第2話 勇者召喚
「魔王が出現し、魔族と魔物を率いて人を脅かし始めたのが3年程前です。しかし、その3年で人間の国が4カ国滅亡致しました。その状況を打破するべく残り3カ国でそれぞれ勇者召喚の儀式魔法が実行され……」
「現れたのが俺という訳ですか」
「はい」
状況は何となく把握した。
しかし、ミッドレイセル王国か。
聞いた名前だ。
大昔の大国。
しかも、魔族に滅ぼされる国だ。
勇者召喚とか、細かくどんな対抗をしたかは知らない。
しかし、ここが俺の知っているミッドレイセル王国なら、この国は遠くない未来に魔族に滅ぼされる。
歴史の授業で習った話だ。
「一応、暦を聞いてもいいか?」
「今は聖歴439年です」
おぉ、俺の知っている人魔歴の一つ前の時代だ。
って事は、大体2000年くらい前になる。
計算が合うって事は、多分過去で間違いないんだろうな。
あの日、実験中だった魔法は時空属性の時間転移魔法だった。
それが暴走して、多分この勇者召喚の魔法がマーキングと認識されたんだろう。
2000年の時間跳躍に当たる莫大な魔力の産出元だけ謎だが、理論的に無理のある話では無い。
「勇者って何すればいいんですかね?」
「それが、まだケイ様が勇者かどうか不明なのです」
「勇者召喚? で出て来たんだから勇者じゃないんですか?」
「それが、召喚された人物は2名居りまして、どちらが勇者かは今から国王が判断する予定となっております」
だから、第二の方の王女様が俺と一緒に居る訳か。
第一の方は、そのもう一人に事情を説明しているのだろう。
「ケイ様の体調がよろしければ、もうお一方は目覚めておりますので」
「いいですよ。行きます」
正直、分からない事もかなり多い。
しかし、行動しなければその分からない事は分からないままだ。
「それでは、行きましょうか」
第二王女に連れられ、俺は玉座の間に案内された。
扉を跨いで前方、中心に居座るのが王。
その横が王妃か。
それ以外も周りには重鎮っぽいのが揃っている。
そして、俺より少し遅れて男女がもう一組現れる。
赤毛の男とブロンドの金髪の女。
これが、もう一人の勇者候補と第一王女かな。
って、クソ若いな。
10代なんじゃ無いのか。
俺もう30手前だぞ。
差あり過ぎるだろ。
「それでは勇者候補よ。それぞれ魔法を見せて欲しい」
言うと同時に玉座の間に結界が展開される。
古典的な支柱結界だ。
結界の角となる部分に人間を配置し、その線状に結界を構築する。
一応、地面と天井も守られてるな。
けど、こんなのクラックされたら対抗策ないだろ。
「国一番の結界魔法だ。その中なら、どんな魔法でも撃って問題あるまい」
嘘だろ……
いや、2000年前の魔法技術なんだからこんなモンなのか?
「
控えていた魔導士の一人がそう呟くと、結界の中央に氷でできたゴーレムが出現する。
「そのアイスゴーレムに魔法を撃ち込んでもらい、その結果で勇者を決める」
「お先にどうぞ。おじさん」
赤毛の男が、そう言いながら仕草で俺に順番を譲る。
「そうか。まぁ、先頭に立つのは年上の役目だからな。子供は後にした方がいい」
そう言い返すと、少しムッとした表情を浮かべる。
若いな。
いやまぁ、俺も同レベルだけど。
若いって誉め言葉だしいいか。
「じゃあ、僭越ながら」
魔力を指先に集める。
現代魔導士の基本魔法。
大体、これ一種類で戦闘になる。
「マジックバレット」
回転を加え、弾きだす様に指先から魔力を放つ。
魔力の弾はアイスゴーレムを額を抉る。
同時に、この弾丸を撃ち込まれた対象は魔力の波長が乱れるのだ。
今の時点でアイスゴーレムは無力化され、動作不能。
そして、3分もすれば維持もままならず消滅するだろう。
「う……うむ。では次」
「はい。それじゃあ僕の番ですね」
何か、馬鹿にした様な笑みを浮かべながら赤毛の男が俺と入れ替わりでアイスゴーレムの前に立つ。
「王様、僕は300年後の未来から来ました」
なんか言い出した。
って、俺と同じ状況じゃ無いか。
「300年後、世界は魔族に支配されています。しかし、俺はそれが許せない。だから必ずこの時代の魔族を殲滅し、未来の人々を救います!」
「ほう! それほどの力がお主にあるのか?」
笑みを浮かべて、王冠を被った王様が玉座から身を乗り出す。
「えぇ、何せ僕は未来でSランク魔導士と呼ばれるトップ魔法使いですから」
Sランク。
それが本当なら大したものだ。
俺も魔術師ランクというのを持っている。
しかし俺の場合はBランク。
Sランクなんて一握りの天才しか至れない称号だ。
「ドラゴンフォース」
火、水、風、土。
四種の属性魔力を龍の形状に変化させて突撃させる魔法。
それが、アイスゴーレムにぶち当たる。
「おぉ! アイスゴーレムどころか結界の一部まで破壊してしまうとは!」
は?
アイスゴーレムは俺がマジックバレットを当てたから魔力が揺らいで消滅した。
結界も、マジックバレットが貫通した結果だ。
だいたい、あの無駄の極みみたいな魔法はなんだ。
何故、魔力を龍の形状に拡散させるのか。
形状変化に必要な集中力なんて全部無駄だろ。
それに、四属性全部発動したら有利属性の意味ないだろ。
何故相手の属性は明確なのに、効かない属性まで練り込むのか。
それができるなら、有効な属性に全振りしろよ。
まずい。
研究職の悪い所が出た。
もしかしたら、あの魔法にも俺には分からない仕掛けがあるのかもしれない。
見ただけで判断するのは良く無いな。
「これは、決まりの様だな」
「あぁ、王様ちょっといいでしょうか?」
手を上げながらそう声をかける。
流石に、俺のマジックバレットの効果は説明しておく必要があるだろう。
どっちが勇者とかはどうでもいいが、研究者として説明も仕事の内だ。
「ねぇおじさん、言い訳はみっともないでしょ」
俺と国王の会話を遮って、赤毛の男が入って来た。
「僕が、このレイ・アノルドが勇者だ。結果を見れば明白だろう。あんたの魔法はゴーレムに穴を一つ開けただけ、ゴーレムの事を知らないのかもしれないけどあの程度のダメージならゴーレムは動くよ」
「いや、そう言う事じゃ無くてだな」
何というか子供は扱いに困る。
そんな自信満々に間違った事を言われてどうしたらいいんだ。
「ケイ殿だったか、悪いがレイ殿の言う通りだ。勇者は其方では無い、悪いが退室して貰えるか?」
国王までそう言いやがった。
周りの連中も、俺を……あぁ、魔導士共が俺に向ける視線と同じ目で俺を見てきやがる。
「……分かりました」
もういい。
俺は研究員で、魔法の効果を説明するのも仕事だ。
けど、よく考えたらここに居る誰からも給料とか貰ってない。
「ケイ様、こちらに」
俺は第二王女の案内の元、玉座の間を退室した。
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