第6話 パーティー②
豪奢なシャンデリア、点々とあるテーブルの上には果物やデザートの皿がある。
来賓者はマスクを被り、シャンパングラスを持ちつつ談笑。
ボーイ達はシャンパングラスを乗せたトレイや空になったグラスを持って会場を周っている。
向かって左奥には楽器団がいて曲を奏でている。そして広間の中央ではマスクを被った来賓者が踊っている。
俺はダンスパーティーなんて初めてだし、ましや貴族の仮面舞踏会なんてどうすればいいかさっぱりだ。
ええと、女に声をかけるの? 誘うの?
どうやって?
シャルウィーダンス?
いやいや、それ英語だし。通じない。
うわー、嫌だなー。
ナンパもしたことないのに。こんなの無理だよ。ううぅ。
右を見る。左を見る。
…………。
だ、誰を誘えば。勿論、踊った後に誘うのは駄目だよね。
あわわわわ。
もう誘わないというのも手では?
だって絶対踊れっていう決まりはないのだし。
そもそもダンスなんて知らないし。
……足が痛いフリでもしようかな。
「バーナード?」
「ふへぇ」
考え中に声をかけられて、びっくりした。
俺に声をかけたのは赤い蝶の仮面を被った女性だった。
胸元がぱっくりしている白のドレスを着ていて、胸元からは大きな胸が……。
おっとガン見はいかん。
「どちら様で?」
「私よ。ジニーよ」
!? その声は確かにジニー。
「お前、ここは貴族のパーティーだぞ。庶民のお前がなんでここに!?」
「それはこっちのセリフよ!」
「俺は仕事だよ?」
「は? ボーイ?」
「違うよ。レイモンド卿の代理で来たんだよ」
「レイモン……」
「馬鹿」
俺はジニーの口を手で塞ぐ。
「ここでその名前を出すな」
手を口からどけると、ジニーは「分かったわよ」と不機嫌に言う。
「で、お前はどうしてここに?」
「ペネロペに元の職場に戻りたかったらパーティーに参加しろって言われて」
「元の職場? そういえば検察庁で働いていたな」
「出向みたいな。で、ペネロペがパーティーに参加したら俺がなんとかしてやるって」
「最低だな。ペネロペもここに?」
「ううん。ここには私だけ?」
「そのパーティードレスは?」
「ペネロペが用意した」
センスは悪くない。
「胸見るな!」
おっと。マナー違反だ。
「すまない。でも、そのドレスだとつい見てしまう」
「うう。あいつ、絶対分かってこのパーティードレスを渡したんだ」
ジニーは恥ずかしそうに胸の前に手を置く。
「でも、当の本人はいないのだろ?」
それはちょっとおかしくないか?
自分の連れとして自慢したいならペネロペも出席しないといけないし、ジニーにパーティードレスを着させて視姦したいなら、これまた本人も出席すべきなはず。
「ペネロペの目的はなんだ?」
「さあ、本当にあんたと同じように代理で出席させたかったとか?」
「ゴマスリが
「知らない。ま、結局考えても分かんないんだし、お相手願える?」
「ダンスの?」
「そうよ」
「俺、初めてなんだが」
「仕方ないわね。私がエスコートしてあげるわ」
◯
「何がエスコートだ。何回俺の足を踏むんだよ」
「あんたも踏んでたでしょ。しかも、他の人にぶつかりそうになるし。てか、胸ばっか見るな!」
周りに笑われていないが、俺達のダンスはさんざんだったと思う。
ジニーはボーイからシャンパンの入ったグラスを受け取る。
俺も飲もうかなと思ったら、グラスはもうなかった。
そこで俺はシャンパングラスを配っている別のボーイを見つけ、シャンパングラスを取りに行く。その時、俺と同じくボーイからシャンパングラスを受け取る人物に目がいった。
「あんた……ペネロペと一緒にいたやつじゃないか?」
「?」
その男は黒のマスクをしていたが、俺には分かる。
「ほら、つい先日、ペネロペと殴り合った俺だよ」
と俺は自身を指差して答える。
「ペネロペ? どちら様でしょうか。では、私は」
男は俺に会釈してそそくさと去る。
あれ? 人違い? いや、あいつだったはず。
もしかしてあの時のことでいちゃもんつけられるのではと思って去ったのかな?
