第18話 山村家の長男の結婚

 数年後、山村家の長男 誠一の結婚が決まった。隣町の農家の娘、志津である。くせ毛で少し前歯が出ているが目のパッチリとした娘であった。

 志津は気が強く、人に弱味を見せるのが嫌いだった。その為、朝は誰よりも早く起き、夜は一番遅く床についた。

 志津はタケ子とタエの二人が山村家の台所仕事の手伝いや、子守りをするために家に出入りするのを不快に思っていた。志津は次第にそれを態度に出すようになり、タケ子とタエの二人は、だんだんと山村家の家に入るのを遠慮するようになり、遠ざかった。

 すると、誠一の様子も少しずつ変わっていった。今まで武を兄として頼り、慕っていたのが "自分が長男で跡取りだ" と意識し、張り合うようになってきた。武もまた、長男である誠一を立て、出稼ぎに行くことを決め、丸誠商店から身を引く事にした。

 誠助とフミは歯がゆい思いであった。二人にとって藤井家はなくてはならない存在だ。しかし、家の中が円満に廻ることを優先せざる得なかった。

 それでも誠助とフミは、いつでも何時でも顔を見せるようにと、武とタエとタケ子に言った。その後は、居間や台所を避け、直接誠助とフミの部屋にタケ子とタエはちょくちょく顔を出し、二人に会いに行くようになり、武も出稼ぎから帰ると誠助とフミに必ず会いに行った。


 それから月日が流れ、誠助が七十七才で亡くなると、間もなく誠一が志津の要求により出稼ぎに出るようになった。

 誠一の目を盗み、フミが志津に辛く当たられ始めると、すでに定年を迎えていた武は、すぐさま行動を起こした。毎日フミに会いに行き、「フミばあと茶を飲みに来た」と言って毎日フミの部屋に入り浸り、志津からフミを守った。そして、志津がフミに悪態をつかぬよう目を光らせた。

 志津は男と女の前では態度を変える。癪に触る女はいじめ、どんな男の前でも "良い女" を演じ分けた。その為、誠一と結婚した後も町の男との噂が絶えなかった。しかし、誠一は気が短く、腕っぷしも強く体も大きかったため、皆恐れて誰も誠一の耳には入れなかった。だが、フミの耳には入っていた。フミは大層心を痛め、志津に苦言を呈したが、志津は逆にフミを恨んだ。

 その頃既に武の実母タケ子は、五十四才という若さで死去していた。大人になった息子の健司も町のタクシー会社で働いており、タエと三人で慎ましい暮らしをしていたので、時間の許す限り武はフミのもとを訪ね、傍にいた。そんな武に志津は、笑顔まで振り撒き何も言わなかった。武は志津の男に対するその癖を利用した。

 だが武は気付いていた。何故誠一が出稼ぎに行かねばならなかったのかを。そして志津の欲の深さと浪費癖を。

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