第14話 誠助と丸誠商店

 誠助は、自分の故郷に物資が入って来ず、人々の気持ちが弱り、暗く活気を失っていることに「何とかしなければ」と思った。そして山村家の眠っている土地を売り、トラックを購入した。村の人々は車もあまり見たことが無く、その上トラックを見るのも初めてだったため、「何事か?」と、驚きと興味でトラックの周りを囲んだ。誠助は笑顔で乗り込み、クラクションを鳴らしトラックを勢い良く走らせて行った。

 

 誠助はトラックを走らせながら、生活に必要な物資を集めた。どこに行けば何が手に入るか、情報を取りながらひたすらトラックを走らせて物資を調達した。そして数日後、トラック一杯にあらゆる物を載せた誠助が村に帰ってきた。

誠助のトラックに集まった人々は、目の前の山のように積まれた生活用品に心を踊らせ、喜んだ。誠助は人々の明るい笑顔に、確信を持った。

「村は甦る」

これが、丸誠商店の始まりであった。フミはタケ子と築いてきた食堂を閉め、その代わり丸誠商店として生まれ変わった店で誠助と共に働いた。フミは誠助がいることがとても心強く、タケ子と武もそばにいてくれることが嬉しかった。

 

 武はいつも誠助の姿を、憧れと誇らしい気持ちで見つめていた。

 武は小学生のうちは、その後誠助とフミ夫婦の間に生まれた誠一、誠次の子供らを子守りしていたが、中学にあがると、週末は誠助のトラックの助手席に乗り、仕事を手伝うようになった。誠助に憧れていた武は、少しでも一緒にいられる、役に立てる、と喜んでいた。

 武の母タケ子は、武が誠助を心底尊敬していることや、誠助とフミを本当の子供達と同じ様に「父ちゃん、母ちゃん」と慕っている様子を心配した。特に、武が誠助を父親と錯覚していることを恐れたタケ子は、

「誠助とフミは自分達親子の恩人であり、誠助夫婦の子供達とお前は違う」

と言い聞かせた。そう言われる度に、武は言い様のない不満を覚えた。

「何でおらだけ違うんだ。おらも父ちゃん母ちゃんの子として生まれたかった」

でもそれは、言ってはいけないことだとわかっていた武は、タケ子を恨めしそうに見つめるだけだった。そして誠助とフミの間に誠、緑が生まれ、武は皆に "武兄ちゃん" と呼ばれていた。

 その頃になると、村は丸誠商店の他いろいろな店が立ち、水産加工業も出来て、丸誠商店は運送も引き受けるようになった。活気が出てきた村はやがて町になり、町議会選挙が行われることになる。すると町民から町を復興させた誠助を推す声が上がり、誠助は町議会議員に立候補、そして当選の後、議長をも勤めることとなった。誠助は事業家と政治家の二足の草鞋を履くこととなったのである。

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