でもあの時、あいつは喧嘩には参加していなかったから後ろめたいことはないんだけど。
ま、いっか。
「あれ?」
ジニーのところへ戻ろうと振り向いた時、先程いたところにはジニーの姿がなかった。
「見事なダンスでしたよ」
「のわっ!」
急に声をかけられ俺は驚いた。
「お前か!」
なんでどいつこいつも考えている時に声をかけるんだ。
寿命縮むわ。
「どこほっつき歩いてたんだよ」
「変装と目隠しのおかげですかね。ご令嬢の方々から声をかけられましてね」
「モテてようごさんすね」
「あなたも美しい人と踊っていたじゃありませんか」
「ジニーは友人」
と、そこで演奏が止み、ダンスを踊っていた来賓者達は
「何だ?」
「お静かに。演目ですよ」
「演目?」
周りもさして驚いていなかった。というか声を上げたのは俺を含め幾人か。
ダンスをしていた中央にライトが当てられ、そこに役者が現れる。その役者が奇声を上げると演奏が流れて、ミニミュージカルが始まった。
役者は次々と観客の隙間から現れ、中央に向かう。
よく見ると男役を女性が。女役を男性が務めている。
ストーリーはさっぱりだが、コミカルなダンスで目を奪われるほど面白かった。
後半あたりで俺の側を役者がセリフを出して現れた時、つい驚いた。
昔というか転生前、大阪に旅行で行った時に見た劇団季節の『ドッグ』を思い出した。あの時も途中で役者が観客席側に現れて驚いたものだ。
そしてミニミュージカルが終わり、観客からは拍手喝采が放たれる。
照明も元に戻り、役者達は外へ出て行く。
そしてまた仮面舞踏会が始まった。
「さっきのあれすご……あれ?」
隣にいたレイモンド卿がいつの間にかいなかった。
「なんだよあいつ」
さて、どうしたものか。誰か誘ってダンス。いや、さっきは全然だったしやめよう。しかし、ここにじっとしていてはおかしいし。
そこでふと、解放されたドアを見つけた。時折、来賓者がそのドアをくぐっている。ドア付近に立つ使用人達も何も言わないから、くぐっても問題ないのだろう。
俺もドアをくぐろうと足を向ける。最悪止められてもトイレはどちらと聞けばいいし。
そして俺は使用人に止められることもなくドアをくぐった。
ドアの向こうは廊下で、左右に廊下が伸びている。
この道は主人に挨拶に向かった時に通った道ではないか?
つまり左を進んで右に折れたら主人の部屋に辿り着き、折れずに進んだら……どこに行くのかな?
試しに俺は左の道を折れずに進み続けた。
するとバルコニーに辿り着いた。
バルコニーは解放されていて幾人かの来賓者もといカップルが逢瀬を交わしていた。
このままUターンして戻るのも癪なので少しバルコニーを散策。
左回りにバルコニーを進んで俺は階段を見つけた。どうやら階上も解放されているのか俺はそのまま階段を上がる。
……。
そこもまたカップルが大勢いた。
俺はそそくさとバルコニーを進む。
リア充爆死しろ。
心の中で呪詛を吐き散らかして、俺は歩く。
そしてとうとう端に辿り着いてしまった。
どうしたものかと思っていたら柵を見つけた。柵は解放されていて、その向こうには
俺は階段を下りて階下のバルコニーに戻る。いや、よく見ると通ったバルコニーとは違う。
このバルコニーは左回りに続いているようだ。
つまりこの屋敷には右回りのバルコニーと左回りのバルコニーがあるということか。
頭の中で地図を描き、このまま進むと初めに通された待合室のある廊下だろうかに通じるドアがあるのかと考え、バルコニーを進む。
が、あれ? ない。もしかしてUターンかな?
けれどちょっと少し進むとドアがあった。
……これは屋敷の主人の部屋がある廊下では?
ドアを開けると左右に伸びる廊下と真っ直ぐの廊下があった。
真っ直ぐだと主人の部屋で、右に進めば待合室の方向かな?
「何してるんですか!?」
使用人の1人に……いや、老執事に見つかった。
「すみません。バルコニーを進んでいたらここに辿り着いて……」
「貴方はレイモンド卿!?。ん? バルコニーを進んで? 柵に鍵がしてあったはずですが?」
「開いてましたよ」
「え? そんな? まさか?」
「本当ですよ」
老執事は疑わしき目をしている。これまずいやつ。
「きゃあーーー!」
と、そこで女性の悲鳴が聞こえた。
俺と老執事は悲鳴の聞こえた部屋へと向かった。
意外にもこの老執事、かなりの健脚だ。
「何かありましたか?」
老執事はドアを叩く。しかし、部屋からは女性の慌てふためく悲鳴だけが聞こえる。
そして老執事はドアノブを回してドアを開けようとするが鍵が掛かっているようでドアが開かない。
「部屋を開けさていただきます」
老執事は合鍵を出して鍵穴に通す。
カチャリと音が鳴り、老執事はドアノブを回して中へと入る。
「坊っちゃま!」
そこには長男ゲイルが舌を出し、苦悶の表情で絶命していた。
そして部屋にはもう1人女性がいる。その女性は青い顔をして腰を抜かしていた。
「ジニー!?」
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