B級魔術師、2000年前に召喚される ~未来の魔法は地味だから弱いと追放されたので冒険者やってみる~
水色の山葵/ズイ
第1話 目下の隈
あぁ、最後に寝たのはいつだろうか。
ゾンビの様に体を起こし、俺はデスクに向かう。
ゾンビ化の魔法でも開発しようか。
面白くねぇ……
魔術式のハードウェアに必要情報を入力する。
魔法の開発を進める。
実験して、実験して、失敗し続ける。
100回に1度くらい成功する。
そうなってやっと俺は眠りに着ける。
それが魔術師の日常。
魔術開発師部長。
略して魔術師と呼ばれる職業が俺の仕事だ。
部長まで来たはいいが、平の時から変わった事と言えば下からの庄も増えた事くらい。
平社員の時は、無理難題を持ってくる上司にイライラしていた。
けれど、今になってあの上司の気持ちが分かる。
俺たちが開発した魔法は魔導士が使う。
それで、戦果を挙げる魔導士たち。
彼等は、総じて俺たちを見下している。
その風潮は行政にも言える事だ。
要するに、基本的に投げられる業務内容や予算がふざけているのだ。
戦いができないから魔導士ではなく魔術師なんてやっている。
そんな視線といつも俺たちは向き合わなければならない。
そして、それは自己嫌悪にも繋がった。
結果的に、職場の空気は最悪。
「すまん。皆働きづめにしてしまって。今度何か奢るよ」
「そんなん言うんだったら受注する仕事量考えて下さいよ……すんません……」
「いや、そうだよな……」
部下からそう言われるのも当たり前だ。
部署の人数に対して仕事量が間に合っていない。
魔導士は戦時以外は遊んでいるのをよく見かける。
まぁ、その度に見下されるが。
それで魔導士より給料が少ないんだからふざけてるだろ。
ここはある種の地獄だ。
目が霞む。
体力増強の魔法を何重にも掛けているのに、それも限界か。
寿命、伸ばす魔法また使わないとな……
「時空属性の魔法研究。転移魔法で時を遡る」
それが今、この部署が指示された魔法内容だ。
そんな魔法作れる訳ねぇだろ。
と、ツッコミを入れてもきっと上の態度は変わらない。
まぁ、3秒程度の過去転移ならマーキング付きで可能。
みたいな感じで、提示された現象に再現可能な制限を付けていく。
魔法を使ってから3秒後、1度目の魔法を使ったタイミングにタイムリープする。
それ位が現代魔法理論の限界な気がする。
「実験しねぇと」
魔法デバイスの決定キーを入力する。
「は?」
部屋中に魔法陣が展開された。
「術式が暴走してる……!?」
安全確保の資金足りてねぇんだよ馬鹿が。
「皆! 肉体強化掛けて! 多分事故った!」
そう指示をするだけで限界だった。
同時に、俺の意識が昏倒するのを感じた。
もう無理、眠すぎる。
事故ったなら、救急搬送されるだろうし。
寝てもいいよな。
◆
知らない天上だった。
というか、天幕が着いてるこのベッド。
横を見ると窓から光が差し込んでいる。
窓でか!
巨人サイズだ。
というかベッド広すぎるだろ。
トリプルベッドってこんな感じなのか?
「お目覚めになられましたか? 勇者様」
窓と逆。
扉がある方向に視線を向ける。
そこにはプラチナの髪を靡かせた幼い少女が座っていた。
「誰……?」
「私はミッドレイセル王国第二王女、メイア・スノー・ミッドレイセルでございます。もしよろしければ、勇者様のお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」
純白のドレスの裾を持ち、そう言う。
まるで大昔に居た貴族の様な一礼だ。
「茂上ケイ……です」
年下でも、そんな佇まいで来られると思わず敬語が出てしまう。
「ケイ様ですね。この度は、我らの召喚にお応え頂き感謝致しますわ」
天使と見紛う様な微笑みを浮かべ、彼女は俺にそう言った。
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