第5話 パーティー①
ドアがノックされた。
「どうぞ」
俺が許可するとレイモンド卿が入ってきた。
「おや。これまたなかなか」
「どうせ下町育ちの自分には似合いませんよ」
「そんなことはないよ。似合ってる、似合ってる」
2回言った。怪しい。
今、俺はレイモンド卿の屋敷に一週間後のパーティー用で着る礼服選びに来ている。そして日本でいう燕尾服に近いものを私は着せられた。袖を通しても分かるくらい良いものを着せられているが、姿見から見える俺はあまり様になっていないようだ。髪をセットしたり、多少は化粧を施されても生まれ持った顔つきのせいか見栄えよくならない。
そしてレイモンド卿はグレーのスーツ。一般的なスーツでパーティーの礼服とは言い難い。
「どうしてお前がそんな服なんだ? いつもの服って感じ」
「君が代表なんだから君より目立ってはいけないだろ」
並んでも多分、そっちが目立ちそう。
「……本当に俺が代理で? てか、会話とかどうするんだよ」
「それはこれを」
レイモンド卿は数枚の紙を俺に手渡す。
「なんだ?」
そこにはパーティーでの所作及び、主催者についてのデータ。そしてここ最近の貴族間の話題やこういう話をされたらこう返せという指示が書かれていた。
「これを覚えるように」
「まじか?」
「大丈夫。一週間もあれば暗記も可能だろう。それに内容も下町に噂で流れるものもあるしね」
確かに噂話で聞く内容もある。
……ということは噂話は実は?
◯
一週間後、俺はレイモンド家が所持する馬車でパーティー会場へと来ていた。
パーティー会場はザナード伯爵の屋敷で行われ、馬車が長く連なり門前で止まっては来賓を降ろしていた。
来賓は貴族や富裕層、成金、著名人で各々高そうなスーツやドレスを着ていた。
そして屋敷も城と言っても過言ではないくらい大きい。庭もきちんと手入れされているせいなのか、夜でもあっても柔らかく上品であった。
「お前のとこ全然違うな」
「僕のとこは立地が悪いのさ」
「立地だけあんなにおどろおどろしくなるか?」
「なるなる。さ、行こう」
今回、俺は代表ということで来ているので俺が先を歩かなくてはいけない。
開け放たれた扉の前で男性の使用人に、「招待状とお名前を」と聞かれて、胸ポケットから招待状を出して使用人に渡す。
「レイモンド家の代理として来たバーナード・ロバートソン。後ろのはお付きのアルトマン」
と答えると周囲がどよめいた。
「レイモンド家!?」、「あそこも呼んだのかよ」、「え、代理?」、「まじかよ」
視線が俺へと突き刺さる。
男性の使用人が、「少々お待ちを」と言って、急いで奥へと去る。
すぐに老執事らしき人がやって来て、
「レイモンド様ですね。どうぞこちらに」
と他の客とは違い、屋敷を案内された。
そして2階に上がり、広間とは反対に廊下を進み、ある部屋前に止まった。老執事はドアを開け、俺達を中へと
「しばし、ここでお待ちを。部屋の中のお茶菓子はどうぞご自由に」
と言い、老執事はドアを閉め、出て行った。
「お前、めっちゃ嫌われてるの?」
「主人への挨拶の順番が来るまで待つようにってことだよ」
「挨拶ってパーティーですればいいじゃん」
「パーティーといっても色々あるのさ」
とレイモンド卿は肩を竦める。
「でも嫌われてるのもあるかな。他の来賓を不愉快にさせないため、きちんと順番を決めてるということかな」
しばらく待っているとノックがされた。
「どうぞ」
「失礼します。当家の主人ミカエル様への下へご案内させていただきます」
レイモンド卿の動く気配がないのでどうしたものかと思っていると、
「君一人で行きな。お付きの者も一緒だとおかしいだろ?」
と言い、レイモンド卿は俺の背中を押す。
◯
部屋を出て広間のある方へ、そして広間の手前で右に曲がり、細い廊下を進む。廊下には広間に通じるドアが2つあり、それぞれに使用人が立っていた。
そして老執事を先頭にした俺達は右へと曲がり、廊下を進んで左手に装飾のあるドアへ辿り着いた。
どうやらそこが主人の待つ部屋であろう。
老執事がノックをし、
「レイモンド家の代理様をお連れ致しました」
と告げる。
中からの返答を聞いて、老執事はドアを開ける。
部屋にはソファに座る初老の男性、その隣には奥さんらしき初老の女性が。そしてそのソファの後ろには俺やレイモンド卿より少し年上な男性、そしてどこか不機嫌な赤いドレスの女性が立っていた。たぶん息子と娘であろう。
俺は一礼をして、
「本日はレイモンド家の代理として来ましたバーナード・ロバートソンです」
◯
「……では、これで」
なんとかきちんと挨拶はできたはず……。
すんげー緊張した。
もう途中から自分でも何を喋ってたのか分からなかったくらいだ。たぶん大丈夫。……うん、たぶん。
ソファから立ち上がった時、間の抜けた音が聞こえた。
音の方を見ると息子さんが口を押さえていた。どうやら息子さんが
ああ、俺の挨拶はつまらなかったのかな?
「ゲイル!」
主人が顔を顰める。
「さっきからはしたない!」
奥さんもきつく叱る。
さっきから? ということは俺のがつまらなかったというわけではない?
「すみません。昨夜は緊張でよく眠れなくて」
と言い、息子さんは俺に頭を下げる。
「ハハハ、分かります。私も代理としてきちんと出来るかどうか昨夜から緊張しっぱなしでしたよ」
部屋を出ると廊下に老執事が待っていて、
「広間へご案内致します」
これからレイモンド卿に報告へと思ってたところだった。
どうしよう。断ったら変に思われるのかな?
てか、ここに来るまでに広間の近くを通ったので場所は分かるんだけど。
「あ、はい、お願いします」
断れなかった。
……ま、いっか。
そして広間の前に連れられ、扉前の使用人から、「どうぞこちらを」とメガネのような白い仮面を渡された。
「これは?」
「仮面ですが」
老執事は何を当然なことをという風だ。
周り見ると皆、仮面を被っていた。
え?
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