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「それでは田中様の面談の方始めていきたいと思います。私、担当致します、伊勢とこっちが助手の向井です。よろしくお願いしますね」

 個別ブースに移り、求職者の田中さんの面談に入る。

 俺は研修を兼ねて、伊勢さんに同行することになった。

「電話とメールで少し伺いましたが、あちらでの就職をご希望だとか」

 ん? あちら?

「はい。どうも自分はこちらの世界に馴染めそうにないなと感じてまして」

 何の話だろうか。

 ポカンとして、聞き流している俺とは裏腹に伊勢さんはノートパソコンを立ち上げ、田中さんの言葉に頷きつつ、メモを取り始める。

「高校はなんとか卒業したものの、大学は行くのがしんどくなって自主退学状態で」

 ふむふむと相づちを打つ伊勢さん。

「そのうちに家に引きこもるようになったんです」

 今の日本にありがちなパターンだ。実際、俺もここで働いてなかったら、そうなる可能性があった。

「それで、ここのことをネットで知ったんです。で就職できるってこと」

 田中さんの言葉に伊勢さんがニッコリと笑う。

「ご希望に沿えるよう、いくつかの候補をご用意しています。向井君、資料を出してもらえますか」

「は、はい」

 俺は六法全書を綴じているのかと錯覚させられるような、分厚いファイルを渡されていた。

 その中の付箋がついているページを開く。

「こちらはいかがでしょう」

 えーと、ドラゴンの飼育員募集? ナニコレ。

 ちょっと意味が分からないですね。

 全力で目をバタフライさせている俺を差し置いて、話は続行される。

「ドラゴン良いですね」

 何が良いの? え、引きこもりでゲームでもやり過ぎたの?

 そして、これを仕事の候補として出す伊勢さんもどうなの? ヤバい人なの!?

「忍耐力と純粋な体力が必要となる仕事ですね。ブレスを吐かれるというリスクもありますが、とてもやり甲斐のある仕事です」

 お給料も結構良いですよ、と給金の欄を見せる。

「向こうのお金で、一ヶ月10万テンス」

 どこの国の通貨だよ。聞いたことないよ。日本円でいくらになるのか逆に気になるわ。

「日本円で、1000万円ですね」

 いや、俺がそこで働くわ。

「そんなにですか」

 田中さんが目を丸くして聞き返す。

「えぇ、田中様のご希望給与額が600万円からとなっていましたので」

「いや、年収でいいと思っていたんですけど、それも自分なんかが高望みでダメ元の設定なんですが……」

「あちらの世界ではこれが叶うのですよ」

 伊勢さんは満面の笑み。

 怖いよ、怖い。今、何の話をしてるのか全くついて行けないわ。

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