第3話 猶予
「ケイ様の今後ですが、申し訳ありませんが貴方様を元の世界に戻す事はできません」
ま、予想できていた回答だ。
数千年を跳躍するだけの魔力を何度も用意できるとは思えない。
「それでは、私はどうなるんでしょうか?」
「一月ほど、この王城でこの世界の事について学んでいただき、その後は自由という事に……」
申し訳なさそうな表情で、彼女はそう言う。
これが、第二王女様でない別の人物なら文句の一つも言っていたかもしれない。
勝手に呼びつけ、要らないから出ていけ。
そんな暴論に口答えしない程、真面目な性格はしていない。
けど、本当に申し訳なさそうに彼女は言うのだ。
しかも相手は、まだ10代前半なんじゃ無いかって歳。
「分かりました。それで構いません」
一応、魔法は問題なく使える。
ならば職に困る事も無いだろう。
「それではケイ様が王城に滞在する間、使用人と私が要望を受けますので」
「お姫様が自ら? いいですよ。私は勇者ではないのですから」
あの男が勇者、という部分には疑問が残る。
しかし、自分が勇者じゃないって事は寧ろ同意だ。
だから、そんな俺に一国のプリンセスが世話をするという状況が飲み込めない。
「いえ、ケイ様は父上が国の為に実行した無理な召喚に応えて頂いた恩人。それを蔑ろにする事等できようはずもありません。……私に力が無くてごめんなさい」
それは、俺を追い出す事に対しての謝罪なのだろう。
深々と頭を下げる彼女を見ているのは居心地が悪い。
「あ、あぁじゃあ王宮にいる間にこの世界の魔法について学んでもいいですかね?」
「はい。ケイ様の要望は可能な限り聞かせていただきます」
それから、俺の王城での自堕落な生活が始まった。
◆
昨夜確認したが、『アルカナボックス』の術式が使えた。
最大22種の道具をカード化する術式だ。
しかも、この中の道具は魔力を消費する事で複製する事ができる。
まぁ、複製品は1日程度で魔力に戻るのだけど。
「と言う訳で、コーラうま」
俺の場合、一番複製量が多かったのがこれだ。
美味い。
けど、勝手に魔力に戻るから身体に悪い要素は皆無。
「そしてポテチ……」
社内で、たまにこれで宴をしていた事は内緒である。
21番と20番には、大量のジュース類とお菓子が入っている。
これをコピーして貪るのが俺の隠れた趣味だ。
そして、2週間くらい徹夜続きで仕事をしてやっと眠れた今日。
その宴を開催しない事は無理だった。
「後は、錠剤食っとくか」
魔力変化式軍用完全栄養食。
パラノライア。
飲むと、一日何も食べなくても栄養失調が無くなる。
魔力変化される事を前提に作られているから、食っとけば栄養失調になる事は無くなる。
だからって労働時間多すぎるけど。
「そして何より漫画だ」
デバイスで見る漫画もいい。
しかし、紙も捨てがたい良さがある。
アルカナボックス内には俺が集めた漫画が300冊以上入っている。
いつか読みたいと買っていた。
けど仕事が忙し過ぎて読めなかった漫画たち。
このチャンスに消化していくとしよう。
高級ソファで寝そべって、ポテチを貪りコーラを胃に流し込む。
油のついた指なんて気にせずに漫画のページを捲っていく。
けど、なんか暑いな。
冷房とか無いもんなこの時代。
ズボンうぜぇ。
ベルトとかしてられんて。
スーツで来たのが良く無かったな。
ワイシャツのボタンを外す。
ズボンを脱いだ。
めちゃくちゃに快適になった。
ガ
チ
ャ
「何を、しているのですか?」
「え……」
姫様が、扉の前に立っていた。
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