第一幕:ミナモトノウズマの冒険

第1話

ビョオオオオオオ…!

バシッバシッバシッバシッ!


 生木なまぎの束に向かって、長く太い木の棒を握りしめた幼年犬士ウズマが、遠吠えの型という独特のうなり声をあげ、棒を振り上げては振り下ろし、横木に木刀を叩きつける所作を繰り返していた。



ビョオオオオオオ…!

バシッバシッバシッバシッ!


 生木のたばがしなり、折れて砕けんばかりのギシッギシッという音をたてながら、彼の稽古は続く。


 ミナモトノウズマは頭が茶の柴犬をしている犬人である。

 犬人は頭以外は体毛薄くニンゲンに近い種族で、ウズマは頭の茶色の毛並みから大量の汗を流した。


「朝から精がでるじゃないか、ウズマ」


 頭が白い狐である白狐の民のフジワラノフジツチカノカミ、略してフジがやって来て、庭で稽古するウズマに声をかけた。

 白狐の民は反対に人型だが皮毛が多い。


「フジ様。おはようございます。」


「うん。おはよう。」フジは軽く手をあげる。


 フジとウズマは同じ年に産まれた。血による身分は上司と部下で違えども、小さい頃に遊びあった幼なじみの関係であった。


「今朝は折り入って、お前に話があるのだ。」


「話と申しますと?」


 ウズマは棒を右脇に置き、土に拳をついて言葉を待った。


「うん、今度、みかど様の御所から、宝物である五弦の琵琶が外れの倉に運ばれる事になってね。」


 フジは少々勿体ぶった口調で話した。


「ウズマに道中の警護の長を任せたい。」


「…えっ!?」ウズマは思わず驚いた。


「出来るね?」


「何が何でもやりとげます!しかし、何故、それがしを?」


 気合がはじける幼なじみに、フジは優しく声をかけた。


「帝は琵琶をもうひとつ手に入れたり、古い方の琵琶をモノオサメの倉にあずけることにしたのだ。屋敷の外れの倉に琵琶を納めるだけ。道中に何があるとも思えない。いい経験になる。」


 下顎したあごの白い毛をさすりながらフジが続ける。


「要するに、いつもの私の贔屓ひいきというわけさ。やっておくれ。」


「承知しました。身に余る大役ですが、是非ともやらせてください!」


 ウズマの両親は、母親は産褥熱さんじょくねつで、父親は鬼の山賊を束ねていたシュテンとの闘いで命を落としている。


 フジはこれを不憫に思っているのか、事あるごとにウズマを気にかけ抜擢ばってきさせることがあった。ウズマはその期待に応えたかった。


「今日の正午頃に琵琶をうつす。無事に終われば、今年の名前改めでミナモトノウズマサと名乗るのはどうだ?」


「ウズマサ…」


 幼年犬士は仮免許の呼称で、本来の犬士として成人する際に、名前改めてといって名前を変える。ミナモトノウズマサの響きにウズマの胸が高鳴った。


「頑張ります!」


 ウズマは頭を深く下げた。

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