第19話 武の最後
フミを人知れず守っていた武であったが、六年後、病魔に侵された。誠助と同じく肺癌であった。
I市の病院に入院した武に付き添ったのは、タエとフミ、そして時々、フミの長女 緑だった。
志津や誠の妻 佳寿子も武の世話に乗り出そうとしたが、タエとフミは決して武に触れさせなかった。武の背中には刺青がある。志津や佳寿子は興味本意でその刺青を見たがってるのを察知していた。フミとタエは、緑と医師と看護師以外、誰にも武の背中を見られぬよう守った。
フミは幼少の頃の武を労るように優しく介護した。武は自分の為に寝る間も惜しんで傍にいてくれるフミを気遣った。病院の職員は誰もが本当の親子と疑わなかった。タエは二人の姿が切なかった。いつまでも一緒にいさせてあげたいと願った。
癌に蝕まれていく武はどんどん痩せていった。痩せた武の様子に誰もが息を飲んだ。誠助にそっくりなのである。
血の繋がりのない誠助と武が、何故似てくるのかわからない。それでも、どうしても二人が重なって見えてしまう。そしてその顔を見ると、きっと誠助の下に行ってしまうのだろう、と感じてしまう。
そして起き上がることができなくなった武は、脈が弱々しくなっていった。フミは武の手をきつく握って、子供を励ますように声をかけた。
「武、母ちゃんここだぞ。頑張れ、母ちゃん傍にいっからな」
武は、フミとタエと健司に見守られていた。最後に、かすれた声でタエに託した。
「母ちゃん、たのむ...」
タエは何度も何度も頷いた。
そして武は静かに息を引き取った。
フミは取り乱した。誠助の死んだ時とは比べ物にならないほどに。
「武!行ってはダメだ!まだ早ぇ!武!まだ父ちゃん呼んでねぇぞ!武!」
武の肩に手をかけ揺するフミに、健司と医師や看護師が驚き制止した。タエはフミを抱きしめた。フミはハラハラと涙を流し、タエに支えられながらまた武に近づいた。そして武の頬にそっと手を当てながら自分の頬をつけた。
「武、よく頑張った..」
タエはフミの背中をさすりながら泣いた。
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