第11話 志津の本性

 山村フミは夫の誠助が病の床に伏すまで、七十を過ぎても丸誠商店の経営を、家計を、息子夫婦に渡さなかった。その理由は、長男 誠一の妻、志津にあった。

 志津はK町の貧しい百姓の娘であった。誠一との結婚で丸誠商店に嫁ぐことが決まると "玉の輿" と、もてはやされた。志津は働き者ではあったが、ある"癖" を持っていた。店の売上金からお金をくすねるのである。誠助が一度叱った事があったが、すっかり志津に頭の上がらなくなっていた誠一が妻を庇って暴れ、手に負えなくなった。その後、フミは毎日店に立ち、寝るときは金庫を寝床に持ち込むようになった。

 そして、病に伏した誠助がとうとう逝ってしまってから間もなく、志津は誠一に出稼ぎへ行くよう説き伏せた。誠一は誠助と共に大型免許を持ちトラックの運転をしていた為、難なく仕事が見つかった。

 誠一が家から居なくなると、いよいよ志津は隠すことなく自由に浪費を重ねるようになる。テレビをつけ通販番組を見さえすれば、貴金属等、気に入ったものを見つける毎に電話をかけ、購入した。丸誠商店には仕入商品以外の宅配便が次々届くようになった。

 また、高級店がない田舎のO町には、訪問販売がよく訪れた。すると志津は喜んで招き入れ、高級布団や着物、宝飾品や食器等々買い漁りだした。店の向かいの木造の車庫には、そういった業者の車が入れ替わり来ては停めていた。

 あっという間に資金は底をついた。そして志津は、姑である山村フミにお金をせびった。だがフミが抵抗すると、フミの居ぬ間にフミのタンスや戸棚を荒らし、預金通帳を探し漁った。どれ程荒らされても、フミの毅然とした態度が変わらないとなると、志津は次第に切羽詰まり、フミに対する虐待が始まっていった。暴言から始まった虐待は、次第に暴力となった。ある日、目の周りを紫にしたフミの顔を見た店の客は、驚きと共に噂を広めた。すると志津は見えない部分を小突づくようになり、フミの食事を抜くようになった。と同時に、世間や家族、親戚に「ボケてきた」と吹聴するようになる。フミがいくら志津にされてることを他の誰かに訴え、助けを求めても、「認知症の症状」だと思うよう印象を操作したのだった。

 そしてある日ある時、フミは階段から突き落とされ、大腿骨を骨折した。救急車で運ばれたフミはI市の総合病院へ搬送され、入院を余儀なくされた。すると、志津は姑もいない、夫も出稼ぎでいない隙に、土地や家を抵当に入れ借金をし、現金を手にした。

 あとは、志津の欲望の赴くまま、であった。


 

 二人の刑事は息を飲んだ。聞いた話が頭の中で映像化され、嫌と言うほどに想像された辛かったフミの様子が、脳裏を支配して離れない。

「借金がどうしようもなくなってから、孫の百合に話がいった」

話す平蔵もまた、辛そうであたった。

「百合は泣いて泣いて、泣き叫んだ。旦那に申し訳ねぇって。迷惑かけられねぇって離婚の話もしたみてぇだが、百合の旦那が応じなかった。一緒に背負う、別れねぇってな。大したもんだ」

矢野刑事が、口を挟んだ。

「平蔵さん、フミさんが生前どんな目にあってたかわかりました。ですがフミさんを死に至らしめた毒の出所がわからないんです。農薬やなんかではありません。この町でそれが手に入れられる者、あるいはそうい世界に出入りできる人をご存知ないですか?」

平蔵は黙った。何か考えてるようだった。しばらく沈黙した後、こう言った。

「おらが知ってる丸誠の全てを話してやる。あとはあんたらで考えろ。時間あるか?長ぇぞ?」

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