてくれればいいって感じね。魔獣も使い捨てだし……」
とエイラさんは言い
「じゃあ今回の件も、同じって事かしら……」
と呟くも、それを証明する手立てはない。
魔法によっては、魔法陣が分かりにくいものもある上、
「転移や召喚魔法は、魔法残滓も残りにくいし」
魔法残滓とは、魔法を使った際の痕跡の事。
魔法によっては残らないものもある。
言うまでもないけど、残滓の確認はできてなくて、
とにかく現時点では魔獣の転移も召喚も確認できていない。
「まあ、いずれにしても調べるのは衛兵の仕事ね」
と言って、この話は終わった。
それから数日後、僕は、黒の勇者として薬草採取の依頼をこなしていた。
冒険者が薬草採集と言うのはどういう事かと言うと、
薬草の生息地によっては山奥だったりして、
一般人には採りに行けない場所があって、
そういう場合は冒険者のような手練れじゃないと難しい事がある。
そして今回は、そんなに山奥ではないのだが、
魔獣が生息している危険な場所だった。
因みに薬草採集は、魔獣と戦うか分からないという事もあってか、
ランクアップにつながらないので、やりたがる冒険者は少ない。
特にA級の冒険者がやることはあまりないので、
僕が黒の勇者として引き受けた時は依頼人から、かなり感謝された。
なお、人がやりたがらない仕事だから、引き受けたようなものだけど。
案の定、薬草の自生地には魔獣がいた。
それは、ディノスドラゴン。地上型のドラゴン、ディドラゴンの一種。
異界の「キョウリュウ」って奴に似てるらしい。
こいつらが大勢いて自生地に入ると、そこが縄張りだからか、
襲い掛かって来た。
「……!」
こっちは、双剣を召喚し片っ端から切り裂いていく。
「ギィイイイ」
「キシャァア」
「グォオオオン」
悲鳴を上げる魔獣たち、僕は双剣を振るい次々に倒していく。
ある程度倒すと、魔獣たちは逃げていく。ディノスドラゴンは、頭が良くて、
危ないと感じると逃げていくことがある。討伐依頼なら、後を追うのだが、
今回は薬草の収集なので、逃げていった隙に薬草を集める。
「これくらいかな」
薬草を集め終えるとあとはもう帰ればいい。そう思っていたが、
「……ん?」
何か気配を感じた。その次の瞬間、弓が飛んで来た。
「!」
その弓は魔法を付与していたが
鎧は丈夫だから、矢は貫くどころか弾かれる。
「誰だ!?」
僕は叫ぶも答えないが、
「チッ」
舌打ちが聞こえた。声からすると女性っぽいが、
(この声は……)
どこかで聞いた事のある声だった。
今度は矢が数本同時に来る。再度双剣を召喚、装備して払い落とす。
(これは、レインアロー)
弓を使った魔法だ。魔力で矢を生成する打ち出すやり方の他、
複数の矢にルーンを書いておき、矢を一本構えると、
魔法が発動し、他の矢が宙に浮かび、放つと浮かんだ矢も飛んでいくというもので、
一人で複数の矢を同時に放てる魔法だ。
(まさか……)
僕は、さっきの声の主を思い出した。彼女がレインアローを使えたからだ。
その後も矢は飛んできたが、双剣で振り払いながら、
飛んできた方へと向かって行く。やがて、その先に人影が見えてきた。
「………」
そこには、弓矢を構え、フード付きのローブを着た人物がいた。
フードを深々と被っているから、顔は分からない。
彼女が撃って来る弓を避けつつ、時に双剣で弾きながら、
彼女に近づきフードを取ろうと試みる。
その素顔を知るためだ。だが、その人物は僕が近づくのを嫌がるように距離を取る。
そのせいで、中々近づけない。
しかし、何度か接近すると相手も焦ったのか、足を滑らせ
尻もちを付いた。その際にフードが取れた。
その女性は、赤毛のセミショートカットの女性で、
昔はもっと凛とした顔立ちだが、今は随分やつれている様に見える。
(エステラさん……)
嘗ての僕の仲間、鎧姿だから向こうは僕に気づいていないだろうが。
とにかく僕は彼女の姿を見て愕然とした。彼女は僕を見上げながら、弓を構えた。
「黒の勇者、良くも邪魔してくれたわね!」
「邪魔?」
全然身に覚えが無い。
「とぼけるな!あの村の事よ……」
彼女は、ワイバーンが出現した村の名を言った。
(まさか、エステラさんがあのワイバーンを……)
エステラさんなら召喚魔法を使えてもおかしくない。
「あれは、君の仕業なのか?」
「そうよ、アンタがワイバーンを倒しただけじゃなく、
私たちの仕事の邪魔までした」
「仕事って泥棒じゃないか!」
「うるさい!」
叫びと共に、矢が放たれ、僕はそれを双剣で払う。
そして僕は、
「どうして……」
と言いかけた時
「グォォォォォォォン!」
という咆哮が聞こえた。声の方を向くと
「レックスドラゴン」
ディノスドラゴンと同じくディドラゴンの一体。
異界で、既に滅んだティラノサウルスって奴に似た魔獣。そいつが姿があった。
そして魔獣に気を取られた隙に、
「あっ!」
エステラさんには逃げられていた。
「グォォォォォォォン!」
レックスドラゴンが迫って来ていた。コイツは執念深い所があるから、
何処までも追って来る。僕は双剣を仕舞い、大剣を召喚して装備した。
そして戦いを挑む。
「はぁあああ!」
突進して来る魔獣に対し、正面から突っ込む。
火を噴いてきたが、鎧の丈夫さは知っていたから構わず突っ込む。
炎を突き抜け、激突する寸前に横に避け、
すれ違いざまに大剣を振るう。魔獣は僕の一撃で真っ二つになり、絶命した。
「ふぅ」
もう薬草取りは終えているから、今度こそ僕は、この場を後にした。
ただエステラさんの事、ガエルさんと一緒に勇者になると言って、
僕を置いていった彼女の身に何があったのか、
と言うか一緒にいたガエルさん達もどうなったのか、僕は気になっていた。
